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第三話 恋にのぼせて頭パーン
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しおりを挟む(そりゃあ、魂だけイチルの生まれ変わりな俺じゃ、簡単に太刀打ちできねぇよなぁ……)
ストン、と喉にひっかかっていたものが胃に落ち、納得する。
自分じゃその気になってもらえないと、ショックを受けていた自分が恥ずかしい。
それにそんなに愛し合っていたニューイとイチルに割って入ってなり変わろうとしている自分が、悪魔のように思えた。
「男とか女ってより、イチルじゃねぇからダメなんだろうて……」
「ちょっとぉ? ボクの知らない間に悩んでボク以外の理由で納得しないでくんね? つーまーんーなーいー!」
「んひっ、あっまっ、待て待てぃっ!」
一人で浸っていると、突然暴れながら体とベッドの間に手を入れたズーズィが、思いっきり尻を揉みしだき始めた。
だからやめろと言うに。
おのれは一級シリアスブレイカーか!
九蔵が悲鳴をあげてのたうつ様が面白かったらしい。まるで悪魔だ。うん。モノホンの悪魔だった。ちくしょう。
「はっ……はっ……はぁ……っ」
「んふ~。でぇ? 男とか女とかって話ぃ? なーに? 男だからニュっちが相手してくんないってぇ?」
「ああぁ……そうですけどぉ……」
名探偵ズーズィはひとしきり尻を揉んでから事の経緯を読み解き、九蔵の腹筋に顎を置いて落ち着いた。
なぜそこで落ち着く。
やめていただきたい。
「はぁ……もう、変な話ばっかだよ……常識知らずの悪魔だってのに、アイツは俺じゃ勃たねぇ普通の男と、おんなじなんだってな……」
もう文句を言う気力もない九蔵は、げんなりとしながら息も絶え絶えに頷く。
「絶対有り得ない。そう言われました」
「ふぅん?」
ズーズィはゴロリと九蔵の腹に甘えながら、ニンマリと笑った。
「確かに悪魔は、基本異性を狙うねぇ。ボクみたいに頓着しないのもいるけど、好みのタイプは美男美女美魂。コレ鉄則」
「ぐふっ……」
ドグサッ! と言葉の刃が九蔵の胸に突き刺さる。主に美男美女のあたりだ。
基本異性も効いている。レバーのあたりに効いている。
「んじゃ、ニューイは俺なんか眼中にねぇってことで……」
「あーら、諦めんの?」
「バカ。諦めねぇよ。二番手の俺は、一生片想いでいいってわけです」
ドサッ、と後ろに倒れ込み、大の字に横たわって仄かに笑った。
片想いには慣れている。
手の届かない相手なら、画面の向こうの王子様と同じだ。いつも通り。
画面の向こうの王子様はいつも九蔵に語りかけているようで、本当は画面の中のヒロインに語りかけている。
最近は性別を選べたりなかったりするゲームもあるが、結局変わらない。
それでも愛してきた。
たかが王子様がリアルに現れて本気の恋をしてしまったからと言って、彼を想うことをやめられないのだ。
「オタクなめんなよ~……」
「……ヘヘッ」
やさぐれ気味に呟く九蔵へ、ズーズィはなぜか嬉しげに笑う。
そしてそのまま身を乗り出し、キスができるほど至近距離へ顔を近づけた。
「っ……」
息が詰まる。なぜって、ズーズィが九蔵の顔をしているからだ。胸きゅんではなくげんなりである。
なにが悲しくて自分のしたり顔をガン見しないといけないのか。
ドン引きの九蔵を見つめたまま、ズーズィは口元にニヤリと孤を描いた。
「遊園地ダブルデートしよっか?」
もちろん、九蔵の顔色は青を通り越して紫色に染まっていたとも。
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