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2.バカにされては笑えない
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しおりを挟む──水族館を満喫したあとも朝五の気分は晴れず夜鳥への不信感も拭えず、時間が進むたびにかえって増していく有り様だった。
美味しいと話題のハンバーガー店で、軽めのランチを楽しむ。
ショッピングモールでショッピング。
買い物が終わればゲームセンターで遊び、近ごろ世間で話題らしいアクティビティ施設にも手を出す。
つまらないと感じることなく、楽しい一日が過ぎていく。
夜鳥がスマートにエスコートすればするほど朝五はチクリとトゲを刺し自白を促してみたが、気づいていないのかちっとも悪びれた様子がない。
朝五の態度に怒ることもなく、夜鳥は常に余裕を持って朝五の話や行動に付き合っている。
言い方を変えれば、当たり障りのない返答ばかりでもあった。
夜鳥は朝五の言葉を否定しない。
行きたい店に何軒でも付き合ってくれる。文句ひとつ言わず微笑みを絶やさない。
夢見がちな誰もが思い描く〝理想の彼氏〟を体現している夜鳥。
不安を抱くわけがない出来栄えの夜鳥。
「…………」
そんな夜鳥は、今の朝五にとって不安の象徴のような恋人だった。
もしこれが夜鳥の真実だとして、理想の彼氏とやらが自分を選ぶだろうか。
散々たくさんの人間の二番目に落ちぶれてきた自分を、わざわざ好きになるだろうか。今ですらこんなに子どもっぽく拗ねている。
胸のざわめきがこらえきれないほど膨れ上がって止まない。
夜鳥に恋をしたわけじゃないはずなのにどうしてこんなに気になるのか、朝五には自分の心がわからなかった。
──このままじゃ埒が明かない。
「夜鳥さぁ、最近忙しかった? バイトめっちゃ入ってたとか、風邪引いたとか、ゼミとか」
「全然? バイトは普通。体は健康。まあちょっと出かけたり勉強してただけかな」
謎の焦燥に襲われこらえきれなくなった朝五は、燻る疑問の一つに真っ向から立ち向かってみる。
しかし平静を装って尋ねたものの、表情を変えずに受け流されてしまった。当たり障りのない返答だ。聞きたいことはそれじゃないのに。
「出かけてたってどこ?」
「ごめん。そこは秘密にさせて。恥ずかしいところなんだ」
「あっそ。別にいいけど? んじゃバイトしてんなら見に行きたい。俺のバイト先は居酒屋だから夜鳥も来ていーぜ」
「嬉しい。でも俺はそういう系じゃないかな……ごめんね」
朝五は諦め悪く掘り下げていくが、結局深い返答は貰えなかった。
自分も晒して様子を見てもうまくいかない。そんなふうに躱されると、勝手に意地を張って喧嘩腰に食らいつく自分が、惨めだ。
「なんでそんなこと聞くの? 朝五」
「知らね。なんとなーく」
気になるから、と言うのは簡単だが、当てつけのつもりで理由をはぐらかす。
恋人なんて首輪をつけられた相手に歩み寄るために踏み込んでも追い出される気持ちを、夜鳥も少しはわかれと思う。
けれど夜鳥は「そっか」と納得し、深く尋ねなかった。
聞き分けのいい恋人だ。
胸の内側でなにかが寂しがった気がして、朝五は探ることをやめた。
付き合うからには、相手のことをよく知りたい。せっかく隣にいるのだ。
簡単にやってくる、別れの前に。
いくら朝五がそう願って剥き出しにぶつかっても、その相手の考えがわからないなら、独り相撲と変わりないのだろう。
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