上 下
92 / 107
第二章:護衛依頼

第85話:状況説明

しおりを挟む
 勢いよく開け放った扉の先には多くの冒険者が集められていた。
 そして、その先頭で一段高い場所からこちらを見渡しているのはギルマスだ。

「みんな! よく聞いてくれ! 以前から確認されていたAランク魔獣がついに西の森までやってきてしまった! 準備を整えてから討伐に向かう予定だった者もいるだろうが、事態は差し迫ったものになってきている! 故に、今回は緊急依頼として冒険者に召集を掛ける事にする!」

 冒険者になった時に説明されたな。
 確か、冒険者ギルドに登録している冒険者を強制的に召集して危機を防ぐというものだ。
 まさか、冒険者になった翌日に緊急依頼が発令されるとは思わなかったぞ。

「相手はAランク魔獣のラコスタだ! 直接対応するのはDランク以上の冒険者のみで、Eランク以下の冒険者は周囲に散っている魔獣の討伐、及びシュティナーザの防衛に当たってもらう!」
「報酬はどうなってるんだー?」

 どこからともなくそんな声が聞こえてきた。

「もちろん、参加しただけでランクに応じて報酬を渡す! Dランク以上は特に報酬が高いから、絶対に生き残れよ!」
「さっすがギルマス! 太っ腹だな!」

 がははと笑い声まで聞こえてくる状況に、俺は少しだけ驚いてしまった。

「Dランク以上には50万リーグ! Eランク以下には20万リーグ! そして、魔獣の討伐証明を持ってくればもちろん、その分の報酬も上乗せしてやる! さらにAランク魔獣を討伐した野郎にはさらに50万リーグをギルドから支払ってやるぞ!」
「「「「おおおおおおおおぉぉっ!」」」」

 冒険者たちの大声でギルド支部が震えている。
 さすがはギルマスと言うべきか、冒険者を鼓舞する事に慣れているみたいだな。
 しかし……くそっ、ここにはいなさそうだな。

「三人とも、無事なんだろうなぁ」

 ギルマスが状況を説明している間にも、外から低ランクと思われる若い冒険者が戻ってきている。
 その中にも三人の姿はなく、まだ外にいる可能性が高い。

「それじゃあてめぇら――稼ぎやがれええええええええぇぇっ!」
「「「「おおおおおおおおぉぉっ!」」」」

 最後の掛け声を終えると、冒険者たちは次々にギルド支部を後にしていく。
 その中にはエリカにぶん投げられたザックの姿もあり、俺と目が合うと小さく舌打ちをしていた。
 ……俺は何もしていないんだがなぁ。

「ギルマス!」
「おぉっ! レインズじゃねえか! お前も冒険者になったんだろ? 正直助かるぜ」
「だが、俺はFランクだ。Aランク魔獣の討伐には行けないんだよ」
「ん? Eランクじゃないのか?」
「そこは断った。いや、それよりもだ。俺と一緒に冒険者登録をした二人とレミーを見なかったか?」

 俺は話を切るや否やすぐに質問を口にしたが、ギルマスは首を横に振った。

「お前の連れを見た事がねぇから分からんが、レミーは見てないな」
「そうか。……西の森に行ってなければいいんだが……」
「何か依頼を受けていたのか? なら、ちょっと待ってろ。こっちで調べられるかも――」
「師匠!」

 そこへ聞こえてきた声へ、俺は弾かれたように振り向いた。

「ギース! お前、大丈夫だったのか?」
「は、はい! 俺は大丈夫です! でも、エリカさんとレミーさんが魔獣の足止めを!」
「何だと!? って事は、レミーともう一人の連れは西の森にいるのか!」

 くそっ! 嫌な予感ほど当たるもんだな!

「あ、相手は鳥型の魔獣で、レミーさんは相性が悪いって言ってたんだ!」
「だろうな。レミーのスキルも、エリカのスキルも空を飛ぶ魔獣には相性が悪すぎる」
「下りて来なければ当てられないからな」

 ギルマスも同意を示してきた。そして、俺が空の魔獣に対する攻撃手段を持っている事も彼は知っている。

「……仕方がないか」
「行ってくれるか、レインズ?」
「他の冒険者が文句を言って来たら、ギルマスが対応してくれるんだろう?」
「任せろ! っていうか、今のシュティナーザでラコスタを討伐できそうなのがレミーとお前さんしかいないからな。問題にもならんだろう」
「それ、召集しておいて言っていいセリフなのか?」

 命の危険を伴う緊急依頼だ。勝算もなしに召集したと知られたら問題になりそうな気もするんだが。

「勝算ならあったさ。レインズ、お前だよ」
「人任せかよ」
「なーに、最悪の場合は俺が出る予定だったが、最初は現役の冒険者に任せるのが俺の流儀なんだよ。お前も似たような事を俺に言っただろう?」

 本職が依頼に挑むべき、って言ったやつか。全く、ギルマスは変な事まで覚えているんだな。

「……そうだな。今の俺は冒険者であり、自分の言葉に責任を持つためにも行くしかないか」
「師匠、俺も案内くらいならできる! だから一緒に――」
「ダメだ。ギースはギルマスと一緒にシュティナーザ防衛に回ってくれ」
「でも!」
「死にたいのか?」
「ぅっ! ……わ、分かりました」

 肩を落として俯くギース。俺はやや乱暴にその頭を撫でると歩き出す。

「安心して待ってろ。俺が二人を助けて戻ってくるから」
「……分かった。でも、次はもっと強くなって一緒に行くからな!」
「期待しないで待ってるよ」

 軽く手を上げて返事をすると、俺は全速力で駆け出しシュティナーザの門を抜けて西へと進んでいった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

目つきが悪いと仲間に捨てられてから、魔眼で全てを射貫くまで。

桐山じゃろ
ファンタジー
高校二年生の横伏藤太はある日突然、あまり接点のないクラスメイトと一緒に元いた世界からファンタジーな世界へ召喚された。初めのうちは同じ災難にあった者同士仲良くしていたが、横伏だけが強くならない。召喚した連中から「勇者の再来」と言われている不東に「目つきが怖い上に弱すぎる」という理由で、森で魔物にやられた後、そのまま捨てられた。……こんなところで死んでたまるか! 奮起と同時に意味不明理解不能だったスキル[魔眼]が覚醒し無双モードへ突入。その後は別の国で召喚されていた同じ学校の女の子たちに囲まれて一緒に暮らすことに。一方、捨てた連中はなんだか勝手に酷い目に遭っているようです。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを掲載しています。

外れスキル【建築】持ちの俺は実家を追放される。辺境で家作りをしていただけなのに、魔王城よりもすごい最強の帝国が出来上がってた

つくも
ファンタジー
「闘えもしない外れスキルを授かった貴様など必要ない! 出て行け! グラン!」 剣聖の家系に生まれた少年グランは15歳のスキル継承の儀の際に非戦闘用の外れスキルである【建築】(ビルド)を授かった。 対する義弟は当たりスキルである『剣神』を授かる。 グランは実父に用無しの無能として実家を追放される事になる。辺境に追いやられ、グランはそこで【建築】スキルを利用し、家作りを始める。家作りに没頭するグランは【建築】スキルが外れスキルなどではなく、とんでもない可能性を秘めている事に気づく。 【建築】スキルでどんどん辺境を開拓するグラン。 気づいたら魔王城よりもすごい、世界最強の帝国ができあがる。 そして、グランは家にいたまま、魔王を倒した英雄として、世界中にその名を轟かせる事となる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真
ファンタジー
「普通にレベル上げした方が早いじゃない。なんの意味があるのよ」 E級冒険者ヒスイのスキルは、パーティ間でレベルを移動させる『レベル分配』だ。 毎日必死に最弱モンスター【スライム】を倒し続け、自分のレベルをパーティメンバーに分け与えていた。 そんなある日、ヒスイはパーティメンバーに「役立たず」「足でまとい」と罵られ、パーティを追放されてしまう。 しかし、その晩にスキルが覚醒。新たに手に入れたそのスキルは、『元パーティメンバーのレベルが一生上がらなくなる』かわりに『ヒスイは息をするだけでレベルが上がり続ける』というものだった。 そのレベルを新しいパーティメンバーに分け与え、最強のパーティを作ることにしたヒスイ。 『剣聖』や『白夜』と呼ばれるS級冒険者と共に、ヒスイの名は世界中に轟いていく――。 「戯言を。貴様らがいくら成長したところで、私に! ましてや! 魔王様に届くはずがない! 生まれながらの劣等種! それが貴様ら人間だ!」 「――本当にそうか、確かめてやるよ。この俺出来たてホヤホヤの成長をもってな」 これは、『弱き者』が『強き者』になる――ついでに、可愛い女の子と旅をする物語。 ※この作品は『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも掲載しております。

最強聖女は追放されたので冒険者になります。なおパーティーメンバーは全員同じような境遇の各国の元最強聖女となった模様。

山外大河
ファンタジー
 とある王国の」最強の聖女、アンナ・ベルナールは国王の私利私欲の為の邪魔となり王国を追放されてしまう。  そして異国の地で冒険者になったアンナだが、偶然知り合った三人の同年代の少女達は全員同じような境遇で国を追放された各国の最強の元聖女達だった。  意気投合した四人はパーティーを結成。  最強の元聖女四人による冒険者生活が今始まる。  ……ついでに彼女たちを追放した各国は、全部滅びるようです。

処理中です...