14 / 72
第一生 子猫とジャガーとドリンク無双
06
しおりを挟む◇ ◇ ◇
『一斉はん。一斉はーん? ……一斉はーん! はよ起きてぇ!』
聞き覚えのない関西弁に呼ばれ、一斉はのっそりと起き上がった。
辺りを見回す。知らない部屋だ。
一斉がいるのは大きなベッドの上で、シーツは上質な布を使った誂えだと肌触りでわかる。というかデカ過ぎる。
植物柄の壁にはこれまた大きな窓がいくつもあり、外の木々を透かして太陽光がたっぷりと差し込んでいた。
デカい。それに広い。家具や小物もコテコテと凝ったデザインだ。
まるでお姫様の住むお屋敷のようだが、それよりは庶民的でカントリー。
白雪姫なんかが似合いそう。
会ったことはないが。
『おーい! 起きたと思ったのにまだ寝てるんかっ!? 一斉はんこっち見てぇ!』
「あ……?」
童話の部屋に紛れ込んだ小人になった気分でぼけっと宙を眺めていると、目の前で丸いフォルムのロボットがピョンピョンと跳ねた。
ピンポン玉サイズの黄色のボディ。
枝のような細く長い手が二本生えていて、腕立て伏せの要領で跳ねているようだ。
ボディには小さなモニターがついている。そこに映された電子的な両目は、怒りを露わにしていた。なんだこれは。
一斉には、関西弁を操るハイテンションなロボットの知り合いはいない。
しかもかなりコテコテの関西弁。
プログラムのミスだろう。
『やっと起きたでー! ほんま困ったマスターやなぁ。んま! キュートなワイは心も広いさけそんなん気にせんけど!』
「…………」
『いやノーコメントかい!』
イマイチ反応が悪い一斉に、ロボットは冷たいだのノリが悪いだのと文句を言ってコロコロと転がった。
そのコロコロも無言で眺める。
特に感想はない。
ひとしきりコロコロしてからどう足掻いてもノーリアクションだと気づき、ゴホンと仕切り直すロボット。
『ンンッ……ええか? ワイはペナルティヘルパーゴーストこと[ツミホロボシ]! 一斉はんの罪滅ぼしをサポートするキュートな球体型神式駆動AIシステムでっせ~!』
ロボット──ツミホロボシは、細く節のある機械の腕でコン! と胸、というか球体の下あたりを誇らしげに叩いた。
が、言われたところで「あぁそうか」としか言えない一斉である。
リアクション芸の才能が焼け野原な上に会話能力は並以下で素がローテンションな一斉とツミホロボシは、相性が悪かった。
『いや~、ホンマはボーナス能力を初めて使った時に説明係で初登場するプログラムやねんけどな! 一斉はん能力使わへんねんもんな! エンターテイナーのワイ的に我慢できへんよな! 下手すりゃ能力忘れとる可能性すら感じたし孤独死するか思たわ!』
「……おう……」
『ちゅーかそんなことある!? 異世界トリップしたら普通すぐチート能力使うやろ!? それが若者やん! 少年の心やん! も~ボケっとしくさってどうせグウゼンはんが甘やかすからこんな主人公向きやない受け身の極みみたいな男になってもうたんやろっ!』
「……おう……」
『ワイは甘やかさへんで! 刺青チラリズムしとるイカついお兄さんでも負けへんっ! 当システムはゆとらせへん教育を推奨しています!』
ピコピコガションッ! と電子音とともに管をまくツミホロボシ。
一斉は意味もわからず頷く。
もちろんちっとも理解できていないのだ。というか名前が長くて覚えられない。表情も変わらない。
自慢じゃないがコミュニケーション能力と思考速度の遅さには自信がある。言い分は要約してほしい。
(……? ジェゾ。……いねぇ)
102
お気に入りに追加
744
あなたにおすすめの小説
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…
しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。
高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。
数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。
そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…
身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
ヤンデレ化していた幼稚園ぶりの友人に食べられました
ミルク珈琲
BL
幼稚園の頃ずっと後ろを着いてきて、泣き虫だった男の子がいた。
「優ちゃんは絶対に僕のものにする♡」
ストーリーを分かりやすくするために少しだけ変更させて頂きましたm(_ _)m
・洸sideも投稿させて頂く予定です
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる