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第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも

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 肩ごしに熱い吐息が吹きかけられくすぐったい。そのため息はどういう感情だ。

 バクバクと緊張やら恋心やらでうるさい心臓を抱えて反応を待つと、ニューイはスリスリと九蔵の肩に額を擦りつける。


「ズルいぞ、九蔵」

「う、ズルくねぇでしょ」

「ズルい。私がキミを口説くと言ったのに、どうしてキミが私を口説くんだい?」

「口説いたつもりはねぇけども」

「かわいい九蔵がカッコイイと、ますます好きになってしまう。ダメだ。離してあげられそうにない。私は九蔵の吐息の残滓すら愛しいのだよ」


 恨みがましげに「自分の手のひらにキスをしたくなったのは初めてだ」と白状して、ニューイは深いため息を吐いた。

 なるほど。

 ニューイのため息は、九蔵への愛が限界突破したせいで、一周まわって〝なんの恨みがあってこんなに好きにさせるんだ!〟というテンションになってしまったからだったらしい。

 九蔵には口説いたつもりなんてない。
 あれが口説き文句なら、ずいぶんグダグダでかっこ悪い口説き文句だと思う。

 言い散らかすだけ言い散らかして結局黙ったのだから、ロマンチックとは程遠い。

 そう言うと、ニューイは「その自信のなさはどこからくるんだい? 追い返してしまおう」と言って、片手をシッシと振る。


「よし。私も九蔵の特製おにぎりのお礼に、不安にならないプレゼントをするぞ」

「ンッ……」


 赤く熟れた九蔵の耳朶に唇を添えたニューイは、そのまま耳たぶを軽く食んだ。

 ピクン、と肩が揺れる。

 くすぐったい。湿った熱い唇の温度を感じて、体がザワつく。

 ニューイがパチン、と指を鳴らすと、九蔵の目の前で乳白色の湯と二枚のバラの花びらがクルリとつむじを巻き、それらが雫型にまとまった。

 バラの花びらを孕んだ雫が二粒。

 それを手の中に迎え入れたニューイが九蔵の首を一回りなでると、シャラ、と優しい音が鳴る。


「うむ。九蔵はゴールドが似合うな」


 満足気なニューイの声に誘われて自分の首に巻かれたモノをつまむと──そこにあったのは、ネックレスだった。

 細いゴールドチェーンの先に乳白色の雫が取り付けられた上品な誂え。

 雫は滑らかで象牙のような硬さがあるのだが、どういうわけか触れればプニプニと形を変える。

 その中で舞うものは、バラの花びら。


「っ……お前のほうが、ズルい」


 九蔵は、途端に顔を伏せて震えた。
 ニューイは「思い出を形にしたほうが安心するなら、ステキな形のほうがいいだろう?」と微笑む。

 微笑むニューイの胸元でも、シャラ、とゴールドチェーンが雫の重みで揺れる音が聞こえた。そういえば二粒作っていた。

 花びらを持ち帰りたいなんて、気持ち悪いことを言ったのに。

 ドン引きするどころか推奨しておそろいのアクセサリーにしてしまうなんて、全肯定にもほどがある。


「ふふふ。純金だからお湯につけても大丈夫なのだよ」

「純、……こんなことしたらお釣りがくるだろ、マヌケ。特製おにぎりじゃ釣り合いません」

「むっ。いいや、そこだけは肯定しないのだ。特製おにぎりは値千金あたいせんきん、唯一無二であるっ」

「全然納得できません。お前はなにかしてほしいことねぇのか? もっとワガママ言ってくれ」

「ワガママかい?」


 ブクブクブク。九蔵がズルリとジャグジーの中へ口元を沈めて泡を吹くと、ニューイは九蔵の頭に顎を置いた。

 百七十九センチとそこそこ長身の九蔵が沈むと、百九十センチとグローバルサイズなニューイの顎がちょうど置きやすい。


「うーん、ワガママとは違うが……聞きたいことがあるのだ」

「ん? んん」

「実はスウィートルームに招待する以外にも、サプライズがあってね。九蔵に聞けなかったから、全部用意したのである」


 沈む九蔵をきゅっと抱きしめながら白状するニューイに、九蔵はキョトンとした。

 イタズラとサプライズの他に、まだ用意があったとは。盛りだくさんなプランだが、思い当たるものはもうない。

 ワガママ。
 なにを言われるのだろう。

 九蔵があれこれ予想しながらも頷くと、ニューイは笑顔で提案する。


「童貞非処女の星というものになりたい九蔵は、大人のオモチャプレイとコスチュームプレイと優しめ調教プレイ、どれがいいかな?」

「…………」


 ……とりあえず、一番頑張れそうなプレイをチョイスした九蔵であった。




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