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二皿目 シャル様が物申す
08
しおりを挟むああ、ああああっ……!
し、死にたい……消えてしまいたいぞ……!
うああっ、うああっ……!
俺はなんて恥ずかしいことばかり口走っていたんだ……!?
「…………はい」
──ふっと笑うしかなくなった俺は、全ての辻褄を合わせて、吹けば飛びそうな幸の薄い笑みを浮かべる。
そしてリーマン時代の美しい最敬礼。
九十度のお辞儀のもと、それはそれは丁重に頭を下げた。
「呪い解けました……このたびは誠に申し訳ございません、大変ご迷惑をおかけいたしました……」
「ん!? なっなんで敬語なんだ!? 呪い解けてんだよな……!?」
「いえ謝罪はきちんとさせていただきます」
困惑するアゼルの声が頭上から聞こえるのを否定して、土下座の勢いで再度頭を下げる。
それはもう、ここは魔界ではなく俺の背後にオフィスが見えてもおかしくないくらい、形式ばった謝罪だ。
「お忙しいところ魔王様をお呼び立て致しました上に、重ねてこのような暴挙……! 本当にもう、なんとお詫び申し上げたらよいか。もちろんいかなる処罰も謹んでお受け致します。大変申し訳ございませんでした」
「ふぁぁ!?」
あまりにも大人としてどうかと思う暴挙の数々に、俺は誠心誠意謝罪した。
自分の秘めた苦言進言を全て吐露してしまった現実から、土下座しそうな勢いで必死に謝り倒す。
アゼルがオロオロとしているのを理解し、バッ! と顔を上げ、ここぞとばかりにズズイと詰め寄る。
「つきましては、つきましては先程までの私の発言を忘れていただきたく存じますッ! 無礼は承知の上で、切に! 切にお願い申し上げますッ! どうかッ!」
つまり言いたいことは──俺を殺すか全てをなかったことにするか選んでくれ、ということである。
いやもう本当に死にたい。
今すぐ殺してほしい。──俺は、俺はぁぁぁ……ッ!
「や、やめろぉぉッ! 微笑みが消えてなくなりそうだぞ!? 許可なく俺にあ、頭を下げんなッ! あれはあれでよかっじゃねェ兎に角気にしてねえぜッ!」
「良くない嫌だ良くないうわぁぁぁ……ッ! 俺はお前のことを……っ! お前のことを罵倒して、殴って、まるで飼い犬のように……っ!」
「むしろ! むしろそれは! それはイイんだ! お、俺だって頑張って三段腹になるしなっ? なっ? それにお前が思ってるほど俺ぁモテねぇぜ! 夜会で声かけられたこともねぇぞ!? 安心しやがれ! そしてそのよそ行きの話し方をやめろぉっ!」
しかし俺の初めての丁寧口調に距離感を感じて、アゼルが噛み付くように不問を言い渡した。
寧ろ自分が努力をすると言い出した。
ば、馬鹿なことをさせられるかっ! せめて俺を罵倒してくれっ!
そんな心の赴くまま、俺は頭を抱え、ついにアゼルにしがみついて子犬のような表情で頼み込む。
「あぁぁぁあいやだあぁぁぁぁあ……っ! 忘れてくれ頼むからっ、お仕置きとかしないから本当にっ! アゼル! アゼル今すぐジャーマンを俺にしてくれないか!? 頼む! 俺を床に沈めてくれっ!」
「アホかァ! 死んでもできるかァ!」
「お願いだ罵ってくれっ! 俺を罵って……っ! めちゃくちゃにしてぇぇえぇぇえぇっ!」
「言い方ぁぁあぁあぁッ!?」
──そんなこんなでカオスのネクストステージ。
アゼルの腕を掴んで腰を掴ませようと奮闘する俺と、呪いが解けてもいつもどおりのラブラブハッピーエンドにならなくて、混乱するアゼル。
ポカン、と呪いを解いたら念願の喧嘩が始まってしまったのを呆然と見つめる、諸悪の根源。
もとい、トルン。
そして再度爆笑し始める一貫して面白おかしいリューオと、不敬罪なんだからジャーマンをかませばいいと俺の言葉に頷くユリス。
カオス空間を巻き起こした俺の羞恥心の爆発が、どうにか収まったのは、実に半時は経ってからだった。
燃え尽きるまで止まらなかった。
面目不甲斐なし。
──余談だが、俺を燃え尽きさせた方法がこちらだ。
まぁ、その、俺が普段密かに〝可愛い〟に対するコンプレックスから、羨望と過剰反応をしている事が見事にバレてしまったので、暴れる俺を全員で囲ってだな……?
涙目で猛獣のように威嚇して唸るのを、可愛いかったから! 大丈夫だから! と四方八方から宥めす。
そうすると俺の申し訳なさと恥ずかしさが、見事キャパオーバー。
真っ白にソファーで燃え尽きただけだ。
しかもそれには、トルンも参加していた。
──誰のせいだ……。
流石に力なくチョップをしておいた。そっとな。
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