上 下
133 / 462
第三話 恋にのぼせて頭パーン

44(sideニューイ)

しおりを挟む


「約束したのだ。約束は守る。キミがそうしたように、イチル、私はキミを愛している。ずっとキミだけを愛していると、私はっ、……」


 そうしてグッと噛み締めた唇が痛みを滲ませた時──ふと、背後に気配を感じた。

 ニューイは言いかけた言葉を閉じる。突然現れる訪問者の候補は少ない。振り返らずとも、犯人はわかっているのだ。


「悪いけれど、姿を変えてくれ」

「なぁんで?」


 墓石から額を離し振り返らないまま言うと、案の定、見知った幼なじみ──ズーズィの声がした。


「あれだけクーにゃんを抱きしめてたくせに、イチルのカラダに縋るなんてさ。クーにゃんの顔は、よっぽど好みじゃないわけ?」

「そうじゃない。九蔵の姿は、どこもかしもこ愛らしい。本心である」

「じゃあなんだよ。ただの骨と石に〝愛してる〟なんて言って、自分はクーにゃんと婚約契約をしたんでしょ?」

「っ」


 どうしてそれがバレているのだろう。
 ニューイはバツが悪く口ごもる。ズーズィのことだから、言わずにいたので機嫌を悪くして乗り込んできたのかもしれない。


「未練がましい。二枚舌かよ」

「それは……その、でも、だから……九蔵の姿の前では、イチルと話をしたくない」

「どういうこと?」

「言いたくないよ」

「ハッ! バカのくせにいっちょ前に悩んでんのかよ。うっぜ。アホらし」

「ズーズィ」


 やむを得ず振り返る。
 そこでは話しながら近寄ってきていたズーズィが、間近に立っていた。

 擬態能力に長けたズーズィは、近頃の擬態に、最近お気に入りになった九蔵の姿を好んでいる。

 姿に興味がない悪魔であるニューイは、前はどうとも思わなかった。けれど今は、なによりかき乱される姿だ。


「用件を早く済ませろ」


 いつもより厳しい声が出る。
 悪魔らしいじゃん、と笑われたって、取り繕う余裕がなかった。

 ズーズィがイチルの墓場にやってきたのは初めてだ。今更墓参りでもあるまい。


「ヒヒヒ。優しくできねー時のニュっちは間違いなく悪魔だとボクは思うけどねぇ」

「…………」

「……ケッ。別にィ。聞きたいことがあったダーケ」


 からかっても黙ったままのニューイを前に、ズーズィは口元をニヤけさせ、意地の悪い目でニューイを見下ろす。


「お前さぁ、クーにゃんがプロポーズに頷いた理由、知ってんの?」

「……あぁ、私が自惚れているだろうと、釘を刺しに来たのかい?」

「ハ?」


 訝しむズーズィを見つめながら、ニューイは自嘲した笑みを浮かべた。

 九蔵が初めより自分に好感を持ってくれていることはわかる。煩わしい悪魔のプロポーズでは決して頷かない。あの子はそういう、揺れない人間だから。

 だけどそれは、恋心、恋情からくる好意ではないだろう。


「浮かれた頭が冷めた朝、九蔵の笑顔を見た時……すぐに気がついた」


 ──九蔵は、優しい。

 それは、イチルを透かして見たから優しいというのではなく、九蔵と暮らして改めて優しいと感じた結論だ。

 傷つけたくないから耐え、離れる。
 傷つきたくないのではない。
 傷つけたくない。

 言葉を選び、行動を選び、どんな時も相手や空気をよく見て動く。傷ついた時は我慢するくせに、傷つけた時は逃げ出すほど後悔して自分を責める。

 自分のことはちっとも許さないのに、なんだかんだと、相手は許してしまう人。

 底抜けに優しいわけではなかった。
 一般的な優しいを物差しにして、九蔵はいつも自分を腐す。

 けれど、ニューイは知っている。

 九蔵の本質は、許すこと。
 受け入れること。

 いいんじゃねーの? と、人々が眉を顰めるはた迷惑な人間や悪魔を、呆れた顔で肯定する彼の優しさを。

 九蔵は、優しい。

 だから……みっともない自分を親しんでくれた世話焼きの九蔵は、見捨てられなくてあの時きっと、コントローラーを奪ったのだ。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

召喚された美人サラリーマンは性欲悪魔兄弟達にイカされる

KUMA
BL
朱刃音碧(あかばねあおい)30歳。 ある有名な大人の玩具の開発部門で、働くサラリーマン。 ある日暇をモテ余す悪魔達に、逆召喚され混乱する余裕もなく悪魔達にセックスされる。 性欲悪魔(8人攻め)×人間 エロいリーマンに悪魔達は釘付け…『お前は俺達のもの。』

身体検査

RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、 選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

くまさんのマッサージ♡

はやしかわともえ
BL
ほのぼの日常。ちょっとえっちめ。 2024.03.06 閲覧、お気に入りありがとうございます。 m(_ _)m もう一本書く予定です。時間が掛かりそうなのでお気に入りして頂けると便利かと思います。よろしくお願い致します。 2024.03.10 完結しました!読んで頂きありがとうございます。m(_ _)m 今月25日(3/25)のピクトスクエア様のwebイベントにてこの作品のスピンオフを頒布致します。詳細はまたお知らせ致します。 2024.03.19 https://pictsquare.net/skaojqhx7lcbwqxp8i5ul7eqkorx4foy イベントページになります。 25日0時より開始です! ※補足 サークルスペースが確定いたしました。 一次創作2: え5 にて出展させていただいてます! 2024.10.28 11/1から開催されるwebイベントにて、新作スピンオフを書いています。改めてお知らせいたします。 2024.11.01 https://pictsquare.net/4g1gw20b5ptpi85w5fmm3rsw729ifyn2 本日22時より、イベントが開催されます。 よろしければ遊びに来てください。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました

タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。 クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。 死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。 「ここは天国ではなく魔界です」 天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。 「至上様、私に接吻を」 「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」 何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?

処理中です...