112 / 901
二章 勇者兼捕虜兼魔王専属吸血家畜兼お菓子屋さんとは俺のことだ。
56
しおりを挟むううむ、そうか……アゼルは触られたいわけじゃなかったのか。わかったぞ。
「アゼルは胸を触るほうが好きなんだな。俺のでよければ、……さ、触ってくれ」
「なんで俺が胸大好きみてぇになってんだよッ。胸から離れろ! 照れるから後ろから抱きつくように揉んでいいか? ……ぅあ? なんか違う気が……」
やはりか。ピタリだった。
なるべく自然に聞こえるように提案してみると、真剣な顔で揉んでいいか? と言われた。
かまわない。正直全くおっぱいはないが好きに触ってほしい。
俺は自分の予想が的中したことに胸中でファンファーレを鳴らす。選択肢のミスはバッドエンドを招くからな。
こうして距離を詰めていき雰囲気作りを頑張ればここぞというタイミングで告白できるだろう。男なら行動で示すのが男気だ。
「よし、いいぞ」
ウェルカムムードムンムンでコクリと頷く。ボディタッチをするはずが、されることになってしまったな。
これじゃあ駆け引きベタの俺が恋心を隠しきれず、脈アリ判定されるかもしれないけれど、アゼルの願いは叶えてやりたい。
俺がアゼルから手を離し無防備に座って待つと、アゼルはしまった! とでも言わんばかりの顔をしてガバッ! と飛び起きた。
どうした。……やっぱり俺ではだめか。
「胸筋じゃだめか……?」
「! だ、ダメじゃねぇっ」
自分の柔らかさの欠片もないペタンとした胸元を思い出し、一瞬落ち込みそうになる。
ショボリとしながら伺い気味に視線をやると、数秒逡巡したアゼルが慌てて手を伸ばし、そーっと俺の手を引いた。
手のひらとはいえ素肌が触れ合うとドキ、と鼓動が早まり、それと仄かな嬉しさが指先に宿る。
彼に移ってしまわないか、心配になってしまう。
そのまま背を向けて足を開いて座るアゼルの胸に背中を預ける形で座ると、熱い手のひらが背中へと触れ、素肌に柔らかくあてがわれた。
むき出しの肌に少し震えるアゼルの手が触れてビクン、と肌が粟立つ。
それだけで体が……熱い。
そっとするから照れてしまう。緊張しているから余計だ。
いろいろと変な感じがする。
背中に触れていた手が前へ回ってくる。
ゆっくりと表皮をなでながら、そっと胸ごと抱きしめられた。
俺だけが肌を晒して、そこに触りのいいアゼルの袖が擦れるこそばゆい感覚。
「これは……なん……なんでこうなった……? いや……でも悪くねぇ……悪くねぇぜ……!」
耳元で熱い吐息に耳朶を温められながら、ぶつぶつと囁く声が聞こえる。
今の俺はまだわかっていなかったことだが、この〝悪くねぇ〟はツンデレ魔王なアゼルの〝控え目に言って最高〟だ。
アゼルは俺の謎の誘惑を、一応楽しんでくれていた。
「……っ……ん……」
敏感な首元へ嬉しげにすりつかれると、擽ったい。貧乳どころか胸板な俺の胸を覚束無い手つきでマッサージするように拙く揉まれ、恥ずかしさを誤魔化そうと声が出る。
ドッドッと先程からずっとうるさすぎる鼓動は、素肌ごと抱いているアゼルには伝わっているだろう。
そう考えれば、余計に頬が紅潮した。
「んん……シャルも今日、なんかすげぇドキドキしてるぜ」
「ふぐ、ぅ」
「血ィ吸ってないのに、いつも責任を取る時より……な、人間は胸を触られんのが、好きなのかよ」
「い、意地悪を言うな……」
困惑していたアゼルを押して丸め込んだツケを回収しようとしているのか、俺の言ったようなことをわざと返される。
それを言われると羞恥心が震え上がるのだ。催淫毒もなにもないのに心臓が弾けそうなことを指摘され、バツが悪くなって身悶えた。
「フフン。お前が先に言ったんだぜ?」
「うぅ……っ」
反論の余地がない笑み。
確信的じゃないか。
こうなると大人しくもみもみと胸をいじられることしかできず、明後日の方向を向く。
61
お気に入りに追加
2,671
あなたにおすすめの小説
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます
猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」
「いや、するわけないだろ!」
相川優也(25)
主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。
碧スバル(21)
指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。
「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」
「スバル、お前なにいってんの……?」
冗談? 本気? 二人の結末は?
美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)
ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。
そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる