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第五十四回『行間とミカの変化』
しおりを挟む「前回の続きです。レイさんが起きました!」
その時ふいにレイが目を覚ました。
のんびりとあくびをつきながら言う。
「あらあら。どおしたの、この間の抜けた行間は……まるで痛い沈黙が流れた後のよう……」
「(鋭すぎんだろ……こわっ。妹もぶっ飛んでるけど、この姉がそもそもこわい)そうそう。私もさっき一回ツッコミましたけど、今回やたらと行間が目立ちますよ。かなりメタな話ですけど」
「なんかねー、全てはここからとかほざく人がいたからさー、不服ながらやってみっべ……と思ってやってみたんだけど」
「ほざくとか言い方しないの。まぁ互いにトーシロのくせに教えたがりって、自治厨みたいな臭さを感じますけれど」
「マナー講師(笑)みたいな痛さ」
「だから言ってやるな。本人は善意かもしんないんだから」
マギが仕切り直した。
「パイセンってその辺妙に頭固いとこありますよね。頑なに昔気質というか……それが格好いいと思ってそう、ある意味で厨二のまま成長してないっていうか……それがこうして試そうというだけで、もう大したもんですよ。どうしたんですか?」
「うーん、それがね。あれは長州小力のアレンジなんだよね。あと実際にはあんな繰り返してない。聞き取れてるだけで『キレてないですよ』『キレちゃないですよ』の二パターン観測されてる。さらにプロレスファンなら絶対長州力よりも天龍のが聞き取りづらいの知ってるからなぁ。でもね、それもまた良いんだよね。あの二人が、正直何言ってるんだかわからないけど、『あ、なんか話してる……ふふっ、よくわからないや』ってカメラマンさんもそれを映してるって絵がもうね、尊いんですよ。尊い。知らない人も一度見てみ。飛ぶぞ。可愛さで」
「……?」
マギは、行間についての説明を得られるかと思いきや、急にプロレスについて語り始めたインタビュイーの返答に困惑して首を傾げた。
「まぁまぁ、ミカ。マギが置いてけぼりを喰らってるわ。二言ほど前まで思考を戻さなきゃダメよ」
「え……あ、あー。そうか。うん。私ね、すごく印象に残ってる出来事があってね。ブラボ好きなおじいちゃんのお話」
「宇宙人の会話か?」とマギ。
「先輩的にはニュータイプとか言われると喜びそうです、マギ先輩」
「私たちは一般人でいようぜ。私は腐り、」
「私は夢ってるけど」
「改めてよろしくね」
なぜか横の二人の友情が深まった。
ミカは関せず話し続けた。
「おじいちゃんがブラボするってすごくない? 今日も何回も死んだ。とか言いながら、それでも楽しくてやってるんだって。テレビでやってた」
「ほんほん。それで?」
「ちょっと前にも、大人になると大人ってそんな大人でもないことに気付くって話したじゃん?」
「あー、シンジくんの中の人の呟きから学びを得た的な」
「そうそう。あの人の声すんげぇ格好良いよね。あれは選ばれた人と自負するだけあるわ。好きな人は絶望編のED聴いてみて。飛ぶぞ。『え? 本当に女性……普通に男よりカッコ良くね……?』ってカッコ良さ(褒め言葉)。で、私は苗木、好きなんだ(一番は江ノ島だけど)、ダンロン3って評判芳しくなかったけど、私は絶望編の一話のさちのセリフが、未来編のめちゃくちゃ良いシーンで掛かってくるのとか、構成本当に好きでさ。ネタバレになるから言えないけど、苗木のセリフといい、本当に……」
「……?」
「ミカ。一言前に戻らなきゃ」
「あ、そっか」
「やっぱめんどくせぇなぁ! この人の言語野! 私も慣れてきちゃったけど!」
でも一生懸命に好きなことについて語るミカパイセンはまんざらでもないマギなのだった。
てぇてぇ、てぇてぇ、なのだった。
「えーと、大人になると大人が大人じゃないって気付く話……」
ミカが話を確認していると、リツが言った。
「子供の頃によく遊んだけど、大人になってから疎遠になっちゃった、親戚のゲーム好きな太ったおじさんが、大人になってみると、実は大人じゃなかったのでは? と悟る感じですかね……?」
「あー、あん時リッちゃんもレイさんもいなかったからね。でも、今はやめて。話が一向に進まないから。パイセンの言語野のセーブ、また上書きされちゃうから。あと親戚のおじさんが泣いちゃうから。余計出てこれなくなっちゃうから。二つの意味でやめて」
「つまり、人間の本質はいくつになっても変わらないってことでさ。ご老人だってゲーム好きな人は好きなわけ。それこそほら、今では3Dとか主流じゃん? 視点を右スティックでぐるぐる変えるとか当たり前のように私たちできるけど、ご老人はなかなかそれもできなかったりするの。けど、好きで、楽しくて、上手く視点変更もできないけど、それでも自分なりの方法見つけてさ、やってる人もいるんだよ」
「へー。介護ホームでも行ってきたんですか、パイセン」
「実家という介護ホームにな」
「神の闇をチラつかせんのやめろ」
「だから、初心者向けとか難度設定って、そういう人たちの受け皿としてもやっぱり需要あるんだなぁって思って。もちろん私だって根本のところでは今も難度設定は蛇足で、クリエイターがこれぞと思うバランスでプレイすべきという矜持はあるよ? でも、意固地にならなくてもいいじゃんって、ちょっと寛容になった話。されどゲームだけど、そうはいうても結局は、所詮ゲームだから。楽しみたいけど、反応が追いつかないとか、自分にはできないって、そういう能力的な部分で楽しめないのは、なんだか寂しいじゃん」
「はぇー。いや、なんか信じられんほど良い話的なんですけど……それが行間とどう関係が?」
「なろうも同じな気がしたの。本当にさ、小説好きで小さい頃から文学嗜んでますーなんて人は、新しいの読みたくなったら、そもそもなろうなんて来ないで本屋行くんだよ」
リツは吹き出した。
「……ちょ! それは言っちゃダメなやつでは!」
そうか? これしきのことまるで問題にはならんと鼻を鳴らして、中村はカットを入れない。
「でも言わなきゃ。活字に慣れてる人なんかは普通にそうするじゃん。となれば、ここは、すなわち文学初心者の集いなんだ。中には例えば難読症の子もいるかもしれない。それがどんな風に見えているか、私には想像することもできない世界だけど、その世界では、行間が空いてたほうが読みやすかったりするのかも」
「…………」
マギはもう黙って、ミカの言葉に耳を傾けている。
「だから私たちも、意固地やめてさ、行間空けてみてもいいかなって。めっちゃメタいけど」
「……うん。いいんじゃないですか」
マギは言った。
素直に心を打たれた気がした。
「なんかパイセンらしい、理由も」
「私からすると変な感じなんだけどねーーーーっ! なんかほら、ツッコミにしてもさ、テンポが悪くて間延びしたみたいになっちゃわないかな? とか」
「そもそも私たちとはぜんぜん違うところで、笑ってくれてるかもしれませんしね」
「そうそう。でも、やっぱなー。私は逆に空白恐怖症かもしんなくて」
「そうなんですか?」
「埋めたい。埋まってるほうが落ち着く……し、なんかこう。セリフがキャラクターだと思ってる節もあるし、そうするとなんかこう、距離が離れてると、心も離れてるような……気がして、なんか寂しいよー」
「慣れですよ、慣れ。早く慣れてください」
「くっついちゃえ」
「やめろ! 暑苦しい!」
「でも、ほら! 見て! やっぱこうして近づいたほうがテンポを感じない? あと二人の距離も近い気がする!」
「もう最初に百合展開拒否ったのパイセンなんだから! 離れてくださいよ!」
「いいじゃん。ずっとこの距離だったんだしー。待てよ。前人未到、行間でちゅーとか夜伽を表現できるのでは!」
「行間で遊ぶなや! もう」
一方、やはりn+1のリツはなんだかもはやエロいまである二人に余計、距離感を覚えて、レイに泣きつくのだった。
「なんか最近、二人の距離が加速度的に……私らは所詮こう舞台装置っていうか」
「あらあら。私なんていざという時以外の取り立てた出番がないわ」
「二人と私らの距離はこのくらいでちょうど良いですよ。世界作っちゃってまー」
「作ってねーから!」
「でもなー。コメディって勢いも大切じゃん? 行間空けるとー、間が。どうなんだー? 視聴者のロリコン共、ちょっと感想聞かせてくれよ。しばらく行間で遊んでみるから」
「遊ぶなっつの」
微笑ましい乳繰り合いの中、カットが入った。
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