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融解コンプレックス(2)
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しおりを挟む「ユキを好きでおれて、ユキのいっちゃん近くにおれて、ユキにキスして抱けて……それを全部変やと思わんユキが、俺を独り占めしてくれる関係なら……なんでもええねん」
「っ、……そか」
どういうことだろう。
言っている意味がわからない。
そう思ったが続きを待つと直なりに説明されて、雪は直の言い分を理解する。
直は、それらを叶える関係の名前がたまたま恋人だっただけで、名前なんてどうでもいいと言いたいのだ。
雪は直の首にゆるく腕を回し、ポンと直の頭をなでた。
「伝わったで。ナオは俺と、そうなるんを目指しとったんやな」
「っこ……こんなこと言うて嫌われたないし、置いて行かれたない……でも、ユキの三百六十五日……俺にちょうだい……?」
たったそれだけで、仮とはいえもう恋人だというのに更に上乗せを望む直。
雪を泣かせないために奪った恋人というポジションだが、直は足りないらしい。
今日だけでも増して雪を好きになり、手をつけられない恋は先を切望する。
雪の胸に額を当て、直はスリスリと一生懸命に甘えた。
元旦の一日じゃ足りない。
残り全てが欲しい。
──……ナオのが、寂しがりやん。
雪の顎からポタ、と雫が落ちる。
直の髪を手袋の上からなでていると、雪の心は独りでに駆け足を刻む。
「俺の好きは、いらんのちゃうん?」
「嘘や、好かれんでええとか、全部嘘や……そんなんもう、ユキの話聞いたら思われへん……」
「じゃあナオは、どう思ってんの?」
「ユキと一緒におれんのが好きな人やったら、俺はユキに好かれたい……いっちゃん好かれたい……っ」
「うん……そか。わかった」
低めのエアコンをつけた服の上からとはいえ冷たい体に擦りついて懇願する直に、雪は泣きたいくらい、打ち震えた。
直の問題に雪の体質は全く出てこない。
今雪の着ている服が湿っていることにも、たぶん気づいていないだろう。
好きになって、お願い、と言い続ける直にうんうんと頷き続けていては、体温上昇は避けられまい。
──今離れたとしても、もう……。
幼なじみには戻れない。
そう確信するほど、雪は直の温度で、いつも溶かされてしまうのだ。
それから少し経ったあと、顔を上げた直が雪を疑い深い目で伺った。
「ほんまにわかったん……?」
「見てわかれや。完熟トマトやろ」
「もっとわかって……世界一俺がユキを愛しとる……俺がワールドチャンピオン……」
「わぁかったってっ。なんや恋の定義はわからへんけど、幼なじみよりは近づいとるわっ。嘘偽りなくっ」
「ほんまに……? どんくらい……?」
「どんっ、……キ、キスオーケー」
「鈍足やわ……」
「うさぎと亀さん思い出しよ!」
全然足りないとばかりに強く抱きしめられ、雪はウギャアと悲鳴をあげた。
触るのはいいが触られるのは緊張する。素肌じゃないのでまだ我慢できるものの、やはり弱いので直にじっとするよう頼んだのだ。
「でも、ユキがひっつくから、俺はムラムラ我慢してんのに……」
「うっ……!」
キューンと捨て犬が如く哀愁を漂わせる直に、雪はハートを撃ち抜かれた。
もちろん胸きゅんではなく罪悪感である。同じ男としてその気になった息子をこの状況で仏にするのは至難の業だろう。
「……ユキ、まだ挿れたらあかんの?」
「ひぉッ……」
呻く雪に、直は抱きついたままポスン、と雪の胸に顎を置いて、無表情の上目遣いで甘えてみせた。
こうされると、雪は弱い。
タラタラと少し溶けていても、直を殴ったりできなくなる。
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