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第六話 敗北せよ悪魔ども!

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 九蔵ははぁ、と深い溜息を吐く。

 こうなるとお手上げだ。
 制服の帽子の上から後頭部をガシガシとさすり、渋い唸り声をあげる。


「心、読んでますね」

「さぁな、ココノコ。いや……クゾウ」


 上目遣いにドゥレドを伺うと元通りの厳粛な表情で囁かれ、嫌な核心を得た。

 やはりさっきの言い方は罠だったらしい。
 嫌な予感の後に探し人が〝クゾウ〟だとわかり咄嗟に思考を単純化して知らんぷりをしたものの、ニューイは知らなくていいことを伝えたい、という意味のわからない要望に魔が差したのだ。

 ニューイを示唆されると九蔵はバカになる。思考が一瞬単純化できなかった。頭の中で、うっかり〝ニューイ〟と愛しい悪魔の名を呼んでしまった。


「なかなか頭がいいようだが、それは決定打に過ぎないぞ?」

「…………」

「そうだな……お前は完璧に空気を読んで絶妙な返事をし、情報を引き出そうと熱烈な欲望を隠してもっともらしい控え目な提案をした。だからこそ、わかりやすい」

「わかりやすい?」

「オレの悪魔能力は心を読んでいるわけじゃなく、愚かしいほど真っ直ぐな意識に混じる別の意図が読めるんだ」


 要するに、小賢しいから大ピンチ。

 そう言いたいらしいドゥレドに、九蔵はなにも言わずチラリと視線を榊に向ける。

 すると、榊はキューヌと会話をしながら視線だけで九蔵を見ていた。
 おそらくずっと、初対面のはずの客とコソコソ会話をしている九蔵を気にかけていてくれたのだろう。

 やっぱり榊はいい上司だ。そんないい上司を危険にさらすわけにはいかない。が、この悪魔が見逃してくれる気もしない。


「フッ、俺は部外者に興味はない。安心しろ。──キューヌ!」

「っ!?」

「あら?」


 思考を読んだドゥレドがパチンと指を鳴らすと、ドゥレドを中心に波紋が広がるようにうまい屋の店内が灰色に染まった。

 色がついているのは九蔵と悪魔二人だけで、灰色に飲まれた榊は微動だにしない。

 時が止まっている。
 髪一本揺らがない。


「なっ……!」

「空間ごと一時的に保存した。人間に傷はついていないし、お前に直接手を出していないのでニューイは気づかないぞ。逃げるなよ?」


 個人でなく空間が対象ならノーカウント。そんな屁理屈が通用するなんて聞いていない。いちいち人を強引に扱いやがって。

 ──あぁもうっ……俺今悪魔に付き合ってる暇ねぇんですけど……!

 腹立たしくとも釘を刺されてはダッシュで逃げることもできず、九蔵は不甲斐なさに拳を握りグッと唇を噛んだ。

 チクショウ、最悪だ。
 もうなにもかも最悪だ。

 まだ手作りバレンタインチョコを用意できていないのに、仕事中に上司を巻き込んで見知らぬ悪魔に捕まっている。

 まだ手作りバレンタインチョコを用意できていないのに、しっかり用意してくれているであろうニューイに迷惑をかけることになる予感をひしひし感じている。

 こうなると絶望に絶望を掛け算され、万事休すかと思われた。

 しかし話し相手を静止させられたキューヌは、クルリと丸椅子ごと体をこちらへ振り向き唇を尖らせる。


「ちょっとドゥレドぉ? アタシのサカキ返してよ」

「クゾウを見つけた。ここに用はない」

「そんなの知~らなぁい」

「なにっ……!?」


 ぷいっ、とそっぽを向いて頬を膨らませるキューヌの予想外の言葉に、ドゥレドは目を丸くして硬直した。

 おっと、雲行きが怪しいぞ。
 仲間割れか? 大歓迎だ。




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