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第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも
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しおりを挟む──翌日。
望み通りノーマルセックスからしっぽりと脱した九蔵は、マヌケな寝顔を晒す全裸イケメンの腕の中で目覚めた。
擬態なので髭も生えないニューイの顔は、三百六十五日二十四時間一寸も損なわれない美貌を保持している。
のっけから九蔵が目をやられたのは、言わずもがな、だ。
天蓋付きのダブルベッドとイケメンのベストコラボショットもゲットしたとも。
そしてニューイは後始末をしてくれたらしく、ベッドや体に汚れはなかった。
セーラー服も九蔵の元の服も、きちんと綺麗になって畳まれている。
悪魔能力はチートだ。
風呂の湯も温かく溜められていたし、鏡に映った九蔵の体はキスマークの嵐でもあった。冬で良かったと思う。
湯船につかったことで昨夜の乱れっぷりを思い出した九蔵は全力で死にたくなり窒息寸前まで溺れたわけだが、それは言わないお約束なのだ。
体を清めて戻ると、テーブルの上に美しいガラス細工の小瓶が二つ置いてあった。メモが添えられている。
一つには〝エナジードリンク(悪魔)〟。もう一つには〝痛いの痛いの飛んでけ薬〟と書いてあった。
メモを読むと、これはどうやら九蔵のために用意された悪魔液らしい。
そういえば、ニューイの特技は悪魔液の調合だった。
タイトルのセンスが気になる。
人間が飲みすぎるとマズイそうだ。
おそるおそる薬を飲むとすっかり疲労感が消え、節々やアソコの痛みがなくなった。これは箱で買いたい代物である。
そうこうするうちニューイが目覚めたので、ルームサービスを頼んで気兼ねなく、魅惑のモーニングに舌鼓を打った。
エッグベネディクトにキレたニューイがホテルのシェフにチップとして札束を渡そうとするので、必死に止めた九蔵だ。
とはいえ九蔵とてクリームチーズソースのかかったミルクパンケーキを食べた時は、ホテルのシェフにお布施課金したくなったのだが……ニューイには言うまい。
この流れでニューイの札束はどこから出てくるのか、という話になった。
やはり屋敷の資産を現金化して、サイフにギッチリ詰めていると言う。
九蔵に支払うお金は自分で稼いでくるニューイだが、それ以外は自己資産を切り崩しているとのこと。
これにより恐ろしくなった九蔵が改めて聞いたスウィートルームのお値段は、九蔵の月給を超えたとだけお伝えしておこう。
そんな値段で買った一夜をセーラー服で塗りつぶすなんて、リッチ過ぎる遊びをしたものだ。というかさせられた。
これだから長寿の悪魔はいけない。
ニューイおじいちゃんのタンス預金は、人間的に金脈である。
──とまぁ、そんなこんなで。
初めてのデートが概ねいい結果をもたらした九蔵とニューイは、後味に浸るべく、のんびり徒歩で帰っていた。
「マジで、あの値段はないです。ホントにないです。つかあれ一番高い部屋じゃねぇか。もっと安いスウィートルームもあっただろ?」
「あったが、私には人間の常識がわからないところがあるからね。ハイグレードの部屋のほうが喜びが大きいのかと思ったのだよ。九蔵が嬉しいかどうかが最重要事項だ……!」
「うっ……そりゃ、喜んだけどな」
「九蔵の喜びが三十万円ちょっとで買えるなら、安い買い物である。うむ。本当に安い買い物だぞ。あんなにいじらしく私への好きとワガママを……九蔵、今から支払うのでもう一度喜んでほしいっ」
「ステイ。缶コーヒーでも喜ぶからサイフをしまいなさい」
「クーン」
思いついたが即行動の直情型悪魔なニューイに待てを言い渡すと、ニューイはクンクンとしょげて九蔵の手を握る。
「っ」
ビク、と肩が跳ねた。
不意打ちに弱いのだ。
一瞬で手汗やらなんやらが気になった九蔵だが、なんとか振りほどきたい衝動を抑え、なにも言わずに握らせる。
緊張で冷たくなった指に、ニューイの大きく滑らかな手の指が絡む。まるで自然な行為であるかのように繋がれた、手。
「ニューイさんや、手」
「離さないのである」
「住宅地だぜ、ここ。男同士だし相手俺だし、誰かに見られたら困るかもよ」
「? 困らないのだ。恋人が隣にいると手を繋ぐものだろう? ましてや世界一素敵な恋人だからね。私がなにもしなくても、私の手が九蔵に恋をして勝手にくっついてしまう」
耳の赤い九蔵の言い分に、ニューイは至極真剣な様子でウンウンと頷いた。
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