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閑話 ガオガオ勇者の意外な一面と、ご機嫌回復戦線

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 うぅん? しかしアゼルはなんだか、非常に死んだような目をしている。

 それはもうこの世の終わり、いや終わらないなら終わらせてやるってくらいの目だ。

 そして扉の前に子ども向けの童話絵本が散らばっていることから、察するに、だ。

 本を読み聞かせる云々の為に、入り口は違うがガドと同じく、アゼルはこの部屋に来ていたんだな。

「墜ちろ」
「ウァウ魔王魔王ちょっとまってくれ俺のせいじゃない一旦話を聞け魔王ォッ!」
「正さねばならない。間違いは二度と起きないよう、元を断つべきだ」
「元という名の俺の唇を永久的に奪わせねェよゥ~ッ!?」

 音もなく正確にガドの尻尾あたりにだけ現れた、光すら飲み込む濃黒の空間。

 濃密な闇魔法の気配にガドは素早く俺から離れ、飛び上がって必死に首を左右に振る。

 ──おお、あの動きは……なるほど。
 ユリスたちも俺の後ろにアゼルがやってきたのが、見えていたのか。

 そしてガドも、途中で気づいたのか。

「なるほど、ふむ」

 俺は答えがわかってポンと手を打った。
 スッキリした。

 嬉しくてにへら~っと笑い、アゼルに報告するべく、俺はここにいるアピールをする。

 飛びながら逃げるガドをゾンビのようにフラフラと追いかけていたアゼルに、両手をあげて、ヒラヒラ。

 だって、俺は毎日のことをアゼルに報告するのがいつもの恒例なんだぞ。
 ここにいるんだから、今それをするのは当たり前だ。

 そして当然──まずはおかえりのキスだろう!

 一応、素面の俺のために言っておくが、本来の俺は唇ハンターではない。至って普通の節度ある男だ。

 だがしかし。前科がある。

 過去に会社の飲み会で上司の命令に逆らえず、キャパシティを超えるほど飲み潰された時だ。

 男女年齢問わず唇を奪い、平手とゲンコツをくらいながら、数人の性癖を開花させた業の深い経歴があったりなかったり……もにゃもにゃ。

 暗黙にお酌担当となっていたその理由は、記憶のない俺には知らされることのない話である。

 つまり部署全体で酔い潰さない協定が結ばれるほど、たちの悪い酔い方をするのだ。

「安心しろ。これは俺の消したいものしか飲み込まない、俺しか使えない魔法だ、ガド。だからはやく堕ちろ。傷つけたくねぇ。お前は優しく消してやりてぇからな」
「魔王ォそれ優しくねェ~ッ! 俺ァなにがなんだかわけがわからなっ」
「あぜる、あぜる、おれここ」
「…………」
「! シャぁルぅ……!」

 フリフリと呑気に手を振ると、アゼルは途端にスイッチが切られたように、動きを止めた。

 それを見て竜の翼を出して飛んでいたガドが、助かったとばかりに甘えた声を出して喜ぶ。

 俺の元へ飛び付きたそうにしているが、アゼルが無表情で見ているので自由人の自由が規制されていた。

 かわいい、ガドはかわいい。
 もう一度キスしたくなる。

 だがそれより先に、やることがあるのだ。

 ガドを愛でるのは保留にし、俺は元の椅子に座り直して、硬直しているアゼルにコイコイと手を招いてみる。

 なにやら絶大なダメージでも受けていたのか、能面モードでガドを追いかけるのもフラフラしているアゼルが、ピタリと止まった。


「あぜる、おれだ。おまえはかえったらまず、おれのとここないと、だめ。だめなあぜる、おれのあぜる、がどをいじめちゃ、だめ」
「………………」


 お。こっちを向いたぞ。


「………………ぐすん」


 おろろ、泣いた。

 なんとアゼルは、俺の声に機械的に顔を合わせた瞬間。

 めしょっと表情を崩壊させ、涙目で鼻をすすりだしたのだ。

 そして好機と見たガドが、「逃げるんだよォ~ッ!」と叫んで、窓をバリィンッ!と破壊して逃げて行った。

 素早い。流石空軍長官。



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