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第六話 敗北せよ悪魔ども!
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しおりを挟む『そう。いろいろ整えるために、舌と声はしばらく無視する』
「むっ無視する……!?」
『おう、フルシカト。トラブル起こしたのは向こうなのにこっちがやきもきすんのって冷静に考えたら癪だろ? ドゥレドの都合でパーツ盗られただけでこっちには盗ってほしい都合なんかなかった。つまり、俺らのトラブルじゃない。あっちのトラブル。だろ?』
「それはそうだがいやしかし……声と舌を一旦置いておいていいものか……」
『いいんです。さっきまで見失ってたけど本来そうあるべきです。ニューイも気にせず普通に仕事行けな。俺は家事して休暇を満喫するから』
九蔵はついでにこの休みを使って、ニューイに任せきりだった愛情表現及び恋人らしさの補給を試みる魂胆である。
それによって自分にもできる範囲のラブなコミュニケーションを模索し、アルバイトに復帰したあとも無理なくささやかに日常に取り入れていく。
あれこれ手を出さず、できることから一つずつだ。
他人なんて待たせておけ。
その一つ以外を停止することで確実に取り組めるので混乱せず、九蔵はえっちらおっちらとだがカスを脱することができる。
と、思う。……で、あれ!
「だがもし九蔵の声と舌をミキサーにでもかけられたらどうしよう」
『それはない。ドゥレドにはニューイを誘き出したい理由があるんだから、餌をミンチにする意味はない』
「うぅむ……しびれを切らせてより効果的なエサ、もとい九蔵の本体を奪いに来たら?」
『探さなくて済むしあっちからくるならちょうどいいだろ? 俺は一本釣りの餌になるけど、俺を守りながらじゃなきゃニューイは絶対勝てるしな』
「ん!? 勝ったことないのである!」
『勝てます。俺の魂で居場所がわかるんだし……場所がわかってれば人質なんて関係ない。不意打ちでもなんでも使って確実に仕留めればいいんだ。向こうもニューイにさせたいことがあるなら俺を殺せないしさ』
「いやそもそも勝てるかわからないのだとっ! ドゥレドはアカデミーの出来っ子で私はダメっ子で……っ!」
『勝てます。となれば、居場所不明の悪魔を追いかけるより楽だぜ。俺たちは備えるだけ備えておいて、あとはいつも通り平和な人間生活を送るんだ』
「九蔵~……ドゥレドもキューヌも位は王である~……参考までにあのズーズィの位でも公爵で、王の二段階下……王はかなり呪いが強いのだよ~……っ」
『勝てます』
なんの根拠もなく勝てると書き張る九蔵に、ニューイは気の毒なほど眉を下げて泣きそうな顔をした。
一生懸命王の位の悪魔がどれほど恐ろしいかを伝えてくれるのだが、九蔵としてはどの口が言うである。
王の位。どこぞのニューイさんもそれだ。強いて言うなら根拠はそこにあり、言い張る理由はもう一声。
「…………」
「? えぇと……」
今から伝える内容を想い頬が赤くなる九蔵だが、モソモソとスマホに声を打ち込み、ニューイにズズイと押し出した。
ニューイがスマホを覗き込み、並んだ声をルビーの瞳でなぞっていく。
『もし俺が捕まったら必ず助けてくれるだろ? 強いも弱いも関係ないです。負けないお前は、必ず勝つってこと』
『だって、俺の王子様だからさ』
「っむ……!」
その結果、ルビーが零れ落ちそうなほど目を見開き硬直したニューイはみるみるうちに九蔵の頬と同じ色に染まっていった。
金魚のように口を開いてプルプルと震えるニューイを前に、九蔵は九蔵で肩を竦めて縮こまる。
言ってしまったぞ、言ってしまった。
恥ずかしい。そして恥ずかしい。
「ぇ……え、と……そう、か……うむ。それなら勝つしかないで、あるな……」
「……っ……」
「私の勝利をそんなに信じてくれて、嬉しいのである……ダメダメな私を……キミの王子様にしてくれている……強弱ではなく、勝ちだと……かなり、嬉しい」
二人揃ってプシュウッ、と夜中の二月の外気に湯気が上がった。
ニューイは九蔵にとって王子様が素敵なものの象徴であることを知っている。
シャイな九蔵から文字により視覚で確定的な情報を与えられ、すっかり勝てやしないとヘタレていた気分がハッピーで上書きされたのだ。
(~~っ、普段ケロッと喜んでるのになんで今は照れてんだ……! お前が照れると俺が死ぬだろ!)
「っ、っ」
「う、うむ。早く一緒に帰ろう。ここは寒いからね。夜もずいぶん遅く、九蔵は疲れているだろうしね。うむ、うむ」
「っ」
「……。で、できればその、手を繋いで帰りたいのだが」
「っ!」
ホコホコプッシュン。
うじうじとうじ虫が疼いていた二人は、熱い手を握り合いつつ、無言で真夜中の帰路を歩いていくのであった。
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