上 下
665 / 901
十三皿目 ラブリーキングに清き一票

17

しおりを挟む


「アゼル、俺に隠し事はないと言ったというのに……っ」

 昨夜アゼルに誤魔化されたことに気づいた俺は、シュン、としょぼくれて震える。

 そして俺の心情なんてこれっぽっちも気にしないリューオ曰く、だ。

 アゼルは今日、城下街の女装コンテストに出場する為に、聖剣でムダ毛の処理を頼んできたらしい。

 元々毛の薄いアゼルだが、剃り残しを考えて魔族特効の聖剣を使うあたり本気だ。
 本気で女装しに行ったのだ。

 あんなにしれっと仕事に出かけていったのに、アゼルめ。

 女性と浮気ではなく、自分が女性になるつもりだったなんて!

「コンテストなんて、せめて俺にも言ってほしかったぞ……! 俺もアゼルに一票を投じたい……っ!」
「そこかよッ!」

 ん? そこしかないだろう。

 意味はわからないが、せっかく旦那さんが頑張って女装を極め、戦いの舞台に赴いているんだ。

 妃の俺が応援しないでどうするんだ。隠し事をされるより、応援させてほしかった。

 女性扱いされたかったのか、女性になりたかったのか、単純にそういう趣味なだけなのか。

 真偽は置いておいて、こうなったら俺もアゼルに投票して、コンテスト優勝に貢献するしかないのである。

 静かに意気込む俺にリューオは面倒臭そうにしていたが、不意に目を輝かせてニヤリと笑った。

 強盗計画中の犯人みたいだ。
 凶悪フェイスは伊達ではない。

「だったら今からテメェも女装して、会場に行けばいいじゃねェかッ。確か会場は男子禁制、女装男子かニューハーフしか入れない決まりになってるからなッ」
「リューオ。確かに今の俺はツルツルだが、自分が女装男子とクリーチャーのどちらになるのかぐらいはわかっているつもりだ」
「ククククッ! 大丈夫だって! お前も面はイイんだクリーチャーにはならねェよ! せいぜい映像規制はいるくらいだってッ!」
「規制されたらダメじゃないか。モザイク塗れでアゼルの応援をするのか? 観客のアクが強すぎて、警備員に連れ出されるまで五秒とかからないと思う」
「まあまあまあ。ここはユリスに突っ返された化粧品をたっぷり召喚魔法域のこやしにしてる俺が、うまいことそのお硬てェ男前な面をモンスターメイクにしてやるぜ!」
「結局モンスターだぞ」

 ユリスにすげなくあしらわれた挙句、暇を持て余したリューオは喜色満面面白がって、コンテスト会場に女装で乗り込むことを推奨してくる。

 言っておくが、俺がして行くならリューオも頑張って連れて行くからな?

 ユリスとの喧嘩一回仲裁券をダシに、全力で頼み込むからな?

 ──そうして応援には行きたいが女装は渋る俺を、口八丁手八丁で連れ出そうとするリューオという穏やかな初夏の午後。

 突然、ガチャ、と窓が開く音がした。

 俺はそちらへは視線を向けずに、来客の正体にあたりをつける。

 窓から入ってくるのはガドだろう。
 その為に鍵を開けっ放しにしているのだ。

「──話は聞かせてもらったのだよ。私も混ぜてくれないかな?」
 ガタガタッガタンッ。
「殺していいんだよな?」
「俺の獲物だ」

 同じくどうせガドだろうと高をくくっていたリューオが、俺と同時に立ち上がった。

「あはははは。ちょっと君たち目視コンマで殺意高すぎない? 今天界離れてるから戦闘力半減なのだよ、私」

 お互い愛剣を取り出し、身体強化をかけて構える。
 殺意も湧くだろう。なんでここにいるんだ。


「私はグウェンドルグ・アン・メンリヴァー、天王だ。グウェンちゃんと呼んでおくれよ。いやいや、前は名乗る前にナイルゴウンにフラれてしまってね? 改めてよろしく。魔王の妃と、異世界の勇者」

「「誰がよろしくするかよ、クソ天使」」


 珍しくユニゾンしたセリフ。

 突然の侵入者こと天王──グウェンちゃんは元・勇者と現・勇者の殺気たっぷりの剣の鋒をむけられ、似つかわしくない無邪気な笑みを浮かべた。



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...