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第三話 恋にのぼせて頭パーン

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  ◇ ◇ ◇


 配管工に謝ってやれ。
 九蔵は心底そう思った。

 バトルをすることになったあとのことだ。

 それぞれが選んだドアを開いて中に入ると、迎え撃ったのはリアルアトラクションと化した即死トラップの数々である。

 まず現れたのは動く床。

 見かけからは予想できない高い天井に向けて、九蔵とニューイを乗せた床がジリジリと上がっていく。

 浮遊するハテナブロックや邪魔なレンガなど、間に挟まればひとたまりもない。インドア運動神経な九蔵にはしょっぱなから絶望かと思われた。

 しかし、ニューイには翼がある。
 動く床なんてガン無視だ。

 サイドから転がってくる巨大な亀の甲羅や骸骨亀もスルーしながら、あっさりと一面をクリアした。翼のない配管工が気の毒過ぎる。

 地面がマグマでも関係ない。
 ドッスンドッスンとなにがしたいのか上下運動する人面岩も、ニューイが指を鳴らせば空中で爆発霧散。

 なんでもありかこの悪魔。


「ここで遊ぶと、飛行も呪文もうまくなるのだよ! うまくならなければ出られないからね? ははははは」


 爽やかなイケメンスマイルで繰り出される悪魔ジョークも人間にとっては笑えない。

 乾いた笑みを浮かべてニューイ無双を見守りながら、ゲームと現実は違うと骨身に染みた九蔵である。

 ちなみに、九蔵はロマンチックなお姫様だっこ……ではなく、子ども宛らに片腕抱っこにて運搬されていた。

 若干肩に担ぎ気味で。
 乙女が憧れるお姫様抱っこでは指パッチンができない。

 おかげで前が見えず、ニューイがクリアしたトラップの残骸と羽ばたく悪魔の翼しか把握できていなかった。

 もう好きにしてくれ。
 背負っているお弁当さえ無事なら文句はない。言えるわけもない。

 そんなわけで──現在。

 だいたいワンパンで全ての障害をクリアしたニューイと担がれる九蔵は、中間地点のバルコニーにて、念願のランチタイムとしゃれこんでいた。


「割と慣れてきたな……」


 順応性の高い九蔵。
 死相が浮かびそうな顔で真緑の空をチラ見しつつ、レジャーシートの上で広げた重箱の中身に、舌鼓を打つ。

 小ぶりの重箱なので二人前だ。

 アクティブではない九蔵が重箱を持っているわけがないので、澄央が提供してくれたのである。それほど九蔵のお弁当が食べたかったらしい。

 朝からせっせと制作したお弁当。
 外で食べるとなかなかどうして美味だ。


「はぁ……ダメだ……耐えられない……九蔵はなんて酷い人間なんだろう……」


 けれどニューイは、深い深い、それは深ーい深海のような重苦しいため息を吐いた。

 九蔵は唐揚げをかじる。

 ランチタイムが始まってから、もうずっと罵倒されている。最初は心臓がヒヤリと冷や水を浴びせられたものだが、流石に慣れてきた。


「九蔵……キミは悪魔だ……私はキミを恨むぞ……心底恨む……」

「はい」

「最近、いや以前からキミは私を困らせてばかりだが……今回ばっかりは、ほとほとあきれ果てたよ……」

「はい」

「理解できないレベルなのだからね……まったく、残酷にもほどがある……」


 感情は昂っているものの、かろうじて顔面は悪魔化せずに済んでいるニューイ。

 ニュルリと伸びた尻尾はバルコニーの石畳をうねり、溜息は飽くことなく発されている。

 まあ理由がわかっていたとしても、エンドレスでチクチクとトゲを刺されると柔らかハートがフニュンと凹みそうだ。


「はぁぁ……たまごフェスティバルな上に美味しすぎて、なんだかもう、しんどい……」

「限界オタクか、お前は」


 まぐ、と唐揚げにかぶりついて飲み込む。
 ニューイのため息の理由は、初めて作ってもらったお弁当が感情のキャパシティーを超える感動をもたらしたせいであった。




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