人の心、クズ知らず。

木樫

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第五話 サキとキョースケ。

01※

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 ──これは今より少し前の話だ。

 死にかけながらセックスすると、気持ちいいらしい。
 生存本能が刺激されて苦痛を和らげようと快楽物質が脳にキマるとか。

 真偽の程はわからない。

 だって俺は、死にかけながらセックスしたことがないからだ。うん。たぶんない。やべー死ぬかなー? みたいなのすらないね。たぶん。おいおい俺の記憶よ。

 だから気になって、目の前の首を絞めたり緩めたりと遊び始めてから、数十分。


「ぁ……ッ…が…ッ……ぅ、ゔぁ……ッ」

「なーだから何度も言ってんじゃん。ケツ締めすぎ。いてぇって」

「か、は……っ、はっ……」


 俺が買った男娼──生多すぎた 今日助きょうすけことキョースケは、死にかけていた。

 ガタガタと体を震わせて、虚ろな瞳で瞳孔を揺らしながらガリガリと敷布団の先にある畳を引っ掻くキョースケ。

 気になったから試したんだよね。

 そういう時はだいたいコイツを抱く。
 窒息とか徘徊とか、常識から少しズレたプレイはキョースケが一番慣れていた。


「咲、ひ…ッ……ぎ…ぅ……ッ」


 俺はけっこう力が強い。
 片手で気道をギュッと絞めあげて畳に首を押しつけて固定し、もう片方の手で何回も出したくせにパンパンに膨れた肉棒をキュッキュッと握ってやる。

 するの酸素不足と快感で中がビクビク痙攣するので、ついでのようにケツに捩じ込んで犯す。

 こう、うつ伏せだからさ。
 尻に跨って足で腰を挟んでやって、体重かけて逃げらんないようにすんのよ。

 そのままズボズボと肉襞の一枚一枚をこ削ぐように出し入れしてやると、シーツと体の間で扱いてやっていたモノから、だいぶサラサラの白濁液が、ビュク、と手についた。


「だらしねーなぁ。キョースケは」


 クスクスと愉快に嘲笑する。
 出すもんねぇのにまだシコれるんだけど。股間バカになってんの?

 キョースケの脳にいきわたる酸素が低下するのに合わせて、角度をつけてゴリゴリと腹筋の裏側を反り返りで抉ってやりつつ、手の中の肉茎は牛の搾乳をするようにニュルニュル絞ってやる。


「あ゛ッ…! あッ…! あッ…!」


 それだけで、薄ら骨の浮いた筋肉質な褐色の背が仰け反りながら汗を散らして、両足がバタバタと暴れ狂った。

 脳ミソと、後ろと、前と。
 三点同時責め? なんか違ぇな。

 たんったんと素肌がぶつかる破裂音。
 小刻みに腰を押しつけてかき混ぜる。
 食いちぎられそうなくらいキツイし常にうねって蠢動するから動きにくい。


「ゔあッ…! ぐ、ひッ…! ぁッ…ッ!」


 違ってもキョースケは釣られた魚のように跳ねながら快楽にのたうち、口端から唾液を垂れ流してケモノのように唸っていた。

 まぁいくら俺が力が強いっても、しっかり男なキョースケが暴れると完全に塞ぎきれないので、そう簡単には死なない。


「ぁッ…さ、ひ…ぉッ……」

「ごめんね? 俺首絞めんの下手くそだから、気持ちよくイカせてあげらんねぇなー」

「ッ……も…ゃぇ……ッ、…ッ」


 吸えないならば吐く息もないので、キョースケは徐々に静かになっていく。

 痛いぐらい俺の肉棒を締めつけ、筋肉を収縮させることで、ジリジリと迫り来る窒息の恐怖を、全身で俺に語っている。

 死んじゃう、死んじゃうって。
 心臓も肺もばっくばくで足の先までピンピン伸びて。

 キョースケ、死にそうなんだろ?
 わかるよ。ちゃんと死にそうな顔してるもん。掠れた悲鳴あげてサ。

 なのに、キョースケは勃起している。
 これは面白い。人体の不思議だわ。


「なぁ、キョースケぇ?」

「ッあ゛……ぁ゛……ぁ゛ッ……」


 柔らかく芯を持つ肉の先端のくぼみを親指の先でヌブヌブとほじりながら、指形がつきそうなほど首を絞め上げる。

 八畳ひと間のボロアパートのワンルームで、部屋の主は死にかけながら男を咥え込み、煎餅布団に種付けをした。

 あららぁ、汁みてぇなセーシ。
 先走りかもだけど、どうせずっとイッてるしにゃー。中も前も。


「本能ってすげぇね。死にかけながら頑張っても、オマエの遺伝子は残らねぇのに」

「ッ……ぉ…ッ…ッ……」

「俺に犯されてもキョースケはなにも孕まないし、腹も膨れない。なのにケツ掘られてばら撒くって……キョースケの精子はみぃんな死に損だわ」


 嘲笑いながら直腸の突き当たりを押しつぶすと、聞こえているのかいないのか、キョースケは窒息寸前の充血した顔で唇をパクパク震わせた。

 目を見開いて舌を出して、涙と唾液と汗となにかだめちゃくちゃだ。

 声はもうなに一つ言葉になってない。
 掠れた吐息と微かな音だけ。

 あぁ、たぶんあともう、数秒くらいしか、キョースケは意識がないだろう。

 キョースケが死を感じた瞬間にイケるよう、ぬぶ、ぬぶ、と内臓をかき混ぜて、陰嚢や会陰、根元から尿道口までをにゅるにゅると丁寧に絞っていく。


「死にかけのキョースケは、綺麗だな」


 耳を舐めて、詰って、褒めて。

 ビクビクビク……ッ、と痙攣する体がオチかけた瞬間、呼吸を許してやった。

 すげぇよ? 息吸った途端にゼェゼェ必死に酸素求めて、死ぬ寸前まで硬直してた筋肉も肺も心臓もみんなブッ壊れそうなくらい生きてるって動き出すわけ。

 で、それ、全身でイッてんだよ。
 あとは、また締め上げる。




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