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十四皿目 おいでませ精霊王
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しおりを挟む一瞬の間の後、ビシッと場が凍る。
(えっと、ああ、うう、えと、えぇと……ど、どういうことだろう……?)
時が止まった場で、狼狽える俺の思考は、ゆっくりと回り始めた。
いや、どういうことかはわかるんだが、かなりマズイのではないだろうか。
なんと言った?
俺を好きなタイプだと思った前科があると、言ったんだな?
なんてこったい。あまりにタイミングの悪い冗談じゃないか。ダメだぞ。
すっと指していた指を下ろすゼオは、これでいいだろう? とでも言いたげに、ポカンとするキャットに向き直る。
全然良くない。
ゼオはあまり冗談を言うタイプではなかったのに、突然どうしたんだ。
指さされたキャットは俺を見つめて、頭の周囲にクエスチョンマークを飛ばしていた。
気持ちはわかる。
俺もおそらく同じ顔をしているだろう。
「うへえ……? ゼオ様、好きなタイプ、誰ですって?」
「だから、こういうのです。正直、あまりわかりやすいタイプってないんですけど……シャルに一回惚れたので、おそらくこれで合ってますね」
「え、え? し、師匠…………えっ、えっ!? ほあぁ……ッ!?」
いけない。
キャットが壊れかけている。
凄くしがみつく腕に力がこもっているのだ。まったく悪ふざけがすぎるぞ、ゼオ。
「……。……ん、んん……」
俺はポカンとしていた口を閉じ、キャットの背をなでながら、その場にそーっとしゃがむ。
男三人がしゃがみこんで頭を突き合わせる謎の構図になってしまったが、よしとしよう。
「ゼオ。冗談は冗談っぽく言わないと、キャットが泣いてしまったじゃないか」
「ああ、冗談じゃないですからね」
「…………、そ……そんな話は聞いていないし、そんな気配も全く感じなかったんだが……!」
「それは言ってませんし、好きかもしれないわって思った当日で、アバラと一緒に恋心も折れましたから。今はなんとも思ってませんね。既婚者で、相手が悪すぎますしね。好みなだけです」
「いや待て、アバラってなんだ? もしかして初めて会ったあの時の話か? アゼルに折られたアバラか?」
はい、と軽く頷いて俺を見上げるゼオは、相変わらずの無表情で淡々と告げる。
しかしアバラが折れた時なら、俺とは初対面だったじゃないか。
一目惚れと言うやつだったら、それこそ首をかしげる衝撃事件だぞ。
だってあの日の俺は、見た目を誤魔化して鬼族になっていた。
そして仲間とはぐれた迷子のような状態だったぞ。間抜けすぎる。
食事も奢ってもらい、無理矢理紅茶の茶葉を押し付けた。
それからええと、買い物に付き合わせて、いろいろなお店を回ったな。それだけだ。
(……それだけなのにアバラが折れたゼオは、どうして俺を好きになったんだ……!)
ますますわからない。
掘り返すと、嫌われても文句は言えない惨状だった。
今仲がいいのが奇跡的だぞ。
考えられるギリギリの理由は、見た目が嘘っぱちだったので、あの時の見た目が好きだったのかもしれない。
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