20 / 42
2.バカにされては笑えない
12
しおりを挟む「んーんじゃねーよ」
「んーん。朝五は悪くない。俺が言葉足らずなんだ。悪いところだって言われたこと何回もあるのに、俺はうまく直せないから直さなかった。でも朝五を泣かせるなら俺はたくさん苦労しても直せばよかったと思う。恋人を泣かせるなんて、いいカレシじゃない……」
「? なんで?」
今度は朝五が首を横に振る。
全ての責任を背負い込んだふうに丸くなる肩が不思議がった。
不思議がられる意味もわからないので、朝五は疑問符をポポンと浮かべる。しょんぼりと必要以上に沈む夜鳥の言い分が、朝五にはしっくりと来ない。
「夜鳥は直そうとしてみたんだろ?」
「うん。でももう諦めた。ものすごく苦しいしとても難しい。それって怠惰でしょ?」
「や、違くね?」
「なんで?」
「だってそれは性格だし、それが夜鳥だし……理解し合えばいいんじゃねーの? 噛み合わない時、一人だけが悪いってことはない。恋人って、そうしねぇとずっと一緒にいられねーんだからさ」
お互いが悪かった。
相手の性格を理解して、できる範囲で歩み寄る。朝五の当然だ。
ただ夜鳥は夜鳥がそうなのだと事前に伝えておかなかったミスはある。朝五は言われなければわからないバカなのだ。バカ向けにわかりやすくしてほしい。
泣き腫らしたマヌケな顔であっけらかんとそう言う朝五に、夜鳥はしばし黙り込んだ。
ゆっくりと瞬きをする。
じっと見つめていると、夜鳥はふと困ったように、けれど嬉しそうに目を細めてはにかんだ。
「朝五はずっと、朝五だね」
「っ……」
その笑顔は思わず見惚れてしまうほど柔らかな笑顔で、朝五の胸がトクンと深く高鳴った。
理由はわからない。
悪い理由ではないと思う。
幸福を噛み締める笑顔の矛先が自分だということが、赤くなった朝五の目には温かく染みたのだ。
高鳴った朝五の胸は、夜鳥の腕に抱かれたようにキュンと締めつけられる。──マズイ。拗ねた気分ではなくなった。
朝五はやおら立ちあがり夜鳥の腕を取ると、ベッドに乗り上げてじゃれつくように抱き寄せた。
「どう、したの?」
心もとないバスローブ越しに裸体が寄り添い、夜鳥の声は微かに動揺を滲ませる。
逆らうことはなく導かれるままに朝五の体へ覆いかぶさる。
「デートにラブホテルは必須なんだろ? せっかく夜鳥が考えてくれたプランだし、最後くらい楽しまねーと、だよな」
「っへ」
朝五はコツンと額を当て、間抜けな鼻先にキスをした。眠たげな目元が見開かれると、どういうわけか心が躍る。
とぼけた男だが、今回はちゃんとこのキスの意味を理解したらしい。
「これは〝恋人になったから仕方なく〟じゃねーよ。ちゃんと夜鳥ならいいかなって思って、誘ってます」
「そ、れは……予行練習、できなかったから……つまらないかも」
「あはっ、いーよ。俺が面白くするし。てか彼氏とするセックスはつまんねーとかそういうの関係ねーべ」
否定ではない反応。
練習不足はかえっていい情報だろう。
朝五を押しのけようとしない夜鳥の体温が上がっているような気がして、朝五は頬を上気させて笑った。
「俺といっぱい、練習しようぜ」
10
お気に入りに追加
64
あなたにおすすめの小説
風紀“副”委員長はギリギリモブです
柚実
BL
名家の子息ばかりが集まる全寮制の男子校、鳳凰学園。
俺、佐倉伊織はその学園で風紀“副”委員長をしている。
そう、“副”だ。あくまでも“副”。
だから、ここが王道学園だろうがなんだろうが俺はモブでしかない────はずなのに!
BL王道学園に入ってしまった男子高校生がモブであろうとしているのに、主要キャラ達から逃げられない話。
愛されなかった俺の転生先は激重執着ヤンデレ兄達のもと
糖 溺病
BL
目が覚めると、そこは異世界。
前世で何度も夢に見た異世界生活、今度こそエンジョイしてみせる!ってあれ?なんか俺、転生早々監禁されてね!?
「俺は異世界でエンジョイライフを送るんだぁー!」
激重執着ヤンデレ兄達にトロトロのベタベタに溺愛されるファンタジー物語。
注※微エロ、エロエロ
・初めはそんなエロくないです。
・初心者注意
・ちょいちょい細かな訂正入ります。
転生したら、ラスボス様が俺の婚約者だった!!
ミクリ21
BL
前世で、プレイしたことのあるRPGによく似た世界に転生したジオルド。
ゲームだったとしたら、ジオルドは所謂モブである。
ジオルドの婚約者は、このゲームのラスボスのシルビアだ。
笑顔で迫るヤンデレラスボスに、いろんな意味でドキドキしているよ。
「ジオルド、浮気したら………相手を拷問してから殺しちゃうぞ☆」
目が覚めたら囲まれてました
るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。
燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。
そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。
チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。
不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で!
独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
やり直せるなら、貴方達とは関わらない。
いろまにもめと
BL
俺はレオベルト・エンフィア。
エンフィア侯爵家の長男であり、前世持ちだ。
俺は幼馴染のアラン・メロヴィングに惚れ込み、恋人でもないのにアランは俺の嫁だと言ってまわるというはずかしい事をし、最終的にアランと恋に落ちた王太子によって、アランに付きまとっていた俺は処刑された。
処刑の直前、俺は前世を思い出した。日本という国の一般サラリーマンだった頃を。そして、ここは前世有名だったBLゲームの世界と一致する事を。
こんな時に思い出しても遅せぇわ!と思い、どうかもう一度やり直せたら、貴族なんだから可愛い嫁さんと裕福にのんびり暮らしたい…!
そう思った俺の願いは届いたのだ。
5歳の時の俺に戻ってきた…!
今度は絶対関わらない!
大好きな幼馴染は僕の親友が欲しい
月夜の晩に
BL
平凡なオメガ、飛鳥。
ずっと片想いしてきたアルファの幼馴染・慶太は、飛鳥の親友・咲也が好きで・・。
それぞれの片想いの行方は?
◆メルマガ
https://tsukiyo-novel.com/2022/02/26/magazine/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる