128 / 901
番外編① 三色の子ブタ【童話パロディ】
04
しおりを挟む【ケース3・キリユ】
二匹とは別の方向へ向かった三男のキリユは、景観の美しい泉のほとりに家を建てることにしました。とにかくのんびりと暮らしたかったのです。
「俺は気ままで平和で愉快な日々が大好きなのさぁ! だから頑丈なレンガで家を建てるんだぜっ」
ウンショ、コラショ。
ウンショ、コラショ。
重たいレンガを運ぶのは骨が折れましたが、三匹の中で一番臆病で用心深いキリユですので事故もなく、キチンとレンガの家を建てました。
匠の技が光るのは、大きなお鍋も難なく入る立派な暖炉。サンタクロースも出入り楽々な煙突付きです。
「なんということでしょう、山ほどのレンガがなかなかの家にっ! マザーの言いつけはこれで守ったぜ! 外で壁当てでもして遊ぼうかな~!」
自画自賛できる出来栄えに、キリユはすっかりご満悦。晩ご飯はお魚だぜ! なんて浮かれ気味に釣竿とボールを持って、外へ出ようとしました。
しかし、どうでしょう。
突然ゴンゴンッ! と乱暴なノックがしたあと、涙目で怯えきったアリオとオルガが家の中へ飛び込んできたのです。
「おいっおいっそんなに慌ててどうしたんだよう? まさかよそのブタに尾っぽでもかじられたのかっ?」
「キリユッ! 緊急事態だッ! 狼を連れた人間が来たんだぜッ!」
「俺たちの家はあっという間に全壊だぜ!」
「なんだってーッ!?」
事情を聞いたキリユはやっぱり目の玉を大きく見開き、ピョンと驚愕で跳ねました。三つ子の子ブタはリアクションまで似ているようです。
三匹揃って大変だ! 大変だ! とブウブウ鳴きながらてんてこ舞いになっていると、はかったようにコンコン、とドアがノックされました。
「「「来た────ッ!!」」」
「こんにちは。私、旅人のシャルです。こっちは黒狼のアゼル」
「「「魔女宅だ────ッ!!」」」
「ん? ……ああ。ウィンガーディアムレビオーサ」
「「「ハリポタだ────ッ!!」」」
そうじゃない! 誰も魔法使いのチョイスに騒いでいるわけじゃない!
「ごめんごめんこっちだった?」みたいなテンションでセリフを変えてもお前は立ち入り禁止だッ!
三匹は見事な連携でドアに素早く貫木をかけると、全身全霊でドアを押さえ込みました。ここが最後の砦なのです。
「人間ッ! 厚切りのブタをデコボコな鉄板で焼き目をつけて、炎でカリッと焼き殺す小癪な生き物だぜッ!?」
「ポークステーキだな」
「人間! ブタを縄でギチギチに縛って濃厚な謎のタレで溺れさせた挙句、表面をこんがり炙った上で、手間隙かけてじっくり圧死させる慇懃無礼な生き物だぜ!」
「チャーシューだな」
「人間っ! 細切れにしたブタを体が熱くなる悪魔の実で漬けた野菜と一緒にしこたま炒めて、卵と甘辛いタレで滅茶苦茶にする卑劣な生き物なんだぜっ!?」
「豚キムチだな」
「「「あんまりだぁぁぁぁぁ! どうしても美味しく頂いてやるってな悪意を感じるぜ!」」」
「いや、どうしても美味しくなるのがお前たちなだけなんだが……」
うるさいうるさい! とにかく帰れ!
困ったように呟く声に、三匹は一斉に「かーえーれッ! かーえーれッ!」と、騒ぎ立てました。
人間はホトホト困り果てて話を聞いてほしいと懇願しています。それでも頑丈なレンガの家へ立てこもり、三匹は人間を中にいれてはあげませんでした。
どうしたって美味しいのはブタの誇りですが、食べられるのはノーサンキュー。
それが三匹の総意だったのです。
「シャル、リード離せ。煙突から訪ねて、この人の話を聞かないアホブタ共に俺が話しをつけてきてやるぜ」
「ん? そうか。あれも玄関だったんだな……それじゃあ頼む。くれぐれも怪我をしないようにのぼるんだぞ」
「ふふん。誰に言ってやがる」
「「「!?」」」
帰れコールにコブシとビブラートを利かせ始めた三匹の耳に、ドアの向こうから悪逆非道な狼ボイスが聞こえました。
なんと、狼は飼い主を丸め込み、不法侵入を正当化したのです。
リードから解き放たれた狼が子ブタの元へやってくるなんて悪夢でしかありません。
三匹は弾かれたようにドアから離れると、各自が慌てて対策を練ります。それから急いで暖炉に火をくべて、水の入った大きな鍋をかけました。
これで狼を釜茹でにするようです。
「茹でれるか!? いけるか!?」
「いけなきゃダメだぜ! あの狼を見ただろ!? 俺たちはペロリとやられちまう!」
「やめろーっ! 死にたくなーいっ!」
「落ち着け! どっかの本で煙突から侵入してくる狼の対処法は〝熱湯の入った鍋に落とす〟とあったんだぜ! 間違いないはずだッ!」
「「おお~」」
バシャンッ!
「温い」
「「「ですよねーッ!!」」」
当然のことながら狼が煙突に上り始めてから水を入れた鍋を火にかけても、沸点にすら到達するわけがないもので。
足元が濡れた狼が不快そうにブルリと身を震わせ、暖炉の中からのっしりと侵入を果たしてしまいました。
こうなってはさしもの三匹の子ブタとて、ブウブウと騒いでもいられません。
参考にした物語では見事撃退できていた狼は、部屋のすみでガタガタと震える三匹を見下ろしているのです。
できることはただ一つ。
「「「狼様人間様ご主人様どうぞなんなりとお申し付けください」」」
ジャパニーズ・土下座だけでした。
45
お気に入りに追加
2,671
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる