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第五十五回『ここがスゴイ! メンヘラ天使ちゃんニュース!』

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「何もかも嫌になってきた……」
「よしよし」
 もはや定期的恒例となった深夜回。
 今日はマギの部屋にお泊まりしての開催となった。
 ちなみにマギの部屋はこう見えてわりと雑然としている。気心の知れた女子同士ということもあるのだが、素のマギときたらミカよりもずっとずぼらで、家ではだらしない。これもまた逆という真理に適っている……とマギは思ってしまうのだった。
 逆にミカはこう見えて家は綺麗だから驚きである。
 余計なものを置いてないのもそうだが、自室のベッドにはクレーンゲームでとったぬいぐるみがクッションのように積まれているし、またシーツや毛布諸々の色味も実に女の子らしい。これは一方で男を呼ぶ側面でもある。
 どちらが真に女らしいと言えるのか、わかったものではない。その凸凹さ加減もまた二人の関係の妙に手を添えているのだろう。
「ミカパイセンはスキーマ(第三十一~三十二回参照)が根強いから。治そうとしたところで追い討ちかかって余計に凝り固まって……現実、そんなもんなんでしょうけど」
「……すぐふてくされるよ。嫌になる。なんで観てもらえないんだろう……毎日面接に落とされてる気分だ……それどころか見向きもされない……面白いと思うのに通じない……」
「ミカパイセンになろうや転生の面白さがわからないように、私らの面白さがわからない人もいて、そりゃここはそういうサイトでそういう人たちが集まる場所ですからね」
「エンタメの面白さって場所で変わるの」
「年齢や性別、趣味を場所と思えば変わるのでは? そうした直球が苦手な人が集まる、と考えたらどうでしょうか」
「私、直球しか投げれないよ。頭良くないし。そもそも変化球投げまくって、言いたいことを作品に暗にこめたの出してもそこまで見てもらえない。まずその導線が機能しているかの確認だって不明確。見てもらえてないことには何もわからないし」
 ミカはさりげなくマギの胸に顔を押し当てながら続ける。抱き枕となって一日目。
「あ、でも、サイト別の違いのようなものは見えてきた。カクヨムはね、話ごとのアクセス見れるの。だから、いいねとか押されなくてもどこまで見たかはわかる。それで、なんと、四回で止まってんだよ」
「四回……っていうと、援交とパパ活の話ですね」
「うん。これは正直意外でさ。あの辺なんか真骨頂というか、まさに私たちって感じの回だったと思うんだけど」
「パイセンの名台詞も出ましたしね」
「そこで止まられるというのはどういうことか」
「確かに。あれで牽引できないとなると、単にその人はやっぱり推し活勢ということなんでしょうか」
「どっちみちあそこで止まるなら、その先も刺さらないだろうし。それは良いんだけど」
「ネタをネタとして消化できないと、私たちのコメディ、単なる雑言ですからねぇ。カクヨムでも知名度をあげてかないと全貌はわかりませんね」
「まだ全然観てもらえてないからね。如何とも言えない。だから知名度あげたいし、とにかく一度見てみてほしい。けど……見てもらえないのループ」
「行間もその一環?」
「うん。もちろん。けど、私やこの番組はやっぱ空けないほうがいいかな。てか、現在の状態でも行間のサイズとか細かく変更できたらいいのに……できないのかな。Xのnoteくらいなら、詰めてても重い印象なしに見れんじゃないかと思うんだけど」
「なぜ見てもらえないんでしょうね……」
「タイトル? 紹介文? 知り合いが紹介文は大事とか言ってた。凝らしてるつもり。みんな、メンヘラが嫌いなのかなぁ」
「メンヘラ好きと公言できる人もなかなかいないんじゃないかなぁ」
「メンヘラ好きもそうだけど、メンヘラ本人にも刺さる内容じゃないかと思うんだけどなぁ」
「そうですかね。メンヘラって厳しいこと言われたら逃げませんか?」
「偏見だよ。それは単なる逃げ腰野郎じゃん。メンヘラってのは、禍っている自分をなんとかしたいと思いつつも、できないことで一層落ち込み、そんな自分と自分を追い詰める社会に日々絶望してる人たちのことだから。違いはもがいてるか、もがいてないか。もがいてないのは、それこそ紛い物。(頑張りたかったけど、頑張れなかった自分が辛くて)病む。だから。もがく意思のない人は、そもそも病むってことができない」
「根っこはめちゃくちゃピュアで真面目なんですね。そりゃ余計に厄介だわ……(そしてますます人間逆説に適っていく……すなわち、どうでもいい人ほどくよくよと悩まずにいられるのだ……)」
「負け組とか勝ち組とかあるじゃん。これもXで見ちゃったネタなんだけど」
「ほむ」
「負け組って言葉自体が嫌いで、それを自称する奴は嫌だって。なんかね、それって己がこの世の理不尽を認めたくないバイアスだろ? って思っちゃって」
「あー、ありますよね。それこそいちいち言わなくても良いことな、気がしますね。Xのネタ返し」
「その人は真の負けを知らないから言えるんだよ。一方ここで私の大好きな作家の、そして一文を引用しよう。伊藤計劃さんでハーモニーから。『わたしたちはどん底を知らない。どん底を知らずに生きていけるように全てがお膳立てされている』。どんな哀しいことも絶望も、平静では考えられない、信じられないようなことも、現に今、この世のどこかでは起こっているのが、真実であって。まずは自分含めて人間ってのはそんな綺麗なものじゃないと認められることじゃないのか、と思うます。私は」
 ミカは続ける。
「そして、それを認めながら、知りながら、絶望しながら、なお綺麗なものでありたいと強がり、白くいようとするその姿を、うつくしいと言うのじゃないか。そこで堕してしまったらね、どれだけ高く舞い上がろうが、そいつは蛾なんだよ。カイコは白くて可愛いけど。私は、蝶になりたい。私は、穴ボコの底から天を睨みつけながら、そう思うます」
「お膳立てされた人にはわからないこと、でしょうよね。負け組の気持ちやそれを自称したくなる感傷というのは」
「そう。私も転生やなろうの気持ちはわからない。分からなかったけど、改めて子供の頃を思い返してみたらね。中学の時にもう私は、この世とさよならしたくて、時期を見て車の前に飛び出すかなんかして、とっとといなくなろうって考えてた時期もあって。その時よく想像してたのは、確かに、生まれ変わった先のことだった。死んで、生まれ変わった先では自分の都合のいい剣と魔法の世界が広がってたらいいなぁって、それを想像してるときは死んだ気持ちが少し晴れやかになってたのを思い出したの」
「パイセンの闇か……もうそんな時期から……まあ菊の花と生まれ落ちたらそれもそうか……」
「あー一応言っとくと、別にいじめとかじゃないし、今はないよ。そもそも直接的な原因が周りにあるわけでもないと思う。中高生ってわりとそうだと思うんだけど、生きることに一回飽きる時期なんだよ。漠然と地平が見えてきてしまった気がして、こんなもんか……って。これがあと十年、二十年。何十年と、死ぬまで続き、生まれ変わってからも、前世で愛していた人を忘れ、今世で違う誰かを愛して、死ぬまでの束の間、あるいは叶えられなかった真愛の代わりに隣に置いておくだけのことを、愛だと呼んで、そうして際限なく輪廻を繰り返していくだけのことなのかって、気付いてしまって、果てしない日常の檻の中に閉じ込められているような感覚がして。飛び出したくなって。そういう感じ」
「スカイクロラじゃないですか。中学でリアル三ツ矢の苦悩に至ってしまってたんですか、パイセン」
「珍しいことじゃないと思うよ。むしろありがち。だから、スカイクロラは面白いとされている。この世で。……私はきっとすでに狂っていたんだ。だから、担任が家に来てたりもした。んで、話も聞いた。人はなぜ生きるのか。担任の答えは、お金のためだってさ。生きるのに必要な糧を得るためのお金を稼ぐためにある。資本主義の一例で方便のようにしか聞こえなかったけど、こんなのはまだマシで。親は単なる現実逃避で、頭がおかしくなったと断じて取り合わない。あの頃に、スカイクロラに出会っていたかった。そうすればWではなく関西のN大を目指してたかもしれない。森さんはS&Mシリーズを見ればわかるけど、そういう人の教師をやってくれている。あの人の小説はまるで森さんの講義を受けているような気がする。そしてそれが何よりも面白い。私は、私のように悟ってしまった子がいて、これを観ているとしたら、彼の小説をオススメする。『スカイクロラ』『全てがFになる』からのシリーズ。どれでもいい。きっと合うと思う。犀川助教授や真賀田博士の言うことは君を夢中にさせてくれると思う」
「それもまた青春ですね。私はなんかこう、思いながらも明日の宿題がーとか。趣味とか、部活とか、そんなんで埋め尽くされてた気しかしないけども」
「偏見だけど、ひょっとしたら、マギのようにその頃にそういう感傷にぶち当たらなかった人たちが大人になっても転生を見続けてる人たちなのかもね」
「……なるほど。大人になってからかかる麻疹みたいな。それはあるかもしれませんね」
「まさに詰め込み教育とかモンペの賜物。だから、あえて言っとくと頭が良い悪いなんてことではないんだよ。この差は。気付いたのが早かったか、遅かったか、だけだから。むしろ、子供の頃に気付いてしまうほうがよほど辛いと思う。大人からならある程度、それこそ娯楽として、割り切れるかもしれない。子供の想像力では、そうはいかない」
「確かに……そうした先人たちのお話ってのは、そういった力のある言葉の受け売りを授かるようなところがあるかもしれませんね。ただの娯楽というよりはその人の講義や哲学や、それこそ魂、記憶の継承……」
「誰かが『遺伝子を運ぶ舟』と例えたけど、私はそう言うと『記憶』のほうがセンチメンタルで好きかも。『記憶を運ぶ舟』」
「デジャヴとか好きですもんね、パイセン……まさに文学少女的な言い換えかもしれませんね」
「あ! そうだった。うる星やつらの三期始まってんよ」
「……また取ってつけたように始まるんだから。リメイクのほうですよね?」
「そう。私、高橋留美子先生の作品初めてでさ。これだけは昔気質とはいえない。MAISONdesさんの曲がめちゃくちゃ良いと思う! なんで世間はYOASOBIのほう推すんだろう? あの人たちのがよっぽど良くない? 色んな感傷がこもってて、テンポいいのに、泣きたくなってくるような神曲ばかりなのに。四期も。ずっとあの人たちがいい」
「動画サイトで流行ったじゃないですか」
「流行ったのチョッパーだっろ! だって私はビッチ天使だ、羽根だって、輪っかだってあるし……! そりゃ帝京平成大学で幅広い学問を学びたいけど……! 私はビッチだっし!」
「うるせえ、見よう」
 マギは布団を跳ね飛ばしながら言うのだった。





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