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十二皿目 卵太郎、改め

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「ぅあ、ぴぃ……」
「「!?」」

 そうしててんやわんやと慌てふためく俺たちを尻目に、アゼルの闇魔力の塊の中からふにゃりとした幼い声が聞こえた。

 ハッとして顔を見合わせる。

 生き物らしい声。
 ──ということは、卵太郎は殻を割られても、死んでしまったわけではないということだ。

「っ!」

 同じ結論に至っただろうアゼルは、すぐに鬼気迫る表情で手をパタパタさせて、自分の魔力を散らした。

 俺は魔力の晴れた卵太郎の寝床に、あせあせと焦燥し素早く詰め寄る。

 パキパキとヒビから崩れ落ちていき、半球のみが残った卵の中。

 少し湿ったクリーミィブロンドの長くウェーブした髪が、足元まで広がっている。

 丸みのある愛らしい大きな翡翠の瞳をこぼれ落ちそうなほど開き、キョトンと座り込んでいる卵太郎。


「ぴゅう」


 ──もとい、裸の少女がいた。

 予想外の光景に開いた口が塞がらない。

 俺の知っている卵太郎じゃないぞ。
 というか女の子だ。それも、とびきりかわいらしい。

 いやいや。性別の話は俺の思い込みだから、まだ問題はない。

 それよりも他。
 いろいろとツッコミどころが満載だ。

「ぴゅーい」

 愛らしく鳴く少女は、人間年齢だと五歳くらいに見える。

 卵の大きさから見ておかしくはないが、生まれたての赤ん坊がこの大きさなのは、どうなんだろうか。

 疑問だが、不自然ではない。
 例えば草食動物。

 草食動物は生まれてからすぐに立ち上がり、歩き出すほど成長してから生まれてくる。

 しかし……少女の見た目は、一応人型だ。

 人型の少女の背中に、なにやら植物の芽が生えた下向きの白い翼がなければ、完全に人間なのだ。

 鳥にしても人間にしても、これは予想外だった。

 どっちでも愛して大事に育てるつもりだったが、魔物だと思っていたから少し理解に時間が必要だぞ。

 俺が少女を見つめてそんなことを考えるまで、ほんの数秒。

 動かない俺の後ろから不意に、にゅっとアゼルの首が伸びてきた。

「ぴぃ、ぴぃ」
「? あぁ……?」

 俺と違ってなぜか全く驚いていないアゼルは、卵太郎が無傷で生きていることに安堵している。

「……んん……、コイツ……?」
「待て待て。全裸の女の子の匂いを嗅ぐのはよろしくないぞ。全然ダメだ」

 しかし急に首を傾げたかと思うと、くんくんと匂いを嗅ぎ始めた。

 俺は反射的に服を引っ張り、アゼルの奇行を止める。

 まずい、それはいけない。

 冗談抜きで変態にしか見えない。
 俺の旦那さんが捕まってしまうのはいやだ。

 アゼルは俺の静止の意味に気がついたらしく、なにもわかっていない様子の少女から、バッと素早く離れる。

「ち、違う! タローから魔力の匂いがしねぇんだよ!」
「魔力の?」
「ぴゅぅ?」

 俺が首を傾げると、少女も真似をして首を傾げた。んん、かわいい。

 魔族いわく魔力に匂いがあるのは知っていたが、俺にはなにも匂わないので全く気がつかなかった。

 アゼルはそれが気になって、変態行為を働いたらしい。興奮したわけじゃないと。

 冤罪だったみたいなので、俺はすぐにアゼルに謝った。

 それからなるべく女の子に着せてもおかしくないシンプルな服を自分のタンスから取り出し、少女に羽織らせる。 

 シャワーを浴びさせるにしても、それまで裸ではいけない。
 動揺してしまって、そんなことにも気を回せなかった。

 翼を避けつつ白いシャツのボタンをとめてやりながら、なるべくやさしく笑いかける。

 すると少女は俺の真似をして、無邪気に笑った。かわいい。かわいいぞ。

「シャル、シャル」
「ん?」

 そうしてのほほんと和む俺の肩をアゼルはつついて呼び、そわそわと口を開いた。

「浮気じゃないからな? 俺はお前以外の匂いを意味もなくかぎたいことはねぇんだぜ? 本当だ、なぁ」

 なるほど。
 勘違いだと謝ったのに、俺が不快に思っているのではと気にしているらしい。

「ん。お前が浮気をしないことくらい、俺はよく知っているぞ」
「ぬぁっ!」

 なのでこっちのかわいい男にも、俺はニコリと笑いかけ、頬にキスをした。

 唇は教育上自重だ。
 大人のキスはなかなか刺激的だからな。




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