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第六話 サキとアヤヒサ。
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しおりを挟む「もし……私を不要だと思ったら、殺してくれ。そして咲が必ず、手にかけてくれ」
「んー……? その程度でいいの?」
「うん……ずっとそばで、命令してくれること。命の最期は、あなたであること。それさえあれば……構わないんだ。愛の矛先が、誰だろうと……」
くだらないことを語る湿った身体は血の気が引いて冷たかったのに、吐き出す呼吸は熱かった。
アヤヒサ、熱がある。
まぁそりゃそうか。ストレスに怪我、睡眠と栄養不足。ここはドラッグと暴力とセックスの国だもんな。俺はいいと思うけど。
加担はしていない俺だが、掃き溜めの世界があってもいいと思う。
今しか見ていないこのクズでイカれた集団は、中身のない俺と少し似ているから。
アヤヒサの向こう側で、オモチャを取られて虚ろな顔のままつまらなそうにしていた男がヤクが切れて幻覚に叫び出す。
俺を案内した男が、慣れたように億劫な手つきで縛りつけていた。
そういうところだ。
そういうところに、お前を置いてみた。
のに。
「私は、愛すらなにも、求めない……だから……壊すことは、できないね」
心底から勝ち誇ったようにそう言われると、バツが悪くなった。
貴重な感覚。ホント久しぶり。
どうしようもないから、アヤヒサを横抱きに抱える。
傷が痛んで呻くが無視して、落とさないようにキチンと抱き寄せた。
「ここの部屋のシャワールームは、俺の趣味じゃない。違う部屋にしよ? 洗ってやるよ。車、乗れねぇから」
バン、と硬質な音を立ててドアを開き、部屋を出る。
あの部屋のシャワールームは汚ねぇんだよ、あと狭い。当然使用頻度が高いなら石鹸の類もない。はぁ、使いすぎ。血痕もハンパないかんね。
階下の安い部屋のシャワールームは比較的綺麗なままだ。ここの連中は豪華な部屋を好むから下は使用率が低めで、石鹸類もまだ余ってる。
アヤヒサは、これだから面白くない。
これだからこいつも、……アイツらも。俺は。
俺は、なにか間違ってんの?
何年も、何度も、痛めつけて、汚して、拒絶して、悪趣味なバカだと決めつけ、興味もなく気まぐれに相手をしてきた。
いつでも逃げ出せるというのに、自分の意思でアイツらは居残る。
もちろん俺がそれを受け入れる義務はない。俺は明確に拒絶している。ジョークを本気にしたりしない。
むしろ俺の唯一の地雷を踏もうという挙動を何度もとるのだから激烈な悪意を感じていた。嫌がらせだと思う。
真っ当な対応をしているだけだ。
なのにアレ。
もうなんか、気持ち悪い。キモい、意味がわからない。理解できない。マゾヒスト? そういうの、俺はわからない。うげ。
内心でうげうげと舌を出して吐き気を抑えつけながら階段をおりる。
腕の中から、ヒットポイントレッドゲージで夢と現実の境目を微睡むアヤヒサが、相変わらずの無表情のまま熱い頭を俺の胸にすりつけてきた。
「次の……命令は? 私は、咲だけのナイトになりたいのだ。……ふふ、笑うかい」
は? このまま階段から投げ落とされたくなきゃ黙ってろよクソが。ギャグセンねぇな相変わらず。
騎士なんて身のほど知らずなんだよ。テメェは親父の持ち物で、俺を崇拝してるのは哀れで矮小で独りよがりな子どもを甘やかす腐れた愛玩のくせに。
所詮、同じガラクタロボットのくせに。
「……。……ん……笑ってほしけりゃ、明日の朝、俺を送ってちょーだいな」
ポッカリと空いたスカスカの胸の穴に、恭しくキスをするものだから。
俺は自分が吐こうとした嘔吐物の言葉を縛りつけて、奇跡のような〝優しさ〟を、絞り出した。
第六話 了
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