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終章 本日のディナーは勇者さんです。
06(sideアゼル)
しおりを挟む◇ ◇ ◇
「俺、死ぬかもしんねぇ……」
あれから数日後。
もうすっかり空が赤らんだ夕暮れ時。
自然溢れる魔王城のトレーニングスペースで、俺は足に肘をつき、両手を顎に当てながら真剣に悩んでいた。
トレーニングスペースってのは、軍の訓練とは別に城の住人なら誰でも使える自主訓練用の開けた場所だ。
普段は結構筋肉が友達タイプの連中がいるが、俺が来たと同時に散っていった。まあいつものことだ。
しかし魔王が来ても動じず猛烈な勢いで剣を振っていたリューオは、俺の呟きを聞いて素振りをやめた。
コイツ相変わらず勇者とは思えねぇ凶悪な目つきで睨みやがるな。肩書き詐欺だろ。
「うっせぇなテメェリア充爆発しろや。俺は魔界唯一の心のオアシスことユリスが構ってくれなくて死にそうなンだよ。ちったぁ気遣えクソ魔王。そして死ね」
「そのいつも言ってるりあじゅーってなんだ共通語話せ脳筋が。俺はまだ肉体改造が済んでなくて引くに引けず意固地になって別居中だからシャル不足で死にそうなんだよ。少しは知恵貸せクソ勇者。そしてお前が死ね」
無礼なリューオを思うまま罵倒しても、俺の覇気はまったく戻らない。
若干イラッとするだけである。
初対面からの出来事がアレなもんで、口を開けば喧嘩腰な俺たちは、もはや挨拶すらメンチの切り合いから始まる。
まぁ最近はお互いテンション低めだ。
俺は言わずもがな。リューオはユリス。
コイツがユリスに避けられてんのはいつものことだってのに、なんでか俺に八つ当たりすんだよ。意味がわからない。
ユリスはどうやらクールな男が好きらしく、リューオのような暑苦しいオラオラ系にはツンツンである。
ちなみに俺がここでなにをしていたかと言うと、耳と尻尾だけを本来の姿から持ってくるために魔力をウゾウゾ動かすトレーニングだ。
肉体改造は形態変化の応用でどうにかなるはず。俺は魔法関係には自信がある。現に成果はちゃんとある。
クドラキオンの姿から獣耳と尻尾を持ってくるのは割とすぐできたんだよな……。
なんかこう、シャルから愛されるボディになるにはもふもふをいい塩梅に生やす必要性がある、と思いつつ唸りながら魔力を操作していたらできた。にゅっと。
そうすると人型の耳がなくなって、頭にぴょんと狼の耳を生やせる。
フサフサ生えた尻尾が服の中で動いて邪魔だから切れ込みを入れたら、隙間風が入るようになって気持ち悪い。
ちな、ピアスとかは獣耳に移るぜ。
豆知識を教えてやる。
魔族の形態変化(元の魔物の姿になること)は上位の魔族ならたいていできる。ガドがドラゴンになるアレだ。下位の魔族はそもそも人型で生まれねぇ。
その時、服やアクセサリーなんかは魔力で分解されて体に吸収される。
異物ではなく自分の魔力なら取り込めるっつートンチ的な仕組みなんだよ。
俺が鎖で縛られた時は形態変化すればブチ切って無傷脱出可能ってことだな。俺の装飾品扱いされればイイ。
豆知識終了。
で、むしろ豆知識募集。
俺は獣耳と尻尾を生やしつつそこから更にドラゴンの尻尾を生やそうと頑張っているが、これが生まれて大体百ウン十年、魔法関係で初めての壁だった。
もうどう頑張っても生えねぇ。
だって俺、ドラゴンじゃねぇからな。
シャル関連アホになると思われている最近のあだ名が残念魔王の俺だが、そんなこと俺にだってわかってんだよ。種族は変えられねぇって。
わかってんのに俺は毎日仕事終わらせて足繁くトレーニングスペースに通ってんだ。自然と。
生やしたらもっと好かれて俺の上に乗ってくれると思えば勝手に足が向いてた。もうだめだ。シャルに際限なく好かれたい習性だ。
魔法に苦労したことねぇからわかんねえ。
どうしたら生えんだ尻尾。
もう空軍の竜種二、三匹狩って抉ってこようか。こんなことなら厨房のリザードマンにシャルを罵倒した仕置きをした時もいだ尻尾をとっておけばよかった。
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