人の心、クズ知らず。

木樫

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第六話 サキとアヤヒサ。

02

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 しらけた顔でマンションのロビーに入ると、ウサギが一匹、なにやら悩ましげに座り込んでいる背中が目に止まった。


「んー……連絡先不明……部屋番号不明……セキュリティロックで入れず……コンシェルジュには門前払い……んんー……そして三十分が経過……んんんー……」


 とても不思議の国に連れていってくれるようには見えない。

 ベージュの大きめな封筒を片手に、ブツブツとささめいている。ホスト感がほのかにただよう遊び髪は、唸り声とともにぴょんこぴょんこ揺れていた。

 なにやってんだあのうさホスト。

 その不審者ぶりを意にも介さずに俺の手を引くアヤヒサよりずっとおもしろそうな背中に、俺はニマ、と笑ってアヤヒサの手を払い、無邪気に飛びついた。


「ウーサート?」

「ふぎゃっ!!」


 変な声。やっぱおもしろいわ。

 気配を殺しながら首に腕を巻き付けると、いつかのうさホスト──ウサトは、間抜けな声をあげて大げさに体を跳ねさせた。


「なっななな、なにっ、誰、え? あ、咲ちゃん? なんで!?」

「んふふ、おひさちゃん? いけないにゃーん。俺に背中見せちゃだめっしょ?」

「どこぞのスナイパーかいっ!」


 驚きながら振り向いたウサトは、俺を認識するともがもがと暴れて腕を振りほどこうとしてきたので、すんなりと離れてやる。

 かじ 卯智うさと──ウサト。
 ショーゴのエア彼氏を演じていたホストっぽい髪型のウサギちゃんだ。

 真実はただの後輩らしい。どっちでもいいけど、ショーゴが必死に説明してきたから覚えちゃった。
 歳は俺の二個上。メンクイのバカ。

 グレースーツを身にまとったウサトは、呆れかえってぶつくさと悪態を吐く。
 そんなウサトを視界にも入れず、追いついたアヤヒサが静かにそばで控えた。

 うわー見てなにこれ対照的ー。
 クッソおもんねー。


「咲ちゃんなんでここにいんの?」

「散歩? オマエは?」

「混じりっけなしのダウトじゃね? 俺は真面目に仕事ですぅ。この書類を渡したら直帰なんだけど、違う課の配達頼まれただけだから場所だけ教わって名前も部屋番も連絡先も知らねーし……予定時間過ぎてるのに本人さんこねーし……先輩は連絡つかねーし」


 先輩は合コン中だかんな、と言いながらため息を吐くウサト。
 チラチラとアヤヒサを訝しげに探りつつ、俺にトゲのある視線を向けてくる。

 んーと、たぶんショーゴというものがありながらコイツはなんだって感じ?
 大丈夫大丈夫。アヤヒサもジャンル的にはセフレだからおんなじおんなじ。

 ニコニコと愛想良く笑いながら親しみのあるスマイルでウサトの手元を覗く、と、ありゃ?


「それ大宝食品宛て?」

「もー見るなよーそうだけど。取引先の責任者に早めに欲しいって言われたから配達してほしかったらしーけど、その人が来ないワケ。だから咲ちゃんに構ってる暇ねーの。連れとヨロシクやってりゃいーよもーチクってやるし」

「いーよ? なんなら自分で電話しようか? 今週ショーゴと会ってないから一週間ぶりの連絡が連れいる報告とか泣くかもね」

「おやめください咲ちゃんサマ」




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