上 下
618 / 901
十二皿目 卵太郎、改め

01

しおりを挟む


「おぉ……」

 コトン、と動く卵に、俺は感嘆しながら目を輝かせる本日は──卵太郎を拾って、三ヶ月だ。

 普通の鳥ならば生まれているはずの時間が過ぎたあたりから、流石にひっくり返さなくてもいい頃合い。

 温めながら見守るに留めると、手がかからないいい子なうちの卵は、よく動くようになった。

 まだ仕事に行くには早い朝だ。

 俺は卵太郎を抱きしめて殻に耳を当て、その中にいるヒナの動きを感じ、感動する。

 凄いな。
 生命の神秘じゃないか。

 一見して無機物のような殻の中に、確かに卵太郎は生きている。

 俺のきびだんご作りも様になってきているので、本命の卵太郎が生まれてくるのが、酷く待ち遠しい。

 毎日せっせとひっくり返して保温し、時に手入れをしたり歌を歌ってみたり、語りかけるのは当然。

 母性のかけらもない俺だが、愛情を込めて、大事に育てたつもりだ。

「うぐ、うぅ……ッ」

 父親の心境で包んでいる毛布の上から頬をすり寄せているそんな俺を、アゼルは複雑な表情で見つめていた。

 アゼルはいつも読書に使っているトラッキングチェアを引っ張ってきて、待機。

 真横でギシギシ揺らし、腕を組んでいる。
 興味津々なのか。

「アゼル、お前も頬ずりするか?」
「ぐぅぅっ」

 卵太郎に頬を当てたまま見上げると、返事とも取れる妙な声を上げてもだもだとし始めた。

 かわいがっていたのにどうしたんだろう。

 アゼルだって毎日卵太郎をつついたり、ひっくり返すのを手伝ったりしていたんだぞ。

 慣れた時には新しい毛布をたくさん抱えて、ツンケンと俺に差し出してきたこともあった。

 初めは気に食わなさそうだったが、今は相当興味津々。
 なんなら気に入っていると思う。

 アゼルは卵太郎のことを、いつの間にか呼びやすくタローと呼んでいるほどだ。

 卵太郎は喋らないし目もないし、アゼルが人見知りを発揮し続ける要素がないからな。

 なのに俺と卵太郎を交互に見てやっぱり「うぁぁ……!」と唸るアゼルに、首を傾げるしかなかった。

「……タローのことは別に嫌いじゃねぇが、俺以外でシャルに抱きしめられるやつはみんなちょっと小憎いぜ……うぐぐ……」
「うん? 卵太郎がどうかしたのか」
「なんでもねぇっ」
「うお」

 アゼルは俺の問いかけに頭を振って、拗ねたように俺ごと卵太郎を抱きしめる。

 それがいつも通り力強いものだから、俺の腕の中で卵からビシッと音が聞こえた。

 ……待て。
 ビシ、だと?

「ヒビが入った!」
「なあぁぁあぁぁ!?」

 俺が顔を上げるのとアゼルが絶叫して冷や汗を流し始めるのは、ほぼ同時だった。

 二人共拳銃を突きつけられた容疑者のようにパッ! と両手を上げる。

 混乱の中ヒビの入った白い卵を見つめ、オロオロと騒ぎ立てるしかない。

「アゼルどうしようおっ俺が割ってしまったぞっ!?」
「いやちげぇ俺だろ絶対俺だろぉぉぉぉ!? これだから嫌なんだ矮小な生き物はすぐ壊れる自業自得だ知らねぇぜ馬鹿野郎ッ! 闇回復回復回復回復かいふくぅぅぅぅう!!」
「あぁぁあもうなんか闇魔力に包まれてもずくの卵みたいになっている! 最早なんだかわからない! というか卵に回復魔法効くのか? 効くのかッ?」
「きききき効かねぇよ殻だからな殻自体は生きてねぇからなっ!?」
「よしわかった、俺が瞬間接着剤……ア○ンアルファを買いに行ってくる」
「アロっ、タロー回復薬か……ッ?」
「一度壊れた二人の関係みたいなもの以外は大抵これでまたくっつくんだ」
「今すぐ大量発注するぞッ!!」



しおりを挟む
感想 215

あなたにおすすめの小説

完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

愛され末っ子

西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。 リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。 (お知らせは本編で行います。) ******** 上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます! 上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、 上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。 上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的 上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン 上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。 てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。 (特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。 琉架の従者 遼(はる)琉架の10歳上 理斗の従者 蘭(らん)理斗の10歳上 その他の従者は後々出します。 虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。 前半、BL要素少なめです。 この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。 できないな、と悟ったらこの文は消します。 ※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。 皆様にとって最高の作品になりますように。 ※作者の近況状況欄は要チェックです! 西条ネア

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

処理中です...