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第四話 ケダモノ王子と騒動こもごも

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(はぁぁぁ……破壊と再生が得意な悪魔様が恋人で、変身と懐柔が得意な悪魔様が友人で、その悪魔様たちを祓うござるなエクソシストが後輩とか、ありかよ~……)


 モソモソとカレーを口に入れつつ、頭の痛い状況を把握する。

 今朝悩んでいた王子様オス化問題なんて、些末なものだ。
 結局ケツを犠牲にすることで全九蔵さんが合意し解決したのに、懸念事項はあっさり生まれてしまう。

 もういっそ全部ニューイに話して気を付けるように言おうか? と、九蔵は心配性のムシを疼かせる。

 すると口の中身をゴクリと飲み込んだニューイが、おもむろに手を伸ばし、九蔵の頭をポンポンとなでた。


「なぜだかエクソシストを気にしているようだが……九蔵。キミが煩わしいなら、もしエクソシストを見つけた時はうまく憑りついてよそへ行ってもらうと約束しようっ。もちろん優しい九蔵が心を痛めないよう、やり方も配慮するぞ」


 私だって善良な人間をちぎって投げたりしたくないからね、と言って、九蔵を安心させようとするニューイ。

 ポンポン、ポンポン。
 魅惑の響きと心地よい手つきだが……ダメだ。ニューイには言えない。

 ──言ったら、優しく取り憑かれてイチゴくんが追い出されちまう……ッ!

 九蔵は冷や汗をタラリと流した。
 越後がいなくなると夜勤スタッフが減る。澄央もテスト期間に休みにくくなり、榊も困るだろう。

 それに自分だってニューイと一緒に寝られる日が少な、……夜更かしは体に良くないので困るじゃないか。

 ──こうしちゃいられない!


「探すの諦めて近寄らなくなるまで、俺がなんとかするしかねぇ……!」

「近寄っ、……あ、あの、九蔵? それは私のことかな? もしかして私に近寄られるのは嫌だとか……九蔵? く、九蔵~……っ?」


 勘違いをして慌てるニューイに気づかず、九蔵は悪魔VSエクソシスト回避作戦を大真面目に考えるのであった。


  ◇ ◇ ◇


 大真面目に考えた九蔵は、さっそく手を打った。

 まずは榊に連絡し「一通りちゃんと教え切りたいんで、イチゴくんのシフトは俺のシフトに合わせてもらえますか?」と、それらしい理由をつけて頼む。

 複数で教育すると、教育の進捗情報の伝達が困難だ。

 だが教育係がいなければ教育が進められないのも煩わしい。

 そして普段のシフトに不慣れな新人を抱えても、九蔵なら越後のミスをカバーしながらうまく回せる。

 研修中の新人のシフトは動かしやすい。頼みごとには利点もあるので、榊は二つ返事で乗ってくれた。

 これによって九蔵は越後と接点が多くなり、雑談からプライベート情報を引き出すことができる。

 帰り道は途中まで同じなので大まかな自宅の位置も把握。ニューイにはそちらへ行かないように言おう。

 ちょっと気持ち悪いことをしているが、背に腹は代えられまい。ストーカー行為はしないのであしからず。

 しかし深い仲を築くことが苦手な九蔵は、越後に連絡先を聞くことも踏み込んだ話をすることもできなかった。

 エクソシストなるものの詳しい話や休日の行動範囲などは、流石にわからない。

 これじゃあもしエンカウントした時のため、それとなく対策を練ることもできやしない。もっと越後に近づかなければ。

 苦手分野に苛まれつつも、九蔵は奮い立ち、アルバイト中、ことあるごとに越後にくっついて探りを入れる機会を伺った。

 ──が。


「イチゴくん。清掃の手順教えるから俺と一緒に行こうか」

「承知!」

「…………」


「イチゴくん。もし時間あったらだけど、一緒にご飯食べていこうぜ。賄いあるし夜勤明けだし、作るのめんどうだろ?」

「おぉ! 是非でござる!」

「…………」


「イチゴくん。なかなか仕事覚えてきたよな。これなら先々うまい屋に就職して、本職にできるんじゃねーの?」

「いや~それほどでも~! 拙者には使命がござるので本職にはしないでござるが!」

「…………」


 ──九蔵の苦手分野をよーく知るステキな後輩が、らしくないほど積極的に越後を構う姿を見て、拗ねてしまっていたことには、気が回っていなかったのである。




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