871 / 901
十五皿目 正論論破愛情論
71
しおりを挟むパッと顔を上げて、俺はアマダを睨んでいた視線をアゼルに向けた。
無関心な表情。
アゼルはまるで記憶喪失事件の時に過去へ戻ってしまった、魔王様のようだ。
「な、なんでっ」
「お前は俺の番だけどな、他種族の王とじゃ、無礼がすぎるだろ。それに……俺は帰れと、手紙を送ったはずだが?」
「それは……、っそう、だが……」
淡々とした拒絶に、俺は悔しさを噛み締めて顔を逸らした。
もちろん演技である。
わかっていれば、悲しくもなんともない。アゼルは俺を愛しているのだ。
「アゼリディアス……」
アマダがアゼルの名を呼び、俺とアゼルに交互に視線を走らせた。
それはそうだ。普通に考えると手のひら返して俺に無関心になり、アマダに肩入れするアゼルは、異常に見える。
けれどアマダはアゼルの手を払うこともなく、悩ましく思いながらも甘受した。
セファーが勝手に洗脳を企てたということを、少しは察しているのだろう。
でないとアゼルが急にアマダに寄り添うのはおかしいと気づくはずだ。
それでもなにも言わないのは、それを是と受け取ったからに他ならない。
アマダはアゼルが好きだから、わかっていても拒否しない。したくない。気持ちはわかる。
だがつまりセファーは、アマダを愛しているのに、アマダが愛するアゼルを与えるため、魔界に喧嘩を売るようなことをしたのだ。
──……なら、アマダが報いるべき愛は、そこにあるんじゃないのか? と思うのは、お節介だろうな。
「……チッ、お前のせいで……」
恋が上手くいかない悩ましさを噛み締め、上手くいった愛する者を取り返すべく、俺は強くアマダを睨みつけた。
もちろん演技だが、大人しそうな顔立ちの俺がツヤピカで睨むとなかなか怖いみたいだ。
「う、ぁ……っい、いいんだ。アゼリディアスは、シャルと帰っていいぜ。壊された儀式の道具を直さなければならないし、遅れた段取りを立て直さないとな……」
睨まれたアマダは状況に気が付き、ニコリと笑ってアゼルの背を押した。
その笑顔は悲壮なものだ。悲しい中、笑顔を見せて強がっていることがよくわかる。
アゼルが眉を寄せて、自分より少し低い位置にあるアマダの頭に、ポンと手を置いた。
「アマダ、気にするな。帰らねぇよ。俺が手伝う。シャルとリューオだけで帰らせるから、大丈夫だ」
「えっ、でも……」
「なっ……アゼル……っ、俺よりも、アマダと行くのか……っ!?」
アゼルのとんでもない発言を受けた俺は、渾身の演技で驚愕し、アゼルの肩をグッ! と掴んだ。
「行かないでくれ、なぜっ、俺より大事なのか……っ?」
「ッ、……あぁ、当たり前だろ」
「アゼリディアス……。っ俺はいいんだよ、俺よりシャルをっ」
もちろんこれも作戦だ。
安心してほしい。
脳内でかの軍師の「今です!」が聞こえたぞ。頑張り中の俺である。
そしてこの悲壮感溢れる引き止めの演技はな、おねだりにダメダメと首を振る俺にしがみついて駄々をこねるアゼルのモノマネだったり。
ふふん。上手だろう? アゼルは演技中なのに、一瞬狼狽えたぞ。迫真の悲壮感だ。
なぜなら見本であるアゼルの駄々っ子モードが、いつも本気だからであった。
30
お気に入りに追加
2,671
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる