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1章 召喚先でも仲良く
018 女王の弟たち
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※ライアン・シャルロア=マジエ女王side※
わたくしは、王族として産まれた。それも長女として。
その時点で、将来、父の後を継いで女王になることは決まっていた。
5年後に現宰相の弟リグル・カルテリ=マジエ、8年後にもう1人の弟クラム・ヒルトン=マジエが生まれたが、彼らの王位継承権はわたくしより下だった。
これは、わたくしが立太子の儀を経て王太女になった日。
お父様やお母様、リグルなどの王族、多くの国内貴族、国賓からの祝いを受けて、部屋に戻ったのは深夜だった。
「殿下。ご来客です」
「明日に回しなさい」
王太女としての顔はまた明日ね。
「弟君です」
リグルなら今日来たわ。
………まさか、クラム?
「分かったわ、通しなさい」
想像通り、来客はクラムだった。
彼はわたくしに跪き、スラスラと口上を述べた。
「姉上、お誕生日おめでとうございます。また、立太子なされたこと、お祝い申し上げます」
「ありがとう、クラム。あなたも式典に出席できたらよかったのだけれど」
「私の身には余ります。妾の子の身分で、王族の末席に名を連ねることでさえ光栄なのに、これ以上は必要ありません。お気持ちだけ承ります」
青髪がしなやかになり、澄んだ緑の瞳の美少年になったものだ、と感心する。
正妻であるお母様の腹から生まれさえすれば、ご令嬢が放っておかないのに。
「それで、今夜はそれだけのために来たの?」
「………さすがは姉上。お見通しですか」
「口調がいつもより固いんだもの」
「………王太女殿下に申し上げることは無礼でありますが、国王陛下にもどうかお伝えください。
私への支援はもう必要ありません」
それを聞いたとき、怒りが渦巻いた。
彼はまだ10歳。成人してすらいない。
まだ親であるお父様の保護の範囲にいることができる。
誰ですか、わたくしの弟にそのようなことを吹き込んだのは。
「どうして………? どの子息が言ったの?」
最近きな臭い動きをしている辺境伯か。
「いえ、私が自主的に決めたことです」
「臣下として王族としての教育は受けているでしょう? あなたはその教育通りになるの」
「とても申し訳ないです。私なんかのために国のお金を使うなんて………」
「前伯爵から聞いているわ。優秀ですってね」
クラムの先生はわたくしの侍女の父だ。
彼は、自分の娘より優秀かもしれぬ、と笑っていた。
どこまで本当なのだか分からない言い方だった。
「そんな。それは閣下の教え方が上手なのです」
「あなたのほうが立場は上だから閣下はいらないわ」
「申し訳ありません、姉上」
わたくしには、どうして彼が王族でいたくないのか分からなかった。
だから、いま、喧嘩に近いことになっている。
これまでその答えを知ることを避けてきたが、もう聞くべきではないだろうか。
引き返せない気がする。
その場にいた侍女を全員部屋から出して、クラムに向き直った。
何事だ、と緊張しているように見える。
「ねえクラム。どうしてあなたは王族でいたくないの?」
「………不敬罪には当たりませんか」
「王族は基本的に罪に問われない。知ってるでしょ?」
弟たちが幼かったときは、ラフな口調で話していた。
意図を理解した賢い少年は答えた。
「姉さん。僕はただの平民の息子だよ。貴族、ましてや王族なんて荷が重いんだ」
「国王の息子でもあるよ?」
「どっちの息子を選ぶのかは僕次第じゃない?」
そう言われると反論に苦しむ。
「そもそも、陛下はどこで母さんと出会って、どうしてあんなことになったの?」
「それはわたしも知らない。聞こうと思ったことはあるけど、お母様のことを考えると気が進まなくて」
「兄さんなら知ってるかもしれないよ。だってあの性格だし」
「そうだね」
2人で笑い合った。
クラムが王族が不相応だと言う理由は、彼自身を平民だと思っているから。
「分かった」
「戻してくれる?」
「姉としてのわたしはあなたを平民にしてもいいと思っている。でも王太女、政治人としてのわたくしは優秀なあなたを失うのは惜しいと思っている。
………お父様やリグルとも話し合ってみるわ」
「ありがとう、姉さん」
ごめんね、わたしは嘘を吐いた。
姉としても、かわいい弟であるあなたを手放したくないの。
また、3人でお茶会をしようと約束して、彼は帰った。
そして、今日は前夜祭の前日。
クラムを女王として執務室に呼んだ。
久しぶりに見た弟は、宮殿にいたときよりも生き生きとしていた。
本人は隠しているつもりだろうが。
「陛下、ご機嫌麗しゅう。ご命令により参りました、クラム・ヒルトン=マジエでございます」
「よく来てくれました、クラム。今日はあなたに伝えなければならないことがあります」
「はい、何なりと」
彼に伝えることはわたくしの力不足が原因の悲報だ。
悔しい。
「勅令です」
[汝、クラム・ヒルトン=マジエ第2王子を、廃嫡とする。
また、王位継承権を剥奪する。
これからはいち平民として生きるべし。
よって、王国の名は名乗れず、“クラム・ヒルトン”に改名する。
王家からの支援は全て停止する。
マジエ王国暦312年10月29日 8代女王ライアン・シャルロア=マジエ]
「勅令承りました、陛下」
姉としての最後の抵抗をどうか受け取って。
「クラム、姉として私財からお金を出します」
「お気持ちだけ感謝致します、姉上」
下がってもいいか、と目で聞く賢くなりすぎた弟に、私は最後になるかもしれない言葉をかけた。
「わたくしはあなたの姉であり、亡きお父様はあなたの父であり、リグルはあなたの兄であること。それを忘れないでください。これは決して変わりません」
「………肝に命じます。姉上、失礼します」
わたくしは、弟を、見送った。
わたくしは、王族として産まれた。それも長女として。
その時点で、将来、父の後を継いで女王になることは決まっていた。
5年後に現宰相の弟リグル・カルテリ=マジエ、8年後にもう1人の弟クラム・ヒルトン=マジエが生まれたが、彼らの王位継承権はわたくしより下だった。
これは、わたくしが立太子の儀を経て王太女になった日。
お父様やお母様、リグルなどの王族、多くの国内貴族、国賓からの祝いを受けて、部屋に戻ったのは深夜だった。
「殿下。ご来客です」
「明日に回しなさい」
王太女としての顔はまた明日ね。
「弟君です」
リグルなら今日来たわ。
………まさか、クラム?
「分かったわ、通しなさい」
想像通り、来客はクラムだった。
彼はわたくしに跪き、スラスラと口上を述べた。
「姉上、お誕生日おめでとうございます。また、立太子なされたこと、お祝い申し上げます」
「ありがとう、クラム。あなたも式典に出席できたらよかったのだけれど」
「私の身には余ります。妾の子の身分で、王族の末席に名を連ねることでさえ光栄なのに、これ以上は必要ありません。お気持ちだけ承ります」
青髪がしなやかになり、澄んだ緑の瞳の美少年になったものだ、と感心する。
正妻であるお母様の腹から生まれさえすれば、ご令嬢が放っておかないのに。
「それで、今夜はそれだけのために来たの?」
「………さすがは姉上。お見通しですか」
「口調がいつもより固いんだもの」
「………王太女殿下に申し上げることは無礼でありますが、国王陛下にもどうかお伝えください。
私への支援はもう必要ありません」
それを聞いたとき、怒りが渦巻いた。
彼はまだ10歳。成人してすらいない。
まだ親であるお父様の保護の範囲にいることができる。
誰ですか、わたくしの弟にそのようなことを吹き込んだのは。
「どうして………? どの子息が言ったの?」
最近きな臭い動きをしている辺境伯か。
「いえ、私が自主的に決めたことです」
「臣下として王族としての教育は受けているでしょう? あなたはその教育通りになるの」
「とても申し訳ないです。私なんかのために国のお金を使うなんて………」
「前伯爵から聞いているわ。優秀ですってね」
クラムの先生はわたくしの侍女の父だ。
彼は、自分の娘より優秀かもしれぬ、と笑っていた。
どこまで本当なのだか分からない言い方だった。
「そんな。それは閣下の教え方が上手なのです」
「あなたのほうが立場は上だから閣下はいらないわ」
「申し訳ありません、姉上」
わたくしには、どうして彼が王族でいたくないのか分からなかった。
だから、いま、喧嘩に近いことになっている。
これまでその答えを知ることを避けてきたが、もう聞くべきではないだろうか。
引き返せない気がする。
その場にいた侍女を全員部屋から出して、クラムに向き直った。
何事だ、と緊張しているように見える。
「ねえクラム。どうしてあなたは王族でいたくないの?」
「………不敬罪には当たりませんか」
「王族は基本的に罪に問われない。知ってるでしょ?」
弟たちが幼かったときは、ラフな口調で話していた。
意図を理解した賢い少年は答えた。
「姉さん。僕はただの平民の息子だよ。貴族、ましてや王族なんて荷が重いんだ」
「国王の息子でもあるよ?」
「どっちの息子を選ぶのかは僕次第じゃない?」
そう言われると反論に苦しむ。
「そもそも、陛下はどこで母さんと出会って、どうしてあんなことになったの?」
「それはわたしも知らない。聞こうと思ったことはあるけど、お母様のことを考えると気が進まなくて」
「兄さんなら知ってるかもしれないよ。だってあの性格だし」
「そうだね」
2人で笑い合った。
クラムが王族が不相応だと言う理由は、彼自身を平民だと思っているから。
「分かった」
「戻してくれる?」
「姉としてのわたしはあなたを平民にしてもいいと思っている。でも王太女、政治人としてのわたくしは優秀なあなたを失うのは惜しいと思っている。
………お父様やリグルとも話し合ってみるわ」
「ありがとう、姉さん」
ごめんね、わたしは嘘を吐いた。
姉としても、かわいい弟であるあなたを手放したくないの。
また、3人でお茶会をしようと約束して、彼は帰った。
そして、今日は前夜祭の前日。
クラムを女王として執務室に呼んだ。
久しぶりに見た弟は、宮殿にいたときよりも生き生きとしていた。
本人は隠しているつもりだろうが。
「陛下、ご機嫌麗しゅう。ご命令により参りました、クラム・ヒルトン=マジエでございます」
「よく来てくれました、クラム。今日はあなたに伝えなければならないことがあります」
「はい、何なりと」
彼に伝えることはわたくしの力不足が原因の悲報だ。
悔しい。
「勅令です」
[汝、クラム・ヒルトン=マジエ第2王子を、廃嫡とする。
また、王位継承権を剥奪する。
これからはいち平民として生きるべし。
よって、王国の名は名乗れず、“クラム・ヒルトン”に改名する。
王家からの支援は全て停止する。
マジエ王国暦312年10月29日 8代女王ライアン・シャルロア=マジエ]
「勅令承りました、陛下」
姉としての最後の抵抗をどうか受け取って。
「クラム、姉として私財からお金を出します」
「お気持ちだけ感謝致します、姉上」
下がってもいいか、と目で聞く賢くなりすぎた弟に、私は最後になるかもしれない言葉をかけた。
「わたくしはあなたの姉であり、亡きお父様はあなたの父であり、リグルはあなたの兄であること。それを忘れないでください。これは決して変わりません」
「………肝に命じます。姉上、失礼します」
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