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第四十三回『綺麗事を願いつつ、綺麗事を侮蔑する厄介な人たち』

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「ぶんばっばーぶんばっばー。ぽこぽこちん、ぽこぽこちん、しゅっしゅー。ひらけ! ぽっぽんち!」
「お、ミカパイセンが珍しくご機嫌だ」
「ぜんぜん関係のない、中身のない話していい?」
「むしろ今まで中身があったことがあったと?」
「ふふん、むしろこうした乙女の花園的な裏話こそお待ちかねの本編だろう」
「四十数回目にしていまさら?」
 ミカは転がる勢いでマギに半分乗り上げて、顎クイして言った。
「舌出せよ、マギ。ノリ次第で舐めてやろう」
「……いきなり何言ってんですかもう」
「実はマギには言ってなかったけど、カメラの向こうで全裸待機してたんだよみんな。握りしめて。あるいは指セットして。百合は見るだけなら全人類共通の華だからね。そこんとこが薔薇とは違う……一回から待ってた人は風邪ひいて寝込んで、回復しての参加だから」
「何その儀式。魔法使いになれそう」
「もう出ちゃってるやつもいるんじゃないかな」
「すげぇ想像力の持ち主。その集中力を別に活かしたら、何かのプロになれてただろうに、全部棒に振って、そこにいる。逆にすげぇ鉄の意思を感じる」
「せっかくだからマイナスカウントダウンしてやろう。出てから数えるカウントダウン、マイナス1、マイナス2……」
「何のために」
「ティッシュでマイナス5拭くのを焦らせてる。マイナス6、マイナス十までに拭き取らないとマイナス7お前のキンタマが爆発します。女性の場合、マイナス8、尿道が塞がり、もう二度とおしっこできないねぇ……マイナス9……」
 日本のどこかで田中のキンタマが爆発した。
「視聴者たちが何をし……ナニかはしたわけだけど、ひどい。てか私らの視聴者にいるかなー、そんな普遍的な感性の変態」
「てわけで、好きなタイプについて、今日は話そうかな」
 その日はマギんちにお泊まりしていた。
 なんか最近わりと距離が近い。
「……え、マジでそのノリなんですか?」
「そうだよ。年の最後に女らしくエロいこと話して視聴者びんびんにしてしめてやろうぜ」
「パイセンにとっての女のイメージよ……」
「私は普通に男より女のがエロいと思っている。男は所詮解き放てればいいじゃん。女はそこへ至るまでの経緯、産まれてからそれまでの物語が大切で、こだわりの質がもう違う」
「気が早すぎません? いや逆に気が長いのか……? はぁ、まぁお泊まり会にはありがちですし、いいですけど……」
 まんざらでもないマギだった。
「じゃあ……パイセンから、どうぞ」
「え? 私?」
「そりゃそうだろ……言い出しっぺのなんとか」
「うん、わかった……じゃあ、言うよ……?」
「瞬きすんな。どうぞ」
「私はー……」
 ミカは満を持してカメラの前に告白した。
「ドラゴンとかゴーストタイプが好き」
「はいはい。ずざー。そんなこったろうと思ったよ。期待して損した。視聴者全員に二、三枚分のティッシュ返してやれよ?」
「ほう。期待、していた……のカナ?」
「……やめろバカ。おじさん構文で台無しじゃねえか」
「自動販売機になりたいお! マギちゃんの自動販売機は僕だお!」
「逆に突き抜けすぎて、落ち込んでるときとか見たら奇跡の確率で確変起きそうじゃない? あれ」
「もうなんかね。あそこまで言われたらもう、しょうがないなこの人はって」
「いや嘘です。ならないわ。元ネタ改めたら、あれはならないわ。内容が内容だし」
「もし全国の小岩井さんから名誉毀損で訴えられることがあっても、うーん、これは残当(残念ながら当然)で仕方ないと思えるレベル」
「で、ポケモンのタイプな。ドラゴンとゴースト。最近好きですねーポケモン。パイセンは確かにそんな感じだけども」
「うん。イメージとかの話じゃなくて、ちゃんと理由があってさ」
「うん?」
「ドラゴンとかゴーストって、自分自身もこうかばつぐんなんだよ。そこがわかる、って気がして好き」
「ほう。どう解釈してるんですか」
「あれは同族嫌悪なんだよ。私がオタクながら推し活とか転生とか昨今の軟弱者が嫌いなように、ドラゴンとかゴーストにもそういうのがあって、互いにこうかばつぐんなわけ」
「じゃあ、ゲンガーやカイリューからしたら、ミミッキュとかガブさんはなんかちげーなコイツ……なんかちげー。って嫌ってると。逆もまた然りで」
「そういう派閥があるに違いない。でも所詮よそから見たら同じ穴のむじなだし、内ゲバに過ぎなくて、批判は必ずブーメランになり、自分にも刺さるというわけ」
「ドラゴンがフェアリーに無効なのはおとぎ話って説がありますが、さながら尖ってるけど優しくされるとすぐ惚れる優しくされたことない人みたいなノリのが分かりやすいですよね。あく、かくとうなんかにも通ずる。その道一筋で生きてきた人が懐かれた犬に負ける感じ。洋画のレオンとか魔人ブウのノリ」
「ギザギザハートの持ち主は優しさに弱いからね。優しくされたらイチコロだからね。マギの好きなタイプは? まぁどうせフェアリーだろ。軟弱者ほどフェアリーとか悪とかを好む」
「偏見極まってるけど事実その通りでなにも言えねえ」
「あ、これさ性格診断できそうじゃね」
「あぁ、確かに……え、でもそんな素直にいくかなぁ?」
「ほのおは熱血で水だったら冷静……考えてみたら、んなこたないわな。上級者ほど勝てればええねん思考だろうし。我らエンジョイとは違って」
「それも偏見かもしれませんよ。ほら、いつだったか、本当に好きなポケモンだけでなんか高位のランク行ったとかで、パーティ晒したり、指南したりやってた気がする」
「あー。もう本当の本当にバトル含めて全部好きな子なんだろうね。恐怖のメガガルーラ二体に泣かされた子は元気でやってんのかな」
「イケメンになってたりして」
「腐女子はすぐこれだ。人間、顔じゃないよ。私が言うんだから説得力はんぱないだろ」
「お、言いますね。……でもパイセンが言うなら、まぁ、確かにその通りで何も言えねえ」
「でもちょっと面白いかも→好きなタイプ別性格診断」
「しかもすでに探せばありそうですよ♤」
「あれ、アニメだと実際どんな表現だったっけ。チードル普通に話して終わりな感じだっけな」
「あーどうだったかなー」
「新アニメ好きじゃなくて、あんま知らないんだ。申し訳ないけど、大塚さんは普通にビヨンド一択だろ。ビヨンドにあの人以上の人いないだろって思ってたり。原作読むとき普通に大塚さんの声ですでに再生されるわ、私。アニメに出てこないからしゃーないけど」
「ミザイでしたっけね。確かにミザイは若すぎる気がしないでもないけど、尺的にビヨンド出てこないしね」
「大塚さんってこうXとか見てると、本当にやんちゃな漢って感じがして、ちょっと可愛いよね」
「わかる笑。ラーメン大好きだし、絡み方が普通に男子のそれだ」
「マギは好きだろ。新アニメ版。思い出せ」
「また偏見ですけど、その通りだから何も言えねえ」
「HUNTER×HUNTERのアニメってさりげにVODで見れなかったりすんだよな。権利とかなのか、知らんけど」
「冨樫は正直アニメ化には恵まれないほうだったりしますよね。幽白も洞窟の仙水とか、有名な『役不足だっつってんだよ』のシーンとかひどい」
「冨樫が画力高すぎるんだよ。あれをアニメに起こすのってTRIGGERとかじゃないと難しそうなの、素人が見てもわかるもん。その代わり魔界も本当に補足って感じで追加されてるアニオリとか良かったりするんだけどね。幽助と黄泉の会合に役者が集うとことか。旧版ハンターは前半のアニオリが長かったり、代わりにヨークシンは最高の出来なんだけどね」
「こう、どれも一長一短ある感じですよね。長期放送の弊害がやっぱり色濃い時代でもあるっぽい。実写はうまくいくといいですね。幽助の学ランが綺麗すぎて、ん? ってなるから観てないけど。動き自体は評判いいらしい」
「ワンピのリメイクも、おお、ついに来たかってシャンクスみたいな感じ」
「しかもWITですよ。これは勝ったな」
「声優さんも変わるのかな。ルフィって言ったら今でこそもうクリリンだけど、一番最初は正直ちょっと違和感あったんだよね」
「そうなんですか?」
「本編の一番最初ね。ギャンザックじゃなくて、今の。でももうゴムゴムの~ったら、クリリンの声だけど」
「ギャンザックとか笑。なかなかワンピもWIT版と東映版と一番最初ので、ややこしくなりますね」
「よりどりみどりで面白い。そりゃスマートに一本で済ますのが一番だけど、こういう流れから色んなパターンが生まれるのも良いよ。それでこれは違う、あれは良いってファン同士が言い合うのも、実は楽しいんだよ」
「言ってるときは気づかないんですよね、そういうの」
「わたしのすきなひとがしあわせであるといい。
 わたしをすきなひとがしあわせであるといい。
 わたしのきらいなひとがしあわせであるといい。
 わたしをきらいなひとがしあわせであるといい。
 きれいごとのはんぶんくらいが、そっくりそのまましんじつであるといい。——笹井宏之」
「お、良い詩」
「嘘だよ! こんなこと私はこれっぽっちも思ってないよ! 誠実じゃない人は一生許されないと思ってるよ! せいぜい苦しんで身の丈にあったクソみたいな人生をルサンチマンの一人となって生き永らえ、あの日の選択を後悔しつつ、大したことのなかった人生を振り返って大往生しろや! ガッハッハ! クソして寝ろ!」
「恨み節なのか、かろうじて思いやりがあると言えなくもないのか……よくわかんねー言い分」
「綺麗事のような明日を望みつつ、今日綺麗事をやってる人間を侮蔑する、よくわかんねーのが人間だよ」
「よくわかんねーようでいてわかるような、やっぱりわからないパイセンの名言きましたね。では、良いお年を」
 マギはカメラのスイッチを切った。





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