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第六話 敗北せよ悪魔ども!
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ニューイはメッセージを送ってから、一分経たずに迎えに来てくれた。
ドゥレドが九蔵に能力を使ったからだ。
人間生活を全うするため眠っていたニューイは察知してすぐに飛び起き、九蔵の気配を探って安否を探った。
そして今以上九蔵に危機がないことを魂の揺らぎで確認。
しかし九蔵のそばに人間、榊がいたので悪魔が飛び込むわけにもいかずにいたところ、九蔵からメッセージが届いて文字通り飛んできたと言う。
従業員入り口の前で待機する九蔵を飛びかかる勢いで抱きしめたニューイは、擬態の解けた悪魔スタイルだった。
メッセージが届く前にすぐ迎えに行けなかったのは、そのせいだ。
人間の姿に戻れないくらい焦っているが、悪魔スタイルを他人に見せて九蔵に迷惑をかけることを考えた。
これまで、九蔵から夜勤中にメッセージを送ったことなんてない。
寝ているとわかっていて送られた上に内容が内容だったので、相当肝を冷やしたのだろう。メッセージを把握してから迎えに来るまでを考えると、まさに人外級の速度だ。
「…………」
『…………』
けれどニューイはそうと思っていないようで、未だにいつものイケメン姿には戻っていなかった。
二月の夜中に空を飛ぶと流石に寒いため徒歩で帰宅する九蔵は、夜中でよかったと心底思う。
角の生えた骸骨頭に、長い尻尾。
二メートルを超すほど大きく、手足は爬虫類と人のハイブリッドに近い。
折りたたまれた真っ黒な翼は、悲壮感をムンムンと漂わせて縮こまっていた。
テコテコと静かに歩く九蔵。
その隣をトボトボと歩くニューイ。
『……ドゥレドは……人間を言葉のない動物たちと同じと見ている、典型的な悪魔なのだ……』
「…………」
独り言のように語るニューイの声で、九蔵は彼の心が痛いほどにわかった。
うまい屋からずっと言葉少なくしょんぼりと哀しげに擬態もできないニューイは、とても、落ち込んでいる。
だが、九蔵にはかける声がない。
『キューヌは強いが……ズーズィのように、人間を面白がる性格だから……あのまま居座っても、キミやテンチョーは危険ではない……問題ないだろう……』
「…………」
『でも、ドゥレドはわからない……アカデミーの同年代だが全く関わりがなかった……』
「…………」
『私にはなぜ因縁をつけられているのか、これっぽっちも心当たりがなくて……その、空間を操る性質は、滅多にいないのだよ……ドゥレドはとても、強いから、ね』
相手が強いから。
自分は弱いから。
落胆し、真っ黒な眼窩からちょび、と涙らしき体液を潤ませるニューイ。
九蔵はオロオロと焦燥するが、結局、手の一つも伸ばせなかった。
どうしていいかわからない。
頭がビクとも働かない。
ドゥレドが計画変更だと言っていたことを思い出す。榊がキューヌに気に入られなければ、おそらく声と舌だけでなく自分は丸ごと攫われていたのだ。
これはあくまで想像に過ぎないが……おそらくキューヌを連れてやってきたドゥレドは、ニューイに一人では勝てないのだろう。
能力を使わなくても、九蔵をこの世界から連れ去ればニューイにバレる。
九蔵という枷がないニューイはすぐに九蔵の気配を追って、万全の状態でなにがなんでも奪還しにきてくれるだろう。
人質? それじゃ後手に回る。
襲い来る相手を待っては危険だ。
なりふり構わないニューイから人質を守りながら戦うなんてナンセンス。人間の肉体は大きく邪魔であり、獲物を奪われてキレた悪魔は修羅。めんどうが過ぎる。
結局、九蔵は確実に釣れる餌としてなら優秀だが、枷のないニューイに一人で勝てないなら意味がない。
だから手軽な九蔵の一部を奪った。
九蔵本体を守らなければならないなら、ニューイはドゥレドを追いかけられない。
いざ行ったとしても、九蔵を守りながら九蔵の一部を取り戻さねばならないニューイはなりふり構えなくなっている。
目的がなんなのかは不明だが、時間稼ぎにちょうどいい。
悪魔にしては理性的で頭のいいドゥレドは、優秀な侵略者だった。
──もう……バレンタインのチョコレートを手作りしたくらいじゃ、ダメだよな。
「……、……」
口に出したつもりなのに言葉にならない弱音を、そっと喉の奥のほうへ啜り戻した。
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