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第二話 気になるモテ期

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  ◇ ◇ ◇


 テイクアウトにしてもらった数々のミルク系料理をロッカーに預けた九蔵は、プリンス桜庭に誘われるがまま連れ歩かれていた。

 正直、用事が終わったあとランチをおごってもらったので、今日はもう解散だろうなと思っていた。

 けれど桜庭が保冷機能のついたロッカーを探すと言った時、もしかして……とお察しし、案の定というわけである。

 移動しながら話をするのは楽しい。

 お互いの漫画の趣味を語り合い、そういう書店に足を運ぶ。

 プリンスへの直視、接触を避けてイケメン好きであることは隠しているが、好きな本の話は否応なく心が躍った。

 オタクに優しい書店だって、普段はプロの忍びがごとく一人気配を消して素早く戦利品を見繕う場所だ。

 それが桜庭と一緒に行くとなると、仲間ができて嬉しい。
 とはいえ九蔵は九蔵なので、同志だからと言ってもなにも気にせず自分のトレジャーハントに専念はできないのだが。


「ここは魔窟だからな。財布の紐はしっかり締めたほうがいいぜ」

「ああ、しっかり守ろう。でも俺、実は漫画は初心者だから数は知らないんだ。九蔵のオススメが知りたいな」

「…………」


 店の前でレディキラースマイルを見せる桜庭のジャブを、九蔵は無言のまま下手くそな笑顔で華麗に躱す。

 近頃の九蔵のオススメは、〝イケメンキャッスルフィーバータイム~今夜は朝まで寝かさナイト★~〟という乙女ゲームである。

 あらすじは以下に。

 各国の王子様が国の利権をかけて血で血を洗う乱世を跋扈していたのだが、戦争をしていては勝って得た敗戦国が痩せているため、実入りが少ない。

 そこでゲスな王子様たちは「自国も他国も資源と人員を失わずあわよくば金をせしめよう!」と、世界中の王子様でランキングを競うホストクラブ対決を始めたのであった。

 攻略対象は全員王子様。
 そして全員もれなくゲス。

 主人公であるヒロインは、趣味で近接格闘術コンバットサンボを極めた可憐な少女である。

 冬眠中に目覚めた熊をおばあちゃんを守りながら仕留めた主人公が異世界トリップを果たし、世界唯一の渡り人として各国のホストクラブへ特別な審査員として派遣される。

 そこでバッサバッサとゲスな王子様ホストを物理的にオトしていき、うっかり全員をドマゾに変えて意図せず女帝となるハートフルホストラブストーリーだ。

 当然タイトルの「今夜は朝まで寝かさナイト★」は、ヒロインのセリフである。

 発売当初は九蔵も含め、世の乙女ゲームオタクたちが「イカレてやがる」と口を揃えていた問題作品だった。

 それが今やまんまとハマっているのだから、なにも言うまい。クリエイターは天才なのだろう。

 閑話休題。

 黙り込んだ九蔵に小首を傾げた桜庭だが、すぐに「あぁ」と言って自然な流れで九蔵の頭にポンと手を置いた。


「っ!?」

「初心者な俺なので、地雷というものはないよ。と言うか、九蔵が楽しいものを知るのが楽しい」


 光の速さで肩を竦めて斜めにドン引きした九蔵だが、桜庭は一切動じずに笑顔で告げる。経験値の違いか。

 ──つか……ニューイ以外のイケメンにこんなに優しくされて、話もできているのは初めてなんだよな。


「……イキャフィバは玄人向け過ぎるから、とりあえず王道モノをご紹介いたします」


 思わずご来光を感じて拝みそうになった九蔵は、顔を逸らしつつ小さな声でそう言った。




「悪い子だ」

「だが顔がいい」

「人に許可なく触るのは人間世界ではよくないと九蔵は私に言っている。ずっと距離が近くてハラハラしていたが、ついに無許可で触れたあのイケメン……悪い子だ」

「だが顔がいい」

「ぐ、ぐぐぅ……っ真木茄 澄央は悪い子でもイケメンならばよいのかいっ?」

「いやいや。俺はかわいい後輩兼友達ポジを奪う相手はみんな威嚇するス。しかし顔がいい男は眼福ス。見るだけならタダ」

「むぅ……九蔵の魂の輝きは誰よりもイケているのだよ……! イケタマなのだ……! イケてるメンズよりイケてる魂のほうが悪魔的には価値があるのだぞ!? 目を覚ますのだよ、真木茄 澄央!」

「ん? でもココさんがイケタマなのが全面的に知れ渡ったら、悪魔にモテモテな上に食糧的な意味でロックオンされまくるんじゃないスか? イケメンに注目を集めてもらえばココさんは目立たないス」

「顔がいいのは素敵なことなのだよ」

「ニューイ今日一のイケメン顔スね」




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