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九皿目 エゴイズム幸福論
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しおりを挟むアゼルはワシワシと前髪を乱してから整え、ふぅと息を吐く。
それから深く座り直して背もたれにもたれかかり、顎を上げて目を細めて俺を見た。
「嫌だと、言ったら?」
「もうちょっと押してみる。その理由を払拭して、まずはお茶を、ゆくゆくはディナーでもという算段だ。一人でより二人のほうがうまいぞ、俺はぜひお供したい」
「お断りだな」
「まぁそう言わずに。なら事情は聞かなくとも、取り敢えず一緒にこちらのはちみつジンジャーティーを」
「チッ……お前は、メンタルが超合金でできてんのか? お断りだっつってんだろ、弱い人間と、なんか」
食い下がって見るとギッと本気で睨まれ、目があったものだから背筋に冷たいものが走り抜けた。
数えるくらいしか見たことがない目。
いや……、すごいな、怯み状態異常能力。
だけど俺は逃げることも、逸らすことも、選択肢がこれっぽっちもなかったので、なにも考えずににへ、と笑ってしまった。
「残、念ながら……効かないんだ。俺は貴方が好きだからな。愛とは無敵なんだよ、ふふん」
「ッ……!」
本当は効いていたが、やっぱり怖いとは思わなかったので調子のいいことを言って指を二本立てて見せた。ピースだ。
アゼルは返事をせずにサッと視線を逸して、所在なさげにキョロキョロする。
目を逸らされたので解除されて、俺は改めてにっこりと笑う。
ずっと一人でしていたお茶会を二人でした時に、「これがいい」と呟いたお前。
だからただそうしてやりたいだけだ。
そんな俺に、アゼルは顔を背けてゆっくりと深く息を吸って、吐き出す。
「お前と話すと、俺は……気持ち悪い、変になる。だからそういうのは、迷惑なんだよ」
「…………」
「お前はそのダイスキな魔王様を取り戻して、ここでの生活の為にも愛されたいんだろうがな、俺は生憎、そんな感情を生まれて以来持ち合わせたことがねぇ」
「んん……、……」
「そのお花畑みたいな脳味噌にしっかりと刻めよ。俺に、期待するな。今まで通りの生活は保証して、それらしく振る舞ってやるから、さっさと諦めろ。……ライゼンが俺に、お前と出会った一年間を捨てるなと言った価値が、わからねぇな……」
面倒くさそうにするアゼルのハッキリとした言葉に、俺は情けない笑顔を晒すしかなかった。
キッパリと諦めさせるためにも、ゆっくりと厳しい言葉を選んで、断言してくれたのはわかっている。大丈夫。
俺はそんなつもりはちっともなかったが、やはり滲んだ感情は俺を愛してくれと押し付けていたのだな。
そういうのは残酷だ。
お前を無意識に傷つけたなんて、俺はまったく悪い男だ。
「……ふふふ。魔王様、俺は生活なんてどうでもいいんだ。こう見えて野宿も得意だし、過酷な仕事もなんとかこなせるくらいには頑丈なんだぞ?」
「は? それ以外になにがあんだよ。人間なんて弱いくせに金のために魔界にやってきて領地を荒らす、そんなヤツらだ」
「う、それは申し訳ないが……でも俺は生活の為に、貴方に媚を売っているわけじゃないぞ。もちろん、記憶も戻れば嬉しいが、戻らなくてもじゃあもうイイとはならない。俺は俺を愛する貴方を好きになったわけじゃない」
「意味わかんねぇ……、いや、あぁ、わかった。お前は底抜けのアホで、ノーテンキ野郎なんだな?」
「アハハ、そういうことだ」
声を上げて笑って茶目っ気たっぷりにウィンクすると、アゼルはせっかく善意で捨て置けと言ったのに聞く耳持たない俺に、呆れ果ててもういいと手を振った。粘り勝ちだな。
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