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第二話 気になるモテ期

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 こういうことは、口に出せない。
 それが個々残 九蔵に生まれた宿命とも言える。呪いかもしれない。

 しかし基本的に人畜無害で人当たりもよく見かけも最高峰なニューイは、当然のようにコミュ力が高かった。初対面の澄央ともう気兼ねなくありのままで話ができる。

 悪魔といえど素直に感心してしまうと同時に、九蔵は少し、憧れのような、恋慕のような……輪郭のない感情を抱いてしまう。

 物語の中のイケメンが好きだ。

 彼らはどうしたって九蔵にはなれない存在だからである。
 自分だってそうありたいと思う。けれどどうも九蔵は口が上手くなく、適度な人付き合いというものの塩梅がよくわからない。

 なのに彼らは自然体のままキラキラと輝いて、まるでお星様のようだ。

 陳腐な表現だが、幼い頃の九蔵は確かにそう感じ、恋をした。

 しかし約一ヶ月前。
 そのお星様が、突然手の届くところに花束を持って現れた。

 そうなると、どうなる?

 考えずともわかる問いかけだ。この感情はそういうアレ。トキメキによるバグの解釈違い。二次元に恋する錯覚と同じ。

 ライブ会場で推しのファンサービスが自分だけに向けられたと勘違いする、バカなロマンチストと同じだ。

 モテない男が笑顔がかわいいコンビニ店員に恋をする陳腐なストーリーと同じだ。

 コミュ力の高いクラスメートに毎日挨拶をされて恋をする女子高生と同じだ。

 冴えないメンクイフリーターが性格がいい悪魔的な王子フェイスと同居し、前世の男を恋しがるイケメンの愛に絆されかける。

 ただの錯覚だ。
 でなければおかしい。

 なぜなら九蔵が好きなのは顔だけで、グイグイ押されるなんてむしろ苦手だった。嫌いになってしかるべきだろう。

 家を破砕されて迷惑をかけられて、甘えられて笑いかけられて、添い寝されてご飯を一緒に食べて。

 行ってらっしゃいとおかえりはいい。
 映画やドラマも一緒に見てくれるし、拙くオチもないアホ丸出しのコミュ障トークをなんでもうんうんと楽しそうに聞いてくれる。


(いやだからってメンクイのクソ野郎がイケメンに惚れるとかテンプレありがちすぎて萎える……──って!)

「待て待て、今のなし。嘘だっ。恋愛ジャンル最底辺の俺があの誰でも仲良しこよし大歓迎くんに惚れたら絶っ対苦労する!」


 パッ! と頭を抱え真っ赤な顔を腕の中に隠す九蔵は、うんうんと身悶えた。

 これはメンクイ故の性である。
 ただしイケメンに限るという言葉や、自分を好きな相手は好きになるというご都合理論による、思い込み。

 そうに決まっている。
 それ以外は有り得ない。

 別に、ニューイが喧嘩をしても諦められないと言ってくれたことは、関係ない。
 九蔵のめんどうな部分をちっとも悪いと思わないと言ってくれたことなんて、全く無関係だ。

 ましてや九蔵のデリケートな隠し事をむしろ嬉しいと喜んだ、笑顔についてなんて。


「…………ない」


 なに一つ、これっぽっちも、頭から離れないなんてことは、ないのだ。

 心の中で散々誰にかもわからない言い訳をし、心の中の九蔵が真っ赤になって首を左右にブンブンと振る。


「けど、絶対沼るからそのジャンル見ねーって言ってる時ってのは、もう割とズブズブなんだよなぁ……」


 ──それはつまり、もう手遅れ。
 こじらせ恋愛苦手男子な九蔵は、チラつく言葉を、フルスロットルでシカトした。




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