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第二章:護衛依頼
第58話:紛れていたのは
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音は馬車の後ろから聞こえてきた。
そういえば、おかしな話である。
荷物のほとんどをヒロさんの魔法袋に入れているのに、どうしてあそこにある樽だけは入れていないのだろうか。
「おや? あの樽は……なんでしょうか?」
「ヒロさんも知らないんですか? ……怪しいですね」
危険が迫っている感覚はない。
という事で、エリカにはそのまま馬車を走らせてもらいつつ、俺はブルーレイズを抜いてゆっくりと樽の方へ近づいていく。
「……斬るぞ?」
「す、すみません――師匠!!」
……はぁ。こいつはいったい何をやっているんだ。
「こんなところで何をしているんだ、ギース?」
「えっと、それは……あははー」
「笑いごとじゃないだろうが!」
「えっ! なんでギース君がいるのよ!」
「おやおや、これは困りましたねぇ」
ギースの存在に気づいたバージルとヒロさんが驚きの声をあげる。
それはそうだろう。護衛の数が原因でリムルの同行を断ったのだから、ギースが増えてしまっては元も子もない。
「……本当にすみませんでした! その、俺もシュティナーザに行ってみたかったし、師匠についていきたかったんです!」
「とは言ってもなぁ……一度戻ってギースを降ろしますか?」
「そ、そんなあっ!?」
何をこの世の終わりみたいな顔をしているんだよ、お前は。
「まあ、勝手についていったのがバレたらギレインさんやメリースさんに怒られるだろうし、リムルからも恨まれるだろうねぇ」
「うぅっ!?」
「バレるのはこの際仕方ないとしても、時間がもったいないですねぇ」
「結構走らせちゃってますよ?」
ヒロさんの言葉にエリカが答えている。
確かに、ウラナワ村を出発してから三時間以上は走らせているし、今から戻ったとしたら今日はもう出発できなくなるかもしれない。
一日を無駄にすることになるのは気が引けてしまうな。
「……ギース」
「は、はい!」
「お前、自分の事は自分で守れるか?」
ギースだって自警団の一人だ。
まだ子供だし半人前かもしれないが、いずれは一人前になる時がやってくる。
本来であれば親である二人が判断する事だが、ここまで来てしまったらしょうがない。
「……守れます」
「俺たちが手助けできない場面もあるかもしれないが、いいのか?」
「構いません!」
「そうか……エリカ」
「は、はい!」
「このまま進んでくれ」
「えっ! ……いいの、レインズ?」
「あぁ。ただし、立ち寄る人里でウラナワ村まで向かう行商人を見つけて、ギレインたちに伝言を頼まないといけないな」
このままだと、ギースが行方不明扱いになりかねない。
デン辺りは気づいていそうだが、確信が無いからな。
「ただし! 今度同じ事をしたらその場に置いていくからな」
「はひっ!」
「……いいな? これ以上は迷惑を掛けるなよ?」
「……は、はい」
大きく肩を落としてしまったギースだが、自業自得なので仕方がない。
ギースはしばらく放っておくとして、俺はヒロさんに行程の確認を行う事にした。
「最初に向かう人里だと、どこが近いですかね?」
「こことここ辺りでしょうか」
地図を広げながら当たりを付けつつ、少しだけ行程を変更していく。
本来ならば真っすぐにシュティナーザまで向かうつもりだったが、それができなくなったので仕方がない。
「あの、本当にすみませんでした、師匠」
「謝罪は俺じゃなくてヒロさんにな」
「は、はい。すみませんでした、ヒロさん」
「起きてしまった事は仕方がありませんからね。今は、ギース君を含めた陣容で、なるべく安全な行程を組みましょう」
そう口にしながら、ヒロさんは笑みを浮かべてギースの頭を撫でた。
この辺りは大人の対応だな。俺も35歳になったものの、余裕を持った対応というのはなかなかできない。
「……見習わないといけないな」
「ん? 何か言いましたか、レインズ君?」
「いいえ、なんでもないですよ」
そして、新たな行程を組みなおした俺たちはエリカにも情報を共有して馬車を走らせる。
そんな中で話のタネになるだろうかと思い、俺は目的地であるシュティナーザについての質問をヒロさんに投げ掛けてみた。
「大都市と言っていましたが、シュティナーザというのはどういった都市なんですか?」
「どういった、とは?」
「そうですねぇ……何が発展しているのか、特産はあるのか、ウラナワ村みたいに魔獣が生まれる森があるのか、とかですかね?」
大都市というくらいだから辺境とは違って魔獣が生まれる森と隣り合わせ、なんて事はないと思うが、多少の魔獣はいるだろう。
それに、どうせ行くならその土地の特産を見てみたい。
特産によって発展するものもあるだろうし、触れてみたいものだな。
「そうですねぇ……食事はどの都市でも美味しいところはありますが、産業、特に鍛冶技術は発展していますよ」
「鍛冶技術ですか!」
「えぇ。ですから、バージル君の刺激にもなるでしょうね」
ヒロさんがバージルの同行を許したのには、鍛冶技術の発展も関係しているのかもしれないな。
……ん? それってもしかして。
「ヒロさん。最初からバージルを連れて行くつもりでした?」
「えぇ」
「それじゃあ、リムルが同行したいって言った時は?」
「どのような理由があれ、断るつもりでしたよ」
……リムル、最初から無理だったっぽいぞ。
そういえば、おかしな話である。
荷物のほとんどをヒロさんの魔法袋に入れているのに、どうしてあそこにある樽だけは入れていないのだろうか。
「おや? あの樽は……なんでしょうか?」
「ヒロさんも知らないんですか? ……怪しいですね」
危険が迫っている感覚はない。
という事で、エリカにはそのまま馬車を走らせてもらいつつ、俺はブルーレイズを抜いてゆっくりと樽の方へ近づいていく。
「……斬るぞ?」
「す、すみません――師匠!!」
……はぁ。こいつはいったい何をやっているんだ。
「こんなところで何をしているんだ、ギース?」
「えっと、それは……あははー」
「笑いごとじゃないだろうが!」
「えっ! なんでギース君がいるのよ!」
「おやおや、これは困りましたねぇ」
ギースの存在に気づいたバージルとヒロさんが驚きの声をあげる。
それはそうだろう。護衛の数が原因でリムルの同行を断ったのだから、ギースが増えてしまっては元も子もない。
「……本当にすみませんでした! その、俺もシュティナーザに行ってみたかったし、師匠についていきたかったんです!」
「とは言ってもなぁ……一度戻ってギースを降ろしますか?」
「そ、そんなあっ!?」
何をこの世の終わりみたいな顔をしているんだよ、お前は。
「まあ、勝手についていったのがバレたらギレインさんやメリースさんに怒られるだろうし、リムルからも恨まれるだろうねぇ」
「うぅっ!?」
「バレるのはこの際仕方ないとしても、時間がもったいないですねぇ」
「結構走らせちゃってますよ?」
ヒロさんの言葉にエリカが答えている。
確かに、ウラナワ村を出発してから三時間以上は走らせているし、今から戻ったとしたら今日はもう出発できなくなるかもしれない。
一日を無駄にすることになるのは気が引けてしまうな。
「……ギース」
「は、はい!」
「お前、自分の事は自分で守れるか?」
ギースだって自警団の一人だ。
まだ子供だし半人前かもしれないが、いずれは一人前になる時がやってくる。
本来であれば親である二人が判断する事だが、ここまで来てしまったらしょうがない。
「……守れます」
「俺たちが手助けできない場面もあるかもしれないが、いいのか?」
「構いません!」
「そうか……エリカ」
「は、はい!」
「このまま進んでくれ」
「えっ! ……いいの、レインズ?」
「あぁ。ただし、立ち寄る人里でウラナワ村まで向かう行商人を見つけて、ギレインたちに伝言を頼まないといけないな」
このままだと、ギースが行方不明扱いになりかねない。
デン辺りは気づいていそうだが、確信が無いからな。
「ただし! 今度同じ事をしたらその場に置いていくからな」
「はひっ!」
「……いいな? これ以上は迷惑を掛けるなよ?」
「……は、はい」
大きく肩を落としてしまったギースだが、自業自得なので仕方がない。
ギースはしばらく放っておくとして、俺はヒロさんに行程の確認を行う事にした。
「最初に向かう人里だと、どこが近いですかね?」
「こことここ辺りでしょうか」
地図を広げながら当たりを付けつつ、少しだけ行程を変更していく。
本来ならば真っすぐにシュティナーザまで向かうつもりだったが、それができなくなったので仕方がない。
「あの、本当にすみませんでした、師匠」
「謝罪は俺じゃなくてヒロさんにな」
「は、はい。すみませんでした、ヒロさん」
「起きてしまった事は仕方がありませんからね。今は、ギース君を含めた陣容で、なるべく安全な行程を組みましょう」
そう口にしながら、ヒロさんは笑みを浮かべてギースの頭を撫でた。
この辺りは大人の対応だな。俺も35歳になったものの、余裕を持った対応というのはなかなかできない。
「……見習わないといけないな」
「ん? 何か言いましたか、レインズ君?」
「いいえ、なんでもないですよ」
そして、新たな行程を組みなおした俺たちはエリカにも情報を共有して馬車を走らせる。
そんな中で話のタネになるだろうかと思い、俺は目的地であるシュティナーザについての質問をヒロさんに投げ掛けてみた。
「大都市と言っていましたが、シュティナーザというのはどういった都市なんですか?」
「どういった、とは?」
「そうですねぇ……何が発展しているのか、特産はあるのか、ウラナワ村みたいに魔獣が生まれる森があるのか、とかですかね?」
大都市というくらいだから辺境とは違って魔獣が生まれる森と隣り合わせ、なんて事はないと思うが、多少の魔獣はいるだろう。
それに、どうせ行くならその土地の特産を見てみたい。
特産によって発展するものもあるだろうし、触れてみたいものだな。
「そうですねぇ……食事はどの都市でも美味しいところはありますが、産業、特に鍛冶技術は発展していますよ」
「鍛冶技術ですか!」
「えぇ。ですから、バージル君の刺激にもなるでしょうね」
ヒロさんがバージルの同行を許したのには、鍛冶技術の発展も関係しているのかもしれないな。
……ん? それってもしかして。
「ヒロさん。最初からバージルを連れて行くつもりでした?」
「えぇ」
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