誰かの二番目じゃいられない

木樫

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2.バカにされては笑えない

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「んーんじゃねーよ」

「んーん。朝五は悪くない。俺が言葉足らずなんだ。悪いところだって言われたこと何回もあるのに、俺はうまく直せないから直さなかった。でも朝五を泣かせるなら俺はたくさん苦労しても直せばよかったと思う。恋人を泣かせるなんて、いいカレシじゃない……」

「? なんで?」


 今度は朝五が首を横に振る。
 全ての責任を背負い込んだふうに丸くなる肩が不思議がった。

 不思議がられる意味もわからないので、朝五は疑問符をポポンと浮かべる。しょんぼりと必要以上に沈む夜鳥の言い分が、朝五にはしっくりと来ない。


「夜鳥は直そうとしてみたんだろ?」

「うん。でももう諦めた。ものすごく苦しいしとても難しい。それって怠惰でしょ?」

「や、違くね?」

「なんで?」

「だってそれは性格だし、それが夜鳥だし……理解し合えばいいんじゃねーの? 噛み合わない時、一人だけが悪いってことはない。恋人って、そうしねぇとずっと一緒にいられねーんだからさ」


 お互いが悪かった。
 相手の性格を理解して、できる範囲で歩み寄る。朝五の当然だ。

 ただ夜鳥は夜鳥がそうなのだと事前に伝えておかなかったミスはある。朝五は言われなければわからないバカなのだ。バカ向けにわかりやすくしてほしい。

 泣き腫らしたマヌケな顔であっけらかんとそう言う朝五に、夜鳥はしばし黙り込んだ。

 ゆっくりと瞬きをする。
 じっと見つめていると、夜鳥はふと困ったように、けれど嬉しそうに目を細めてはにかんだ。


「朝五はずっと、朝五だね」

「っ……」


 その笑顔は思わず見惚れてしまうほど柔らかな笑顔で、朝五の胸がトクンと深く高鳴った。

 理由はわからない。
 悪い理由ではないと思う。

 幸福を噛み締める笑顔の矛先が自分だということが、赤くなった朝五の目には温かく染みたのだ。

 高鳴った朝五の胸は、夜鳥の腕に抱かれたようにキュンと締めつけられる。──マズイ。拗ねた気分ではなくなった。

 朝五はやおら立ちあがり夜鳥の腕を取ると、ベッドに乗り上げてじゃれつくように抱き寄せた。


「どう、したの?」


 心もとないバスローブ越しに裸体が寄り添い、夜鳥の声は微かに動揺を滲ませる。
 逆らうことはなく導かれるままに朝五の体へ覆いかぶさる。


「デートにラブホテルは必須なんだろ? せっかく夜鳥が考えてくれたプランだし、最後くらい楽しまねーと、だよな」

「っへ」


 朝五はコツンと額を当て、間抜けな鼻先にキスをした。眠たげな目元が見開かれると、どういうわけか心が躍る。

 とぼけた男だが、今回はちゃんとこのキスの意味を理解したらしい。


「これは〝恋人になったから仕方なく〟じゃねーよ。ちゃんと夜鳥ならいいかなって思って、誘ってます」

「そ、れは……予行練習、できなかったから……つまらないかも」

「あはっ、いーよ。俺が面白くするし。てか彼氏とするセックスはつまんねーとかそういうの関係ねーべ」


 否定ではない反応。
 練習不足はかえっていい情報だろう。

 朝五を押しのけようとしない夜鳥の体温が上がっているような気がして、朝五は頬を上気させて笑った。


「俺といっぱい、練習しようぜ」




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