175 / 462
第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも
20
しおりを挟む「……そういえば、九蔵。今日は朝から夜までのシフトなのだろう?」
「ん。そう」
ジャム塗れになった大型の子犬は、しょんもりと眉を下げて九蔵を呼びながら指パッチンをした。悲し気なパッチンだ。
フワリと浮かび上がって瓶の中へ戻っていくジャムたちを眺めつつ、九蔵はサクサクとトーストを頬張る。
ああ、穏やかだなぁ。
これが世界平和かもしれないなぁ。
「実はコレコレシカジカで、真木茄 澄央と秘密のイタズラを考えてね。今夜は見せつけるようにお迎えに行き、その越後 明日夏とやらにラブラブ彼氏マウンティングを取り宣戦布告をする予定だよ。楽しみに待っていておくれ」
「全く穏やかじゃないですね?」
平和ボケして推しメンとの朝を堪能していた九蔵は、途端にカッ! と戦国時代の武将がごとき目つきでニューイを刮目した。
待て待て待て待て。待ってくれ。
ツッコミどころが多すぎる。
──は? ナスとイタズラを考えた? ラブラブ彼氏マウンティング? 秘密って言っちゃってますけど……え? 私は九蔵に包み隠さずあけっぴろげるからね、って、なんだそのドヤ顔。ちょっとワイルドみがあってしんどさある、じゃねぇ!
穏やかとは程遠くあまりにも情報過多な発言に、九蔵の頭はクラリと揺れた。
ニューイが流れるような手つきで九蔵の頭をポンポンとなでてくれるが、絆されてなんてやらん、と九蔵は不貞腐れる。やや許しかけたが。
「ぅよし。ちょっとお話ししましょう」
「ちょっとじゃなくてもいいよ」
「シャラップ」
天然デレデレ発言は禁止だ。ニューイを黙らせ、じっと見つめる。喜ぶな。
「ニューイは突然バイト終わりにお迎えに来て、俺をドッキリさせるイタズラをナスと考えたんだよな?」
「うむ」
「イチゴくんに喧嘩売、ゴホン。挨拶すんのはなぜですか?」
「それは九蔵が最近、越後 明日夏にかかりきりだからだね。真木茄 澄央に『必ず会って顔面で殴ってくるス』と言われているぞ。とはいえ、私は顔で殴打したりしない」
澄央。コノヤロウ。
うちのド素直悪魔様になんてことを教え込んでいるんだ。顔で殴打て。
九蔵は澄央を恨めしく思ったが、ニューイにコレコレシカジカの詳細を教えられると、そうも言えなくなった。
どうやら九蔵をよく知る澄央が見れば不自然なくらい越後に構っていたせいで、澄央に不平等な思いをさせていたらしい。
思えば、目ざとい澄央が一度「最近イチゴに構いすぎじゃないスか」とボヤいた記憶がある。
(……アレ、拗ねてたのか)
「のけ者が一番つまらないと言っていたよ」
「はい。おっしゃる通りです」
罪悪感に苛まれたところに正直者の恋人からダメ押しを食らい、九蔵は打って変わって骨ばった肩を丸く縮めた。
よく考えると、事情を知らない澄央からすれば酷い話だ。
同じ後輩なのに態度を変えた。
友人でもある澄央は、ただの後輩よりも嫌な気分になっただろう。不甲斐なし。
言い訳をさせてもらえるなら、越後の家系がエクソシストだとか悪魔祓いの使命があるだとかは、勝手に人に話していいことじゃないと判断したせいであった。
だから澄央にもズーズィにも相談しないでいたのだ。
結果、大ピンチである。
(あぁぁぁぁ……! 悪魔とエクソシストの遭遇を回避しようと必死になって、草の根活動が裏目に出た……! まさかそんなとこからバイト先訪問イベント発生とか、聞いてねぇんですけど……!)
九蔵はガックリと項垂れた。
こうなったら直談判しかない。
「ニュ、ニューイさん」
「なんだい?」
「俺がイチゴくんに会ってほしくないって言っても、ドッキリすんの?」
「う、うむ。九蔵のお願いはなんだって叶えたいが、盟友との約束は守りたいな。それに、私にも大好きな九蔵をお迎えに行きたい、という下心があったりする……キミの恋人として飽きられないよう、サプライズをしたいのだ……!」
「…………」
──ということで、イタズラ決定。
拗ねている澄央への罪悪感だけでなく、思いのほかノリ気で意気込んでいたらしいニューイへのしんどさによって、九蔵はあえなく陥落してしまった。
10
お気に入りに追加
282
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~
焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。
美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。
スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。
これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語…
※DLsite様でCG集販売の予定あり
目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件
水野七緒
BL
一見チャラそうだけど、根はマジメな男子高校生・星井夏樹。
そんな彼が、ある日、現代とよく似た「別の世界(パラレルワールド)」の夏樹と入れ替わることに。
この世界の夏樹は、浮気性な上に「妹の彼氏」とお付き合いしているようで…?
※終わり方が2種類あります。9話目から分岐します。※続編「目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件」連載中です(2022.8.14)
召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる
KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。
ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。
ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。
性欲悪魔(8人攻め)×人間
エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる