244 / 319
第九話 サキと夢。
21
しおりを挟む◇ ◇ ◇
パチ、とまぶたを開く。
なんだか変な夢を見ていた気がするけれど、どうせ夢だ。意味なんてない。
手のひらを目元に当ててみるが、湿り気なんて露いささかも感じなかった。そういうことだ。感じたこともない。
視界に映る比較的綺麗な天井。
センスは良くない。照明の形がゴテゴテしすぎて邪魔だな、といつも目が覚めた時に思っていた。
──ここは行き場のないクズが潰れたホテルに作り上げた楽園だ。
そこに一つ、別荘を買った。
正確には、貰った。
いつかの彼女を欲しがったここのリーダーに勝手にどうぞと言うと、なぜか気に入られて代金だと譲られたものだ。
俺はそこで、壊れたはずだった自分の感情の残りカスについて考えている。
いやね。
こんなのは、初めてだけどさ。
自分で身を投げることも誰かに殺されることも許されなくなった俺には、この命の使い方がわからない。
けれどもう元通りにはなれない。
あそこにいるとアイツらがダメになる。
なんとなく、それはとても良くないことだと思う。だから離れたし戻れないから、代わりに俺の身の置き場がなくなった。
結果生まれた、心臓の誤作動。
「初めて、知ったのか、思い出したのか、わかんないけど……これ、いやだなぁ」
ポツリとつぶやく。
真昼間から地下に位置する狭い部屋でベッドに寝そべり、なにを考えているんだか。
この掃き溜めのメンバーとして彼らの非道徳的で惰性的な行動の手助けをしつつ、自分の不具合を紐解いていく。
今の俺の仕事は、それだけだ。
ようするに雑用係で、研究者。クズの大出世。はい拍手。パチパチパチ。
「なぁにおはようソウソウに考え事しちゃってんの? ぶっ壊れちゃったさ~き」
「ん~?」
完全な独り言に隣の男が反応し、モゾモゾとベッドの中で俺に絡みついてきた。
不健康に痩せた体躯と傷んだ金髪。あけまくったボディピアスがトレードマークなこの男は、劉邦。ここのリーダー。
ベッドと言ってももちろんお互い服を着ている。ま、健全な添い寝。これが俺の雑用だから。
ここにいるのは、未来が嫌いな快楽主義者で行き場のないクズたちだ。
だからこそただ話を聞いて触れてくれるだけの繋がりのない体温を欲しがっている。要するにイカレた甘えん坊の巣窟なのね。
「ちぇ~やっと俺らの仲間になったのに脳みそは全然くれねぇんだから~」
「うーん。脳みそ、バグってっかんなぁ」
「それは元々。今は溶けて死んじゃってんの。うひゃひゃっ」
人を死体扱いするとか失礼すぎ。
そう言うと「目がもう死んでる」と嬉し気に指摘された。仲間ができて嬉しいらしい。あはは。俺まだ全然生きてんだけど。
「俺、フツウのニンゲンなの」
「ソレ。ここきて何ヶ月ってのにずっとこだわってんじゃん?」
「そらにゃ~。フツウのニンゲンじゃなきゃ今お前の背骨へし折ってたし? 事実じゃね」
「ワァオ。フツウ万歳! 咲はフツウ~」
「初めからそう言ってんのに」
ゴロリと寝返りを打って、怯えながら興奮する器用な劉邦の体を閉じ込めるように抱きしめてみる。
ちょっと違うな、と思った。
だって、アイツらの誰もここまで骨身じゃない。アイツらはもっと違うんだよ。
まぶたを閉じて思い描く。
最近はこうしてカケラの残滓を探すのが日課になっているのですぐになぞれる。
一番体温が高いのはキョースケ。
痩せ気味だけど筋肉質だし基本的に動いてるから割と常にあったかめ。
抱き心地は硬くて筋っぽい。若干骨が浮いてる。骨盤とか。
アヤヒサは一番見栄えがいいと思う。
姿勢がいいからバランスが整ってて適度に筋肉もついてる。見せ筋? まぁ護身術も習ってるし多少は使えんのか。
ただ体温と血圧は低め。二人とももっと飯を食うべきですね。
そこと比べると、ショーゴとタツキはイイカンジ。健康的だしタフで肉付きもしっかりしてる。体温も平均だ。
まぁタツキは少し白いケド。
太陽光浴びねーで音楽室に閉じこもってっからだよ。夜型だからクマあって目付きも悪い。昼寝好きなのはいいとこかね。
ショーゴはちょっとチョロさ減らして、不意打ち耐性付けろと思う。
護身術くらいは会得しな。
もう俺は、ショーゴを襲う通り魔をブロックで撲殺してあげらんねーんだ。
0
お気に入りに追加
275
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
膀胱を虐められる男の子の話
煬帝
BL
常におしがま膀胱プレイ
男に監禁されアブノーマルなプレイにどんどんハマっていってしまうノーマルゲイの男の子の話
膀胱責め.尿道責め.おしっこ我慢.調教.SM.拘束.お仕置き.主従.首輪.軟禁(監禁含む)
【R-18】クリしつけ
蛙鳴蝉噪
恋愛
男尊女卑な社会で女の子がクリトリスを使って淫らに教育されていく日常の一コマ。クリ責め。クリリード。なんでもありでアブノーマルな内容なので、精神ともに18歳以上でなんでも許せる方のみどうぞ。
淫紋付けたら逆襲!!巨根絶倫種付けでメス奴隷に堕とされる悪魔ちゃん♂
朝井染両
BL
お久しぶりです!
ご飯を二日食べずに寝ていたら、身体が生きようとしてエロ小説が書き終わりました。人間って不思議ですね。
こういう間抜けな受けが好きなんだと思います。可愛いね~ばかだね~可愛いね~と大切にしてあげたいですね。
合意のようで合意ではないのでお気をつけ下さい。幸せラブラブエンドなのでご安心下さい。
ご飯食べます。
首輪 〜性奴隷 律の調教〜
M
BL
※エロ、グロ、スカトロ、ショタ、モロ語、暴力的なセックス、たまに嘔吐など、かなりフェティッシュな内容です。
R18です。
ほとんどの話に男性同士の過激な性表現・暴力表現が含まれますのでご注意下さい。
孤児だった律は飯塚という資産家に拾われた。
幼い子供にしか興味を示さない飯塚は、律が美しい青年に成長するにつれて愛情を失い、性奴隷として調教し客に奉仕させて金儲けの道具として使い続ける。
それでも飯塚への一途な想いを捨てられずにいた律だったが、とうとう新しい飼い主に売り渡す日を告げられてしまう。
新しい飼い主として律の前に現れたのは、桐山という男だった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる