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第三話 サキとタツキ。
03
しおりを挟むところ変わってライブ終了後のごった返す客たちから、少し離れた通路。
待ち人を出待ちし始めてからしばらくが経過した頃だ。
スマホを弄りながら待っていると、俺の目の前で殺戮パーリィを行っていた男が、ニマァ~と口元に三日月を描きながらウキウキと楽しそうに駆け寄ってきた。
「さ~きィ~! お待たせ。オレサマのライブ見てくれたかァ?」
ぴょんぴょんと柔らかく盛った黒髪にひと房混じる紫メッシュ。ピアス穴だらけの小奇麗な顔は見ているだけでうるさい。
形のいい唇から紡がれる低めで聞き心地のいいハスキーボイスが、機嫌良く踊っている。
この男は──音待 蛇月。タツキ。
俺のひとつ年下で、最近人気のロックバンド・SPACEのボーカル。月というのはタツキの芸名だ。
売れ筋バンドのゲリラライブがこの街で有名なライブハウスでいきなり始まったのだから、話題になることは間違いないだろう。経済戦略だとしてもめんどくさい。
おかげで道路まで気づいた客でいっぱいだ。人が多すぎる。あと俺に教えてちゃゲリラの意味ねぇよな。
タツキはメディアじゃもったいないことに、口元以外を隠す仮面を常に装備している。
共演者だろうがマネージャーだろうが一切顔出しはしない。
それでもいい声してんだよね、タツキは。だから人気モノ。
ま、そのいい声にドスを効かせて、ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべながら俺に絡んできた変態さんたちをぶちのめす罵声パーリィをしてたんだけどネ。
使い道は本人次第ってことさな。
食い殺す勢いで二、三人一気に沈めたコイツの凶暴性は、学生時代イキリやヤカラに絡まれやすかったタツキが、それを撃退する喧嘩上等ヤロウだったからだ。
『なァまだ死なねーの? まだ? あと何発顔面に蹴り入れたら死ぬ? 早く死んでくんね? なぁオイ、聞いてんの? なァ死ぬ? 死ね? 死ねよ? ほら早く死ねって? な? え?』
そしてその頃からタツキは、俺に関することだと誰にでも噛みつく番猫でもあった。
別に、一発ヤらせるぐらいいいんですけどね。俺もヤるけど。ウフフ。
でもそのウザ絡みをタツキに見られちゃって、運の悪い酔っ払いたちはひき肉にされちゃったという。ギャグじゃね?
タツキはキレると真顔になるので面白い。
一見すると、二重人格だ。
「はぁ~咲の腕ェ。行こうぜィ」
「へぇい」
見るに耐えないボロ雑巾と化した男たちを置いて、絡みつくタツキと並び、ハウスの裏口から人気のない路地に出る。
月明かりと表通りのネオンが建物の隙間から差し込んで、タツキのアクセサリーがギラギラと光っていた。
秋も終わりに近づいた頃だ。
少し肌寒いかもしれないが俺は外気の変化に鈍くて、風の匂いが澄むくらい。これが冬の足音の香りなんだろう。
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