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第六話 敗北せよ悪魔ども!
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しおりを挟む本日はバレンタイン当日。
つまり今夜あたり渡す予定の本番チョコを作成する、運命の日だったのである。
いやはや、ここまで長かった。
澄央というハラペコフレンドと味見はもちろん失敗品、完成品を全て横領するほの暗い契約を交わし、部屋から出ずに材料を調達。
ニューイが仕事に行っている間にコソコソと練習を重ね、なんとか問題なく完成させられるようになったのだ。我ながらあっぱれと賞賛したい。
ちなみに肝心のメニューは熟考の末、ホワイトチョコのレアチーズケーキにした。
九蔵のうちのレンジはオーブンレンジではなかったからだ。焼かないレシピを探した結果である。
それにニューイは普通のチョコよりも、ホワイトチョコのほうが好きな気がする。
知らず知らず食事の好みを気にかけていたとは。意外とニューイを見ていたらしい。
ニューイを放置し続けて当然の愛情に胡坐をかいていた自分を嘆いたものの、どん底自己嫌悪に沈まなくてよかった。
おかげで自分を見限らずに済んだ九蔵。
ニューイとのんびり過ごし澄央とズーズィに茶化されてから復活して真っ先に始めたことは、このチョコケーキの練習だ。
やっぱり練習は欠かせない。ぶっつけ本番の間に合わせなんてナンセンス。
(愛情表現下手くそオタクは、金か物量で日頃の感謝を伝えるしかねーんだ。完成度は重要な要素……!)
性格上、石橋を叩いて叩いて「あと一歩進めば崩れるんだ絶対死ぬんだ」と思いながらヒイヒイと匍匐前進する九蔵は、ホッと心から安堵した。
こうしてアルバイトが休みにならなければ準備期間が足りなくて夢のバレンタインは叶わなかったと思う。
危うくリアクションに困る品物を渡すところだった。味見役の澄央曰く、初ケーキは〝特別美味しくはないが食べられるしマズくもない普通の手作りケーキ〟らしい。
器用故の地味なオチ。
ある意味一番笑えない。
(でもほんと、一人で滑り込みは無理だった……全部ハンパするよりは残りを捨てたり置いておいたりしてでも、一番やりたいこときっちりしときゃよかったんですよねぇ……)
ケーキを手作りすると予想以上に金がかかることを知ったが、自己採点では赤点回避といった結果だろう。
九蔵は完成したケーキを百円均一の箱に入れてそーっと冷蔵庫にしまい、パタンと扉を閉めた。
心なしか口角が上がり、体も軽い。
誰も見ていないのをいいことにてっぽてっぽとスキップなんてしながら部屋に戻る。
この達成感。最高だ。
一歩進んだという事実はいかな九蔵と言えど、心にガッツポーズを送りたい代物である。やったぜ。
さてさて。ニューイと今夜バレンタインイベントを楽しく過ごせたら、バイトに復帰するために悪魔の相手でもするとしよう。
もともと多弁でもなし。
食に頓着もなし。
筆談の手間とバイトに必要なことを除けば思っていたより問題はなかったものの、ニューイが気にするとかわいそうだから取り戻さねば。
自分よりニューイを引き合いに出したほうがやる気が出る。
ニューイが落ち込むと自分は前向きに励まそうという気になるし、根っから受け身な順応体質も多少は能動的になれた。やはり推し活は楽しい。
「~~♪」
声こそ出せないがスーハーヒーと吐息くらいは出せる。
近年まれにみる浮かれポンチなウキウキ九蔵は、文字通りの鼻歌を歌いつつエプロンを外し、ベッドにゴロンと横になった。
家事も午前中に終わらせてケーキ作りも完了したなら、夕飯の支度までは呑気にニューイの帰りを待つことにしよう。
ああ素晴らしきバレンタイン。
シャイ御用達のラブイベント。
そうしてデフォルトフェイスがジト目陰気顔ノリ悪しな九蔵が達成ハイによりニマニマとニヤケきり、ゴロンと寝返りを打った時だ。
「お邪魔しています」
「…………」
なにやら見覚えのあるガチムチ悪魔がちゃぶ台のそばで正座をしながら挨拶をする姿に、九蔵の表情はスン、と冷めきった。
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