誰かの二番目じゃいられない

木樫

文字の大きさ
上 下
11 / 42
2.バカにされては笑えない

03

しおりを挟む


 朝五は夜鳥と付き合うことになった複雑な経緯と腹に据えかねていたこの一ヶ月の不満を、かいつまんで説明した。

 説明が進むにつれ、文紀は眉間に深いシワを刻んでいく。

 終わる頃には、心底意味がわからないとでも言いたげに文紀はうげぇと舌を出した。


「朝五。悪いことは言わねぇからそいつのことは忘れろ。ゲイだって本気なんだよ。舐めた真似する男はいらん。スマホ貸せ。ブロックしてやる」

「ちょっ、ダメダメ!」


 思いっきり悪印象だ。
 何事もバッサリと決断して行動する文紀には、夜鳥が酷く不誠実な口だけの男に見えたらしい。

 表情筋を総動員して不機嫌をあらわに手を出され、焦った朝五は素早く自分のスマホを抱いて隠す。


「ダメ? 笑えねージョークだな」

「なんも話聞いてねぇもんよっ。別れるんだったら一発殴るし?」

「避けられてんのにか? 見つけ次第俺が殴っといてやるからさっさと寄越せ。滅殺する。つーかだいたいお前もいちいち真面目に付き合いすぎなんじゃねぇの? どう考えても地雷案件だろうが」

「いやいや、仮にも恋人なんだから真面目に付き合うのがスタンダードっしょ!? ミキティが修羅過ぎんだわっ」


 ミキティというのは、朝五が命名した文紀のあだ名だ。

 恋しい相手の唯一無二のナンバーワンになりたい朝五にとって、浮気せず恋人に向き合うことは至極当然である。

 修羅扱いされた文紀がため息を吐く。


「その性格、今んとこ悪いようにしか働いてねーと思うけど?」

「ソッスネ。でもなにが悪ぃのかわかんね。俺悪くねーし。愛してるから恋人至上主義とかむしろ良きすぎん?」

「依存気質だけど、悪かねぇよ」

「じゃあなんで俺フラれんの?」

「あー……俺が思うに、お前に好かれっとわかりやすく好き好き~ってオーラが甘ったるくて相手が胡坐かいちまうんだよ。見てくれもまあイケてて、なんでもイイネってタイプだろ? ノリが軽いからな。そんなお前が一途で重めのロマンチストとかイメージねーし。だから毎度テキトーぶっこかれんだろ。知らんけど」

「なにそれ地獄かよ~……マジ意味わかんねぇの極み~……」


 理不尽な傷に指を突っ込まれた朝五は、再度机に突っ伏した。

 意気消沈した朝五の脳裏に、あの日の夜鳥の薄い微笑みが浮かぶ。

 ファッションを楽しむ朝五の印象は、軽薄に見える。

 調子のいい話し方も態度も格好つける性格も恋人がコロコロと変わる恋愛事情も、〝好きな人の一番になりたい〟という夢のような思考とは結びつかない。

 自覚はあるがそれらはただの趣味と努力で、性質で、フラれ癖があるだけだ。


(アイツも俺のこと、遊んでもいい人間だって思ったんかなー……)


 胸の傷からドロリと膿が滲んだ時──ポケットに隠したスマホがブブ、と震えた。

 夜遅くでも気の置けない友人がなにかメッセージでも送ったのかと決めつけ、緩慢な動きでスマホを開く。


『明日、十時に✕✕駅の前で』


 相手は、夜鳥だった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二人の公爵令嬢 どうやら愛されるのはひとりだけのようです

矢野りと
恋愛
ある日、マーコック公爵家の屋敷から一歳になったばかりの娘の姿が忽然と消えた。 それから十六年後、リディアは自分が公爵令嬢だと知る。 本当の家族と感動の再会を果たし、温かく迎え入れられたリディア。 しかし、公爵家には自分と同じ年齢、同じ髪の色、同じ瞳の子がすでにいた。その子はリディアの身代わりとして縁戚から引き取られた養女だった。 『シャロンと申します、お姉様』 彼女が口にしたのは、両親が生まれたばかりのリディアに贈ったはずの名だった。 家族の愛情も本当の名前も婚約者も、すでにその子のものだと気づくのに時間は掛からなかった。 自分の居場所を見つけられず、葛藤するリディア。 『……今更見つかるなんて……』 ある晩、母である公爵夫人の本音を聞いてしまい、リディアは家族と距離を置こうと決意する。  これ以上、傷つくのは嫌だから……。 けれども、公爵家を出たリディアを家族はそっとしておいてはくれず……。 ――どうして誘拐されたのか、誰にひとりだけ愛されるのか。それぞれの事情が絡み合っていく。 ◇家族との関係に悩みながらも、自分らしく生きようと奮闘するリディア。そんな彼女が自分の居場所を見つけるお話です。 ※この作品の設定は架空のものです。 ※作品の内容が合わない時は、そっと閉じていただければ幸いです(_ _) ※感想欄のネタバレ配慮はありません。 ※執筆中は余裕がないため、感想への返信はお礼のみになっておりますm(_ _;)m

恋人、はじめました。

桜庭かなめ
恋愛
 紙透明斗のクラスには、青山氷織という女子生徒がいる。才色兼備な氷織は男子中心にたくさん告白されているが、全て断っている。クールで笑顔を全然見せないことや銀髪であること。「氷織」という名前から『絶対零嬢』と呼ぶ人も。  明斗は半年ほど前に一目惚れしてから、氷織に恋心を抱き続けている。しかし、フラれるかもしれないと恐れ、告白できずにいた。  ある春の日の放課後。ゴミを散らしてしまう氷織を見つけ、明斗は彼女のことを助ける。その際、明斗は勇気を出して氷織に告白する。 「これまでの告白とは違い、胸がほんのり温かくなりました。好意からかは分かりませんが。断る気にはなれません」 「……それなら、俺とお試しで付き合ってみるのはどうだろう?」  明斗からのそんな提案を氷織が受け入れ、2人のお試しの恋人関係が始まった。  一緒にお昼ご飯を食べたり、放課後デートしたり、氷織が明斗のバイト先に来たり、お互いの家に行ったり。そんな日々を重ねるうちに、距離が縮み、氷織の表情も少しずつ豊かになっていく。告白、そして、お試しの恋人関係から始まる甘くて爽やかな学園青春ラブコメディ!  ※特別編8が完結しました!(2024.7.19)  ※小説家になろう(N6867GW)、カクヨムでも公開しています。  ※お気に入り登録、感想などお待ちしています。

勝ち組の定義

鳴海
BL
北村には大学時代から付き合いのある後輩がいる。 この後輩、石原は女にモテるくせに、なぜかいつも長く続かずフラれてしまう。 そして、フラれるたびに北村を呼び出し、愚痴や泣き言を聞かせてくるのだ。 そんな北村は今日もまた石原から呼び出され、女の愚痴を聞かされていたのだが、 これまで思っていても気を使って言ってこなかったことの数々について 疲れていたせいで我慢ができず、洗いざらい言ってやることにしたのだった。

兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜

藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。 __婚約破棄、大歓迎だ。 そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った! 勝負は一瞬!王子は場外へ! シスコン兄と無自覚ブラコン妹。 そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。 周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!? 短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。

【完結】身売りした妖精姫は氷血公爵に溺愛される

鈴木かなえ
恋愛
第17回恋愛小説大賞にエントリーしています。 レティシア・マークスは、『妖精姫』と呼ばれる社交界随一の美少女だが、実際は亡くなった前妻の子として家族からは虐げられていて、過去に起きたある出来事により男嫌いになってしまっていた。 社交界デビューしたレティシアは、家族から逃げるために条件にあう男を必死で探していた。 そんな時に目についたのが、女嫌いで有名な『氷血公爵』ことテオドール・エデルマン公爵だった。 レティシアは、自分自身と生まれた時から一緒にいるメイドと護衛を救うため、テオドールに決死の覚悟で取引をもちかける。 R18シーンがある場合、サブタイトルに※がつけてあります。 ムーンライトで公開してあるものを、少しずつ改稿しながら投稿していきます。

《 アルファ編 》 時を止めるって聖女の能力にしてもチートすぎるんじゃないんでしょうか? 

南 玲子
恋愛
聖女として召喚されたけれども、まさかの魔力ゼロ判定で捨てられた少女、倉島 桜17歳。クラマとして男装し騎士訓練場で働き始め、そこで知り合ったユーリス騎士団5番隊隊長と、図書館で知り合ったアルフリード第一王子からの求愛を受けたり、王位争いにも巻き込まれてしまったりと大騒ぎ。なんとか王家に伝わる3種の宝飾で、危機一髪難を逃れた。本物の聖女である事を隠して、今もなお騎士訓練所の仕事と、セシリア子爵令嬢として王宮での淑女教育を掛け持ちする事になった私。宰相の行方不明だった姪のクリスティーナ様が出てきてから、雲行きが怪しくなってきて・・・。 もういい、こんな城、出て行ってやる!桜はまさかの家出決行!桜の夢、田舎でのんびり子沢山は実現するのか?! アルファ編。分けて公開の予定でしたが、結局一挙に公開する事にしました。ごめんなさい。

【完結】推しとの同棲始めました!?

もわゆぬ
恋愛
お仕事と、推し事に充実した毎日を送っていた 佐藤 真理(マリー)は不慮の事故でまさかの異世界転移 やって来たのは大好きな漫画の世界。 ゲイル(最上の推し)に危ない所を救われて あれよあれよと、同棲する事に!? 無自覚に甘やかしてくるゲイルや、精霊で氷狼のアレン。 このご恩はいずれ返させて頂きます 目指せ、独り立ち! 大好きだったこの世界でマリーは女神様チートとアロマで沢山の人に癒しを与える為奮闘します ✩カダール王国シリーズ 第一弾☆

異世界シンママ ~モブ顔シングルマザーと銀獅子将軍~

多摩ゆら
恋愛
「神様お星様。モブ顔アラサーバツイチ子持ちにドッキリイベントは望んでません!」 シングルマザーのケイは、娘のココと共にオケアノスという国に異世界転移してしまう。助けてくれたのは、銀獅子将軍と呼ばれるヴォルク侯爵。 異世界での仕事と子育てに奔走するシンママ介護士と、激渋イケオジ将軍との間に恋愛は成立するのか!? ・表紙イラストは蒼獅郎様、タイトルロゴは猫埜かきあげ様に制作していただきました。画像・文章ともAI学習禁止。 ・ファンタジー世界ですが不思議要素はありません。 ・※マークの話には性描写を含みます。苦手な方は読み飛ばしていただいても本筋に影響はありません。 ・エブリスタにて恋愛ファンタジートレンドランキング最高1位獲得

処理中です...