220 / 462
第五話 クリスマス・ボンバイエ
22
しおりを挟む冗談じゃない。
ぬいぐるみでレベリングしたゲームシステムがリアルモンスターに通じるものか。戦略的撤退である。
九蔵は白ウサギの巨体では追いつけないだろうと、持ち前の逃げ足を動かす。
「誰と間違えたってェんだよォォ」
「ぐぉ、ッ、マジかッ……!」
しかし、脱出は失敗だ。
真っ赤な目をギラギラとギラつかせる白ウサギは、見た目に似合わない素早い動きで長い腕を振り、九蔵はあっけなく体ごと握られてしまった。
ギュ、と力強く胴体を握られ、肺から空気を絞り出して咳き込む。
「よく聞けぇ~アリスぅ~」
「ンッ……ぐ……ッ」
「この世界にウサギはたっぷりいるけどなぁ~白ウサギと呼ぶウサギは俺っちだけだぁ~」
手も足も出ない九蔵を目の前に持ち上げ、フコフコと鼻をひくつかせながらバカにしたように笑う白ウサギ。
チャンスがピンチに変わり、九蔵は悔しさに奥歯を噛み締めた。
確かにビルティは〝早い〟と言っていたが、それにしても一撃で捕まってしまうなんて情けない。
しかもウサギ違いだ。
一刻も早くここから抜け出して、白モフを追いかけなければ。
「なぁアリスぅ? 赤の女王の法律は絶対でぇ。不思議の国で人にぶつかっちゃあ、食っちまってもいいんだよぉ~」
「ふ、っ」
(舌でっけぇなもう……っ)
白ウサギは九蔵の頬をベロ~ンと舐め、怯えさせようとかじる真似をした。
ベロ、ベロリ、と顔中を大きな舌で舐められ首から上がベトベトに濡れる。息はしにくいし気持ち悪い。
けれどぐっと堪え、平静を装う。
ご機嫌な白ウサギがニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながらバカにして気まぐれに握り潰そうとするが、九蔵は抵抗しない。
この状況で無理に抵抗しても傷を負うだけだろう。変に主張して怒らせてもよくない。機会を伺おう。
「お前さん、ん、腹減ってんのか?」
「ひひ、減ってるよぉ減ってるぅ~。だからお前ぇ食っちまいてぇ~。アリスは悪魔のくせにぃ美味そうな匂いするんだぁなぁ~」
「そっか。っひ、でも俺を食ったって美味しくねーと思うぜ。腹壊すってよ」
「うめぇよぉ? 俺っちはグルメさぁ~。食い方にもぉいろいろあるぅ。ゴチソウアリス、空きっ腹の足しになりなぁ~」
九蔵はキュピン、と目を光らせた。
ハラヘリの白ウサギ。背負ったバッグにはアップルパイときびだんご。
これまで良くも悪くもドンピシャだったビルティ情報によると、白ウサギは甘いものに目がないはずだ。
そう思って必殺の甘いもの攻撃を仕掛けた──
「あのさ、腹減ってるならアップルパイときびだんごがあるぜ? ぶつかったことは謝るから、デザート食べながら俺と話してくんないかな……?」
「ン~? お断りぃだぁ。俺っちは菓子類が嫌いなんでぃ」
「んぶっ……!?」
──の、だが。
どういうわけかこれまでピッタリハマっていたビルティ情報が外れ、顔を舐めていた舌が不意を打って口の中へズルンッ! と侵入した。
(な、なんでハズレたんだ!? ってか、この、人の体どこまで舐めるんだよ発情期かこいつ……っ!)
「んッ……んんッ……」
驚き、動揺する九蔵が反応できない間に、巨大な舌が口の中を舐め回す。
グチョ、グチョ、と頬の内側から歯列、喉奥まで好き放題うねり、唾液を絡めて九蔵の呼吸を止める肉厚の舌。
そこは、ニューイ以外には舐められたことのない場所だ。大した意図はないだろうが、腹立たしすぎる。
ニューイだけに許している部分を蹂躙されると、策に失敗した今、流石の九蔵でも無抵抗じゃいられない。
「ごほッ……」
「おっと」
腹立たしさの赴くままに食いちぎる気で力いっぱい噛みつくが、肉厚の舌はノーダメージでヌルンと這い出た。
ちくしょう。顔の絶対領域を無許可で侵害するなんて頭突きじゃ許してやれない。
「ゲホッ、オェッ……んで舌突っ込んだんですかねぇ……ッ!」
「ひひひ、つまらねぇからだぁ。俺っちのさじ加減で死んじまうくせに余裕ぶってるアリスぅの顔ぉ、歪めてやりかったのさぁ」
「歪んでんのはアンタの性根だろッ」
「チッ、うるせぇなぁぁぁぁ」
「ッぅ、ぐ……」
ギロリと果敢に睨む九蔵に、白ウサギは機嫌悪く低い声で威嚇した。
九蔵は苦痛に呻く。
力強く握られ、骨が軋み肺が圧迫された。呼吸すら苦しい。酸素が制限されて、視界がクラリと霞む。
10
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~
喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。
庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。
そして18年。
おっさんの実力が白日の下に。
FランクダンジョンはSSSランクだった。
最初のザコ敵はアイアンスライム。
特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。
追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。
そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。
世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。
くまさんのマッサージ♡
はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。
2024.03.06
閲覧、お気に入りありがとうございます。
m(_ _)m
もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。
2024.03.10
完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m
今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。
2024.03.19
https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy
イベントページになります。
25日0時より開始です!
※補足
サークルスペースが確定いたしました。
一次創作2: え5
にて出展させていただいてます!
2024.10.28
11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。
2024.11.01
https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2
本日22時より、イベントが開催されます。
よろしければ遊びに来てください。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
獅子帝の宦官長
ごいち
BL
皇帝ラシッドは体格も精力も人並外れているせいで、夜伽に呼ばれた側女たちが怯えて奉仕にならない。
苛立った皇帝に、宦官長のイルハリムは後宮の管理を怠った罰として閨の相手を命じられてしまう。
強面巨根で情愛深い攻×一途で大人しそうだけど隠れ淫乱な受
R18:レイプ・モブレ・SM的表現・暴力表現多少あります。
2022/12/23 エクレア文庫様より電子版・紙版の単行本発売されました
電子版 https://www.cmoa.jp/title/1101371573/
紙版 https://comicomi-studio.com/goods/detail?goodsCd=G0100914003000140675
単行本発売記念として、12/23に番外編SS2本を投稿しております
良かったら獅子帝の世界をお楽しみください
ありがとうございました!
【全話挿絵】発情✕転生 〜何あれ……誘ってるのかしら?〜
墨笑
ファンタジー
『エロ×ギャグ×バトル+雑学』をテーマにした異世界ファンタジー小説です。
主人公はごく普通(?)の『むっつりすけべ』な女の子。
異世界転生に伴って召喚士としての才能を強化されたまでは良かったのですが、なぜか発情体質まで付与されていて……?
召喚士として様々な依頼をこなしながら、無駄にドキドキムラムラハァハァしてしまう日々を描きます。
明るく、楽しく読んでいただけることを目指して書きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる