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第六話 敗北せよ悪魔ども!

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 九蔵がトットッとスマホ画面に文字を打って説明を終えると、全てを理解した榊は、数秒腕を組んで考えた。

 深いため息を吐かれる。
 九蔵の言うことを疑わなかったが、それとこれとは別だ。

 九蔵は〝めんどくさいことになりやがって〟と顔に書く榊を前に、いたたまれずキュッと肩を縮める。


「うふ、そうなの。悪魔なの。でも嫌いにならないでねぇ? こんなに話が合う人間は初めてよ。もっと知りたいしもっと一緒にいたいしもっともっともっと楽しいヨカンがするのっ」


 けれどちょっと目を離した隙にどえらい榊にベタボレしたキューヌは、榊のめんどくさいオーラなんて気にしないらしい。

 榊の腕に絡みついて、榊の都合なんて関係なく甘えている。流石悪魔だ。


「はぁ……キュウちゃん」

「なぁに? サカキ」

(うっ……!)


 榊は自分より少し小さいくらいのキューヌの肩を抱き、美しい顔を覗き込んだ。

 榊に呼ばれて嬉しいらしいキューヌはすぐに榊を見つめて、それはもうメロメロな表情でニコリと笑う。

 九蔵はパッと顔を逸らす。
 いや、なんとなく見てはいけないような気がして。いたたまれない。

 というかいつの間に榊はタメ口になったのだろうか。名前で呼びあってもいる。お互いに手が早い。


「キュウちゃんはココの舌と声を戻せないのかな?」

「それは無理よ。だっていくらアタシがサカキのお願いを叶えたくても、ツマミちゃんのそれはドゥレドが持っているもの」

「そっか、ありがとね。じゃあその悪魔はどこにいるのかわかる?」

「知らなぁい。そんなことより、サカキ。二人きりでもっと話がしたいわっ。トラブル発生なんだから仕事はもういいでしょ? アタシをあんまり待たせないで」

「あぁ……私もキュウちゃんと話したいよ。でも、私は部下を大事にしていてね。待っててくれないなら仕方ない。今日はバイバイにしよう?」

「えっ。……っやぁよ。待つわ。待ってもいい? サカキ」

「ホント? 嬉しい。キュウちゃんが待っててくれるなら、仕事終わるのがいつもよりずっと楽しみだな」

「ウフフ、当然よ。これだけの美女を待たせているんだからねぇ?」

(お気遣いありがとうございます、シオ店長。……でもお姉さん方、距離感が)


 癖の強いキューヌから解決策を引き出そうとしつつ手玉に取る榊に感謝しつつも、九蔵は気配を消して直視を避けた。

 片やスレンダーハンサムなクール美女。片やダイナマイトボディのセクシー美女。

 顔も近ければ密着している。
 ついでに二人とも、相手を色恋の対象に見ている。

 肉食系女子たちによる主導権の奪い合いだ。九蔵はアリーナ最前か。


「ねーぇ、サカキ……ツマミちゃんに協力してあげてって言わないの? アタシ、こぉんなにアナタにメロメロなのに」

「んー……キュウちゃんは自由でしょ?」

「縛っていいのよ。サカキなら」

「そういう趣味?」

「嫌?」

「いくらでも付き合うよ」


 キューヌがコテンと小首を傾げて目を細め肩口に擦り寄れば、榊はキューヌの頬をなでて甘い笑みを浮かべた。

 見てはいけない百合の園のような姦しい気配を感じ、九蔵は目に優しくない美女同士のイチャイチャから目を逸らす。

 しかしポンポンとキューヌの頭をなでる榊に「ココ」と呼ばれ、逸らした目をそろそろ~と戻す。


「?」

「私の判断でお前の話は真実とする。なら、ニューイさんは悪魔なんだろ?」


 コックリと首を縦に振る。
 クイ、と親指を事務所へ向ける榊。


「早上がりだ。今すぐ迎えに来てもらえ。んでさっさと解決しろ。解決するまで来なくていいが、なるべくシフトに穴開けるなよ」


 視線で言ってる意味わかるな、と言われ、九蔵はコクコクと何度も頷いた。

 要するに〝バイトは気にするな。されど一刻も早く解決しろ〟ということである。

 まさかこんな流れで榊に悪魔様事情がバレるとは思わず、ここまで即時順応されるとも思わなかったが、心強い。

 ついでに問題児なキューヌを抑えていてくれそうなところも心強い。普通に好みの女の子だっただけだと思うが。


「……! ……!」

「金魚みたいだな。面白い」
「うふふ、愉快ねぇ」

「…………」


 パクパクパク。
 口パクでお礼を言っただけなのに。

 九蔵はニマニマと面白がってこちらを見る二人に背を向け、夢の中だろうニューイにメッセージを送った。




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