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第五話 サキとキョースケ。
06
しおりを挟むキョースケは優しい。
どこまでも優しい。
その優しさは世間一般的なソレだ。本で見るとそう書いてある。そういうもの。
いつも陽だまりのように笑っている優しいキョースケのアイスル男は、俺と同じ。
つまり──クズだ。
恋人という名の元でキョースケを奴隷のように縛りつけて、反抗すれば暴力を奮い、都合のいい時にのみ愛を吐き、身体を売らせて金を絞り取っている。
どんなに諭しても馬耳東風。
そのくせ自分は遊びほうけて浮気三昧。女の部屋を渡り歩くヒモ。
顔と外面が良く口八丁手八丁で人を食い物にしてきた小賢しい男のお手本である。
惚れてしまってから本性を知ってしまっても、一度湧いた情はそう簡単に消えなかった。それに悪い仲間がいるようで、逆らってリンチでもされてしまえばお終いだ。
もう知らないと怒ろうが、いい加減にしてくれと泣こうが、激昴して暴れられ犯され有耶無耶にされる。
呆れ果てて、疲れ果てて。
男を見る目のない自業自得だと言い聞かせて、もう離れることを諦めた。
ずっと前にキョースケが語った身の上話がコレ。
当時の俺はそれにケラケラと笑いながら、面白おかしく耳を傾けたもんだ。
だって最高っしょ。
優しい人って名前のドマゾ世界選手権でもしてんのかと思ったわ。
キョースケはドマゾで、カレシは大したことないくせに自尊心と自信とプライドの煮こごりな、他人を見下し消費することにかけては天下一品な部類のドクズ。
え、絶対笑えるじゃん。
そのコラボ見たさある。
キョースケが優しいからじゃなくて、自分が恐怖政治で掌握できてると思ってんでしょ? ウケるべ。ぷぷぷ。
昔を思い出しながらキョースケの青アザをつついていた俺は、想像のコラボ漫才にクツクツと喉を鳴らす。
「やべー。オマエの男、お菓子コーナーで泣きじゃくって暴れ倒すクソガキみたいな彼ピだよな。じわる」
「アイツがクソガキ? うーん、咲はなんでも笑い事にするんだもんよ」
事実笑い事なのに眉を下げて困るキョースケが余計笑いを誘うから、青アザをつつくのをやめて、クスクス笑った。
ドマゾチャンプのキョースケはクズを許容し、貢ぐために身売りしている。
持ち前の親しみやすさと朗らかさで客が途切れないキョースケは、実働時間が少なくても売上が良い。
稼ぎがいいと機嫌がいいらしく、ここ最近は痣のないキレイな身体だったはずなんだけど。
ふーむ、そーでもなさそうよなー。
じろりと眺めるとやはり幻でもなんでもなく、キョースケは傷だらけだ。
あ、根性焼き? アハッ、今時ねーよ。逆にオシャレかもね。
「ばっちー身体。抵抗すんの諦めたんじゃなかったわけ? 反抗期再来?」
「あぁ……どうだろ? ま、もう差し出す金もねーしなぁ……ちょっと嫌なことされたから別れるって言ったら、ビール瓶で殴られた。ははっ」
「まーじで? 見たかったー」
「うーん、タバコ押しつけられながら抱かれるとこは、咲にはあんまり見られたくねーかも……」
薄ら暗い表情で、キョースケは自嘲気味に笑って眉を下げた。
泳いだ視線と少しの間が、もう限界だと悲痛に告げている。
それを見る俺は終始笑い事で、小首を傾げたい気分だ。
バカだなー、コイツ。ホント。
心底から理解が不能ですね。
いやならやめればいいのに。飽きたら棄てればいい。新しい男? 女? 犬でも蛙でも虫でも、なんでもいいや。好きなものと付き合えばいい。
だけどそれができず、もう恋心はなくなっていても一度内側に入れると容易に捨てられない俺と真逆の男……それがバカ助。じゃねーやキョースケ。
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