融解コンプレックス

木樫

文字の大きさ
上 下
18 / 30
融解コンプレックス(2)

03

しおりを挟む


 それから甘酒をよく冷まして飲み、新年の豪勢なオブジェの写真を撮った。

 雪がフーフーと甘酒を冷ましている間、直はぼーっとしていてなにを考えているのかわからない。昔からだ。

 けれど雪がオブジェの写真をニンスタに上げようとすると、直は「俺も撮る」と下手くそなカメラワークで写真を撮った。


「ん? なんで撮んの?」

「映えるから」

「ブレとるで」

「そか」


 やはりよくわからない。
 雪は甘酒もおみくじも写真を撮ったが、そこでは無反応だったくせに。

 もともと直とこういうイベント事を楽しむことは滅多にない。
 こうして初詣に誘われイベントに参加する直はレアで、そこでの振る舞いのノーマルは知らない。

 だが直がなぜそんなことをするのかを考えると、なんとなーく、付き合いの長い雪は答えがわかる。


「ナオ」

「へ」


 ブレブレの撮った写真を興味なそうに眺めている直の背中をバシッ、と叩くと、直が不思議そうに振り向いた。

 雪は直の手からスマホを奪い、直のポケットにズボリと戻す。


「お前なぁ、俺とノリ合わせんでええねん。二人でも普通に楽しいやん」

「っ……」

「おもんなかったら帰るて。俺が嘘で連れと遊ばんの知っとるやろ? アホ」


 呆れたため息を吐く。
 ジロリと睨めば、直は驚き目を丸くしたまま黙り込む。

 まったく、困った犬だ。
 直は自分で初詣に連れてきておいて、雪が自分と二人じゃつまらないだろう、とトロトロしていた。

 ドマイペースで言葉足らずが不思議ちゃんの服を着て歩いているような直。

 おかげで雪の知る限り、長身で逞しい体の割に色素の薄い美形とモテ要素のある直はこれまで恋人どころかモテとは無縁に生きていたと思う。

 けれど本当は優しく、割と気遣い屋だ。
 不器用でスローなだけで。

 仮恋人以前に幼馴染みだというのに今更気を使われて、雪はたいそう不服である。


「……でも一緒に騒ぐんがええんやろ? ユキの友達は、いつも一緒に」

「あ~? アイツら好きで撮っとんねん。お前は写真興味あらへんし、そもニンスタしてへんやん? 俺のこれかて出かけた時の記念写真や。俺のニンスタはアルバムとか日記的なサムシーング」

「ようわからん……」

「まーかまへん。記念写真は俺の担当な。ナオは自分の行きたいとことかやりたいことに俺誘う担でええわ」


 兎に角ノリを合わせる必要はないと伝えると、直はコクリと頷き、もぞもぞとマフラーに口元をうずめた。

 直の頬が赤い。
 やはり寒さには勝てないらしい。


「うし、屋台行くで~。あったかいもん食ってあったまり」

「……暑い……」

「寒いくせに強がんなや!」


 耳まで赤い直にワハハと笑って、雪は屋台ゾーンへ足を進めた。




しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

雪は静かに降りつもる

レエ
BL
満は小学生の時、同じクラスの純に恋した。あまり接点がなかったうえに、純の転校で会えなくなったが、高校で戻ってきてくれた。純は同じ小学校の誰かを探しているようだった。

「恋みたい」

悠里
BL
親友の二人が、相手の事が好きすぎるまま、父の転勤で離れて。 離れても親友のまま、連絡をとりあって、一年。 恋みたい、と気付くのは……? 桜の雰囲気とともにお楽しみ頂けたら🌸

【完結】遍く、歪んだ花たちに。

古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。 和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。 「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」 No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。

漢方薬局「泡影堂」調剤録

珈琲屋
BL
母子家庭苦労人真面目長男(17)× 生活力0放浪癖漢方医(32)の体格差&年の差恋愛(予定)。じりじり片恋。 キヨフミには最近悩みがあった。3歳児と5歳児を抱えての家事と諸々、加えて勉強。父はとうになく、母はいっさい頼りにならず、妹は受験真っ最中だ。この先俺が生き残るには…そうだ、「泡影堂」にいこう。 高校生×漢方医の先生の話をメインに、二人に関わる人々の話を閑話で書いていく予定です。 メイン2章、閑話1章の順で進めていきます。恋愛は非常にゆっくりです。

告白ゲーム

茉莉花 香乃
BL
自転車にまたがり校門を抜け帰路に着く。最初の交差点で止まった時、教室の自分の机にぶら下がる空の弁当箱のイメージが頭に浮かぶ。「やばい。明日、弁当作ってもらえない」自転車を反転して、もう一度教室をめざす。教室の中には五人の男子がいた。入り辛い。扉の前で中を窺っていると、何やら悪巧みをしているのを聞いてしまった 他サイトにも公開しています

【完結】もう一度恋に落ちる運命

grotta
BL
大学生の山岸隆之介はかつて親戚のお兄さんに淡い恋心を抱いていた。その後会えなくなり、自分の中で彼のことは過去の思い出となる。 そんなある日、偶然自宅を訪れたお兄さんに再会し…? 【大学生(α)×親戚のお兄さん(Ω)】 ※攻め視点で1話完結の短い話です。 ※続きのリクエストを頂いたので受け視点での続編を連載開始します。出来たところから順次アップしていく予定です。

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

婚約破棄したら隊長(♂)に愛をささやかれました

ヒンメル
BL
フロナディア王国デルヴィーニュ公爵家嫡男ライオネル・デルヴィーニュ。 愛しの恋人(♀)と婚約するため、親に決められた婚約を破棄しようとしたら、荒くれ者の集まる北の砦へ一年間行かされることに……。そこで人生を変える出会いが訪れる。 ***************** 「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく(https://www.alphapolis.co.jp/novel/221439569/703283996)」の番外編です。ライオネルと北の砦の隊長の後日談ですが、BL色が強くなる予定のため独立させてます。単体でも分かるように書いたつもりですが、本編を読んでいただいた方がわかりやすいと思います。 ※「国王陛下は婚約破棄された令嬢に愛をささやく」の他の番外編よりBL色が強い話になりました(特に第八話)ので、苦手な方は回避してください。 ※完結済にした後も読んでいただいてありがとうございます。  評価やブックマーク登録をして頂けて嬉しいです。 ※小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...