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第六話 敗北せよ悪魔ども!

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 恋人に顎を乗せられたニューイは喜ぶが、九蔵本人は俯き気味だ。


「でもさ、俺には普通が精いっぱいだと思うんだよ。お前みたいに、スペシャルを捧げられないから」


 しかも、弱音を吐く。
 表情を隠すことはやめても、ニューイの顔は見られない。

 ニューイは首を傾げている。
 なぜハッピーな時間にあって九蔵が弱音を吐き始めたのかはわからないのだろう。

 自分でもわからない。こんなこと、今までなら言わずに飲み込んで消化してきたはずなのに、口が閉じないのだ。


「精いっぱいの普通ケーキなのかい?」

「ん。今は休みだからできたけど、手間暇も金もかかったから頻繁には無理だし、やっぱ出来に自信もねーんだ」

「ふむ」

「お前は俺のために全力だし、俺のウジ虫を退治してくれるだろ? ……自信のない俺が慢心するくらい、ニューイは俺を最優先で愛してくれてる、よな」

「ふむ、ふむ」

「なんか、さ……ニューイさんのために全然頑張ってない俺さんは、ニューイさんのことを大して好きじゃないんですかね……?」

「なるほど」


 丁寧に梳かれた肩ほどの長さの九蔵の栗毛が、ニューイの手元へ集まった。

 九蔵はシュン、と肩を丸める。

 これは……ここ最近の一番の悩みだ。
 前向きなフリをするものの、根っこのところが腐れてしまった。

 榊から休みを貰い休養した。
 澄央とズーズィに笑い飛ばしてもらって協力も得て、バレンタインの準備を終えた。

 ニューイと心を分かち合い、ドゥレドから声と舌を取り戻し、九蔵を苛む問題は次々トントンと解決した。

 だが、ダメだ。
 モヤが晴れない。

 病んでいるわけでもネガティブ思考というわけでもないが、まだだいぶ、自分のことが嫌いなままだ。

 ニューイにケーキを渡せばこれも晴れるかと思った。しかしニューイに誕生日プレゼントを貰って、モヤが復活したのだ。

 ──やっとお返しができたのに。

 ──俺もお前のことを愛してるって、大事にしてるって、同じなんだって。

 ──なのに、お前が俺の精いっぱいを軽く超えて愛してしまうから。

 ──俺は、なんだか……情けねぇんだ。

 恋は勝ち負けじゃないと思う。
 わかっていても、九蔵は〝ニューイに好きの量で負けているかも〟と思った。

 負けているということは怠慢で、いつかニューイは「こんなに愛しているのにちっとも同じようにしない九蔵とは、付き合っていられない!」と去ってしまう。

 それは嫌だ。お願い、勝たないで。
 自分のことはどれだけ雑に扱っても構わないから、この怠慢に呆れないで。

 不安なのだ。
 ニューイが自分を愛してくれるからこそ、九蔵はとても不安なのだ。

 誰かに相談しようにもウジウジの自分を見つけられたくない。それを見つけられても平気な相手は、ニューイだけだ。

 だから結局、本人に相談した。
 ニューイはどう思ったのだろう。


(……。なに聞いてんだ、俺)

「あ~……まぁ、免罪符探しだよな。お前が俺を許すのがわかってるから、俺の口が変に軽くなるんだよ。うん。終わり」


 幸せな時間の中でいつも粗探しをする難儀で愚かな自分に飽き飽きしやしないか、と、九蔵は不安で言い訳をした。

 我に返るまでほんの数秒。
 一分経たずに意見を覆すなんて、臆病すぎて笑えてくる。アホらしい。


「ムフフ」

「っえ?」


 しかしそんな九蔵の髪をキュ、と束ねて、ニューイはどういうわけか、ちっとも非難せず機嫌よく笑った。

 九蔵には理由がわからない。
 煩わしいことしかしていないのだ。呆れ果てるか知らんぷりをされるか叱られるか、どれだって受け入れる。

 けれどニューイはニコニコと笑顔で九蔵の頬を包み込み、クイ、と上を向かせる。




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