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第七話 キョースケと愛し方。
03(side今日助)
しおりを挟む咲に手を引かれ自ら逃げに選んだ場所──脱衣所に移動して、俺は着ていたニットジャケットと白いカットソーやインナーを脱ぐ。
最近のコーディネートはたいてい洒落っ気のないシャツとジーンズだ。
学費、生活費、定期代やその他もろもろ服装に気を回すほど裕福ではないというわけである。
脱衣かご、なんてものがあるわけのない咲の脱衣所。
いかにもな無地の真っ白いバスタオルがニつ、備え付けそのままの棚にむき出しで乗っているくらい。
そのすみっこにこそこそと脱いだ服を固めて隠す。
うぅ、なんで俺は浮気相手の気分になってるんだ? いやまぁ浮気相手だけど、悲しきかな売り買いしただけの関係だぞ?
客に恋人とのプレイに混ぜられたことはあれど、彼女の寝た隙にシようって誘われたことはないんだぜ。
カチャカチャと金属音を鳴らして革のよれてきたベルトを外していると、じっ、と視線を感じた気がしてそっと顔を上げてみた。
「……っ」
そこには案の定、咲野さんの熱視線。
脱衣と言ってもパン一の咲は脱ぐものが一枚しかない。潔がいいほど躊躇いなく全裸になった咲は、つまらなさそうに腕を組んで俺を眺めていた。
「な、なん……?」
「いーやー? 色気ねー脱ぎ方だなぁって。手馴れたオマエのことだから淫乱ビッチ風にストリップショーでもやってくれんのかなって思ったのにガバガバ脱いで、おもんねー」
「ぅえっ」
「やったことないわけじゃねぇだろーよ。変態共の相手はヤり尽くしてんだし」
ビクッ、と未来の言葉に震えて、ジーンズを下ろす手が一瞬止まった。
ただ服を脱いだだけなのにそんなことを言われるとは思わなかったぜ。
いやまぁ確かにストリップ的な気分を煽る脱ぎ方をしろって言ってきた相手もいたけど、それはそう指示されたからしたことで、咲には言われたことがなかったからそういう趣味はないと思ってたんだよ。
ってのは言い訳かな。
いやいや、そもそもがおかしいよな?
「……ん、んん……次はやってみるよ……」
「んーん、次は脱がせねぇからいーや」
「っ!?」
わからないでもないがいきなりすぎるアンサーに、はははと乾いた笑いを漏らす。
と、どうも次なんてないらしい。
ふ、服を脱がせないでヤるのか……? いろんなものがいろんなものでべちょべちょになると思う。だって咲のプレイだし、というかどこまで脱がせないつもりでっ?
サーッと青くなる俺に答えなんて与えず、咲はさっさと浴室へ入っていった。
咲の部屋の浴室は、ゆうに俺の部屋の浴室のニ倍以上はあるほど広い。
まぁ、俺の部屋の浴室が狭めというのもある。ユニットバスだからな。
シックでスマート。
黒い壁には都市を見下ろす窓がある。なんだかオシャレな鏡台付き。広々と足を伸ばせる浴槽にジェットバスは当然だ。
謎にあちこちある室内の明かりは勝手に調節してくれるし、シャワーはモードがあってミストまで出る。公営プールのシャワーさながらなうちのシャワーが泣いてるぜ。
しかも風呂掃除まで全自動。信じられるか? 夜毎勝手に隅々洗浄するって、天井は高いし出入り口は一面スリガラスだし俺ここに住めると思う。ゴホン。
ようは男二人が入っても、なんら窮屈さは感じないってことだ。
カシュッ、と咲がシャワーの蛇口を叩くと、銀色に光るシャープなシャワーヘッドから勢い良くあたたかな湯が流れ落ちた。
「キョースケ、もーシャワー浴びてきた?」
「うん、浴びてきたぞ」
「用意いいねぇ。んじゃ、俺の身体洗ってよ」
「えぇ……っ」
「俺さぁ、風呂面倒なんだよね」と頭からシャワーをかぶりながら、咲の無茶振り。
唸って黙ると、急かすようにシャワーヘッドを向けられて熱めのお湯が乾いた肌にビシビシと当たり、上から下まで二人ともすっかり濡れ鼠になった。
そ、そんなことしたらいよいよイケないお風呂屋さんみたいだぞ。
流石にしたことがない。
俺のいた店はアブノーマルプレイができる男専門のデリバリー店なだけで、洗いっこができる店じゃなかったからな。
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