誰かの二番目じゃいられない

木樫

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3.もう一番目じゃいられない

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 ここがいいの? もっとする? とでも言いたげに眠たげな双眸が上目遣いに伺うと、朝五も歩み寄りたくなるのだ。

 恋という引力で誰かを好きだ、と感じた時にだけ動く心臓の少し深い部分が、トク、と脈動する。

 困ったことに、どちらもイけるはずだった朝五は、夜鳥に惚れたせいで抱かれたい男になってしまったらしい。


「ふ……っ……やっぱ、中ばっかり疼く……足んねぇよ……んっ……ち✕こ挿れたい……夜鳥ぃ……んっ……くそー……」


 不貞腐れた声が出た。指では本当に突き上げてほしいところへ届かず、もどかしさが邪魔をして射精に至らないからだ。

 ホテルで体を明け渡した時より、もっとずっと強く体も心も開きたいと望む。

 自覚がなかった頃より、自覚がある今のほうが我慢ならない。

 不思議なもので、愛情というものは口に出した後のほうが加速度的に育っていく。
 そして肉欲は一人でも満たせるが、満足度は全くの別物だ。

 朝五は達したくて発情しているわけじゃない。夜鳥で感じたくて発情している。


「ね……まだ、寝たフリすんの……?」


 だから、そう言って夜鳥の耳たぶを唇で食んだのは、そうだったらいいなと思っただけの願望だ。

 根拠も自信もなく、起きているわけがないとわかっている──はずだった。


「──ごめん、朝五」

「っな、あ……っ!?」


 額を触れさせていただけの夜鳥の体が、突然ガバッ! と布団を跳ね上げて勢いよく起き上がったのだ。

 眉根を寄せる夜鳥が、オレンジ照明の下に晒された酷く淫らな有り様となっている朝五を見下ろす。


「は……はい……!?」

「本当は俺、今夜はシたいって思ってて、朝五もそのつもりかもって思っていろいろ準備してたら、なんか……どんな顔して待てばいいのかわかんなくて、寝たフリしてたんだけど……朝五が俺を舐めながら一人でするから……タイミングが……」

「いやっ……ちょ……っ」


 なにが起こっているのか。
 すぐには理解できない。

 本当に起きていた?

 それはつまり、自分が夜鳥の香りに興奮していたことも、名前を呼んで自身を慰めていたことも、物足りなくて中をあやしていたことも、全て聞いていたということになる。

 自分の背後で自分をオカズに抜いている恋人を、夜鳥はどう思っているのか。


(し、死にて~~……ッ!)


 思考停止に陥り指先まで真っ赤に茹った朝五は、目を見開いて硬直したまま震えた。

 しかし夜鳥は反応がない朝五をはしたないと蔑むことなく、バサリと寝間着の上を脱ぐ。

 逞しい体が朝五に覆いかぶさり、汗ばんだ額にチュ、と唇を落とした。……そんなことをされるとお手上げだ。


「……べ、別に、普通に待っててくれたらよかったじゃんよ」


 羞恥の沼に頭まで浸かった朝五は、唇を尖らせて顔を上げた。
 責めるような言葉で拗ね、夜鳥の鼻先に軽く噛みつく。


「ごめん。でも、わかんないよ。俺、家に恋人が来るのだって初めてなんだ」


 甘んじて噛みつかれた夜鳥は、朝五が頭を置いていた枕の下からローションボトルとコンドームの箱を取り出して見せた。


「コンビニに行った時、しっかり買ってきたこれを並べて……ベッドで正座して待ってる男って、いいカレシなのかな?」

「ぶっ」


 あまりにも情けない表情で真剣に相談されてしまったので、朝五は思いっきり噴き出してしまった。

 確かにその状況を脳裏に描くと、ずいぶん笑えた。夜鳥のことだから、さながら切腹前の武士のように真面目な表情で座っているのだろう。




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