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04 三女vs次女
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「ツイ姉!」
三女はとても怒って次女の執務室にノックもせずに飛びこんだ。案の定、次女の眉間にしわが寄った。
「………私はあんな無礼者を育てたのかしら」
次女の魔法適性の中で最も使いやすい水属性の影響か、彼女の周りに冷気がただよっている。
「失礼ですが殿下、魔力をお抑えください」
そう言う側仕え長からも怒りを感じる。
「無礼なのはツイ姉だわ!」
「曲がりなりともあなたは妹。要件くらいは聞いてあげるわ」
椅子に座り紅茶を飲んで少し落ち着いた三女は姿勢を正し告訴した。
「勝手に私の侍女を解任したって聞いた。私の侍女なのだから私の管轄でしょ?」
「………そんなこと」
「そんなことって何!」
「報告、貰ってないのかしら?あの侍女は辺境伯家のスパイだったのよ」
「ならば私に連絡して、私のほうから解任するべきだと思うけど?」
そのせいで三女の能力を疑われる事態になったため三女は非常に怒っているのだ。当たり散らしているわけではない。この2人の仲はもともと悪いが。
「………陛下は、あなたが気づかなかった時点で失格だと仰ったわ」
「はい………?失格?本当にそう言われたの?」
「ええ。認めなさい。あなたは王女の中で最も能力が低いのよ」
「ユイ姉やツイ姉よりは低いけど、ヒカリよりも!?」
「私自身は疑問に思うけど姉さんはそう見ている。私より王に向いている王太女がそう判断した。それはそういうことよ」
「………」
「用件が済んだのなら帰りなさい。私は暇じゃないのよ」
「………殿下、王太女殿下の側仕え長殿とナツ殿下の側仕え殿がいらっしゃいました」
そのとき次女の侍女から来客を告げられる。
三女自身の側仕えは分かるが、長女の側仕え長はなぜ来たのだろうかと三女は疑問に思う。次女は彼らを通した。
「ツイナ殿下、ご機嫌麗しゅう。王太女殿下の側仕え長でございます」
もう老女に差し掛かる側仕え長は跪く。確か彼女は辺境伯令嬢だったはずと三女は思い出す。
「側仕え長殿は何のご用件ですか?」
「夕食を2人で摂らないか、というお誘いでございます」
4姉妹は普段、母女王と父王配と6人で食事をしている。一般的な王族はバラバラで過ごすことが多いが、現女王がそれを嫌っているからだ。
「………今日ですか?」
「はい」
「何故でしょうか」
「それは………」
側仕え長は言葉を濁して茶器のあたりを見る。三女にはどういうことか分からなかった。
次(いつ姉さんは私がヒカリに怒っていると知ったの。情報網が広すぎるわ)
「なるほど。ヒルト?」
「予定は空いております、殿下」
「お受けいたしますわ」
迷う間もなく次女は誘いを受けた。それは誘い主のほうが格上だからだ。
「分かりました。きっとお喜びになるでしょう」
側仕え長は後ろに下がった。
「………さて、今度はヒカリの側仕え殿。待たせましたが、何の用ですか?」
「私を叱りに来たんでしょ」
「お初にお目にかかります、ツイナ殿下。私はヒカリ様の侍従長です。………ヒカリ様は少し黙っていてくださいませ」
困った子を見る目で侍従長に嗜められた三女は驚いたが、彼は彼女が幼いころから仕えてきた信頼のあるエルフである。従うことにした。
「わが主がとんだ無礼をしたこと、侍従長である私が心より謝罪いたします。そして、それを見逃してきた私たちは責任を持ってヒカリ様を優秀な王族に育てることを誓います」
次女は目を見開いた。三女も同じ気持ちである。
三女はずっと期待されていなかった。王太女も第2王女も優秀だからだ。姉たちとは年が離れていて王位継承争いができなかったからだ。この2人がいればエルフの国は安泰だと言われた。はっきり言えば、国政上、三女は必要ない存在なのだ。だから三女は降嫁する日を見据えて公爵夫人として恥ずかしくない程度の教養しか習わなかった。言い換えれば、それ以上を求めず、国内最高の権力を持っているうちに、公爵家のしがらみに囚われないときに、やりたいことをしておこうと思っている。
………それじゃだめだったのか。
「私への謝罪は受け入れます。………ですが宣誓の意味がよく分かりません。これまでは何だったんですか?」
「これまでは、姫様の希望で王女であるための教育を施してきませんでした。ですが今日それでは駄目だと思いました。私たちは姫様に立派な王女になっていただきたいと思います」
次女は妹を見た。これまでの目とは違う気がした。
「………そうだったのですね。王位に興味がなく姉さんを支えるための教育を施された私と同じだったのね」
それは軽蔑ではない。怒りでもない。………それは理解者の目。
「はい」
「第3王女殿下。申し訳ありませんでした。私も謝罪します」
次女は三女に頭を下げた。驚いたけれど三女はこう言った。
「許します。ツイ姉のこと、私は好きです」
「………そう」
彼女は決して好きとは言わなかったけれど、三女はひとりの姉と和解できて嬉しかった。
「ところで側仕え長殿。姉さんの用件は済んだと思うのだけれど?」
「そうですね。ですが、わが主は殿下とただお話ししたいだけかと」
「………姉心というものか」
これまでの三女なら面倒くさいとしか見えなかったはずだが、いまの彼女は表情から次女なりの愛を感じ取ることができた。
後書き、というか愚痴
今回この話で、題名の通り三女と次女を決裂させる予定でした。ですが蓋を開けてみれば………おやおや? 2人は仲良くなってしまいました。なんてことでしょう!?
三女はとても怒って次女の執務室にノックもせずに飛びこんだ。案の定、次女の眉間にしわが寄った。
「………私はあんな無礼者を育てたのかしら」
次女の魔法適性の中で最も使いやすい水属性の影響か、彼女の周りに冷気がただよっている。
「失礼ですが殿下、魔力をお抑えください」
そう言う側仕え長からも怒りを感じる。
「無礼なのはツイ姉だわ!」
「曲がりなりともあなたは妹。要件くらいは聞いてあげるわ」
椅子に座り紅茶を飲んで少し落ち着いた三女は姿勢を正し告訴した。
「勝手に私の侍女を解任したって聞いた。私の侍女なのだから私の管轄でしょ?」
「………そんなこと」
「そんなことって何!」
「報告、貰ってないのかしら?あの侍女は辺境伯家のスパイだったのよ」
「ならば私に連絡して、私のほうから解任するべきだと思うけど?」
そのせいで三女の能力を疑われる事態になったため三女は非常に怒っているのだ。当たり散らしているわけではない。この2人の仲はもともと悪いが。
「………陛下は、あなたが気づかなかった時点で失格だと仰ったわ」
「はい………?失格?本当にそう言われたの?」
「ええ。認めなさい。あなたは王女の中で最も能力が低いのよ」
「ユイ姉やツイ姉よりは低いけど、ヒカリよりも!?」
「私自身は疑問に思うけど姉さんはそう見ている。私より王に向いている王太女がそう判断した。それはそういうことよ」
「………」
「用件が済んだのなら帰りなさい。私は暇じゃないのよ」
「………殿下、王太女殿下の側仕え長殿とナツ殿下の側仕え殿がいらっしゃいました」
そのとき次女の侍女から来客を告げられる。
三女自身の側仕えは分かるが、長女の側仕え長はなぜ来たのだろうかと三女は疑問に思う。次女は彼らを通した。
「ツイナ殿下、ご機嫌麗しゅう。王太女殿下の側仕え長でございます」
もう老女に差し掛かる側仕え長は跪く。確か彼女は辺境伯令嬢だったはずと三女は思い出す。
「側仕え長殿は何のご用件ですか?」
「夕食を2人で摂らないか、というお誘いでございます」
4姉妹は普段、母女王と父王配と6人で食事をしている。一般的な王族はバラバラで過ごすことが多いが、現女王がそれを嫌っているからだ。
「………今日ですか?」
「はい」
「何故でしょうか」
「それは………」
側仕え長は言葉を濁して茶器のあたりを見る。三女にはどういうことか分からなかった。
次(いつ姉さんは私がヒカリに怒っていると知ったの。情報網が広すぎるわ)
「なるほど。ヒルト?」
「予定は空いております、殿下」
「お受けいたしますわ」
迷う間もなく次女は誘いを受けた。それは誘い主のほうが格上だからだ。
「分かりました。きっとお喜びになるでしょう」
側仕え長は後ろに下がった。
「………さて、今度はヒカリの側仕え殿。待たせましたが、何の用ですか?」
「私を叱りに来たんでしょ」
「お初にお目にかかります、ツイナ殿下。私はヒカリ様の侍従長です。………ヒカリ様は少し黙っていてくださいませ」
困った子を見る目で侍従長に嗜められた三女は驚いたが、彼は彼女が幼いころから仕えてきた信頼のあるエルフである。従うことにした。
「わが主がとんだ無礼をしたこと、侍従長である私が心より謝罪いたします。そして、それを見逃してきた私たちは責任を持ってヒカリ様を優秀な王族に育てることを誓います」
次女は目を見開いた。三女も同じ気持ちである。
三女はずっと期待されていなかった。王太女も第2王女も優秀だからだ。姉たちとは年が離れていて王位継承争いができなかったからだ。この2人がいればエルフの国は安泰だと言われた。はっきり言えば、国政上、三女は必要ない存在なのだ。だから三女は降嫁する日を見据えて公爵夫人として恥ずかしくない程度の教養しか習わなかった。言い換えれば、それ以上を求めず、国内最高の権力を持っているうちに、公爵家のしがらみに囚われないときに、やりたいことをしておこうと思っている。
………それじゃだめだったのか。
「私への謝罪は受け入れます。………ですが宣誓の意味がよく分かりません。これまでは何だったんですか?」
「これまでは、姫様の希望で王女であるための教育を施してきませんでした。ですが今日それでは駄目だと思いました。私たちは姫様に立派な王女になっていただきたいと思います」
次女は妹を見た。これまでの目とは違う気がした。
「………そうだったのですね。王位に興味がなく姉さんを支えるための教育を施された私と同じだったのね」
それは軽蔑ではない。怒りでもない。………それは理解者の目。
「はい」
「第3王女殿下。申し訳ありませんでした。私も謝罪します」
次女は三女に頭を下げた。驚いたけれど三女はこう言った。
「許します。ツイ姉のこと、私は好きです」
「………そう」
彼女は決して好きとは言わなかったけれど、三女はひとりの姉と和解できて嬉しかった。
「ところで側仕え長殿。姉さんの用件は済んだと思うのだけれど?」
「そうですね。ですが、わが主は殿下とただお話ししたいだけかと」
「………姉心というものか」
これまでの三女なら面倒くさいとしか見えなかったはずだが、いまの彼女は表情から次女なりの愛を感じ取ることができた。
後書き、というか愚痴
今回この話で、題名の通り三女と次女を決裂させる予定でした。ですが蓋を開けてみれば………おやおや? 2人は仲良くなってしまいました。なんてことでしょう!?
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