上 下
34 / 107
第一章:不当解雇

第32話:VS Aランク魔獣

しおりを挟む
 反射的に振り返ると、そこには見たことのない光景が広がっていた。

「……デン。お前、この光景を、見た事があるか?」
「……我もこの世に生を受けて長いが、初めて見る光景だな」

 デンでも見た事がないって事は、相当珍しい場面に俺たちは出くわしているらしい。
 おそらく、魔獣の生態について研究している研究者なら目を輝かせるだろう光景だろうな。

「まさか、魔獣が生まれ落ちる現場に居合わせるとはな!」

 目の前の空間に亀裂が走り、まるでそこから這い出てくるかのようにして腕が現れると、その姿が徐々に露わになっていく。
 肩が、足が、体が、頭が出てくると、その魔獣はこちらに真っ赤な瞳を向けて声をあげた。

『グルゴアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!!』

 オーガは角が一本、額から生えているだけだった。
 しかし、目の前に生まれ落ちた魔獣には角が二本、こめかみのあたりから生えている。

「こいつは、オーガファイター?」
「オーガの上位種といったところかのう」
「ってことは、ランクはAが妥当か」
「我がやろうか?」
「いいや、俺がやるよ。サクラハナ国の魔獣の情報は貴重だからな」

 Aランクともなれば、今の自警団では大勢で掛かっても犠牲なしでは倒せないだろう。もしかすると、全滅だってあり得るかもしれない。
 だからこそ、俺がやらなければならない。
 やり過ぎは魔獣を進化させるだけなので、自警団にはCランクやBランクの魔獣は倒してもらわないといけないけどな。

「さっきは突然過ぎて引いてもらったが、正解だったな」
「お主、ずいぶんと余裕だのう」
「そういうデンだって、自分がやろうか? なんて言ってたじゃないか」
「ふん! こ奴がAランクだったとしても、我には問題にならんからな!」

 そして、どうして俺たちがこうも普段と変わらないのかというと、Aランクだからと恐怖するわけがないからだ。

『グルゴアアアアッ!』
「それじゃあ、いってくるよ」
「油断だけはするんじゃないぞ」

 飛び込んできたオーガファイターを俺が右に、デンが左に回避する。
 振り下ろされた拳が地面を粉砕し、大きく陥没させた。

「腕力も速度もオーガ以上か。さすが上位種だな」
『ゴアアアアッ!』
「硬さはどうだっ!」

 素早く振り返ったオーガファイターの拳めがけて剣を振り抜くと、まるで金属同士が打ち合ったかのような音が響き渡り、腕に痺れが残る。
 その拳が一撃だけではなく、左右の連打で襲い掛かってくるのだから威圧感は相当なものだ。
 ギレインが相手をするなら、オークを単独で無傷で倒せるくらいになってくれなければならないな。それも、同程度の実力者が三人以上は必要だろう。
 一人は攻撃を防ぐか、注意を引きつける役目を担ってもらう。全てを回避して攻撃を加えるなら、相当な体力が必要だろう。

『グルアアッ!』

 体力でいえばギースがいるが、まだまだ実力が足りなさすぎる。
 伸びしろに期待、といった感じだな。

『グガアアッ!』

 自警団の実力者がどの程度なのか、そこの確認も必要になるか。
 メリースさんやカリーさんの実力もわからないし、どうやって魔獣の進化についていかせるか……ん?

「違ったか。俺が指導するのはギースだけだし、他の自警団の人たちとは顔を合わせていない人の方が多いしな」
『グ、グルル、グルゴアアアアアアアアアアアアアアアアァァッ!』
「ん? あぁ、すまない。別に無視していたわけじゃないんだ。お前の実力を把握し、どうやって戦えば他の人でも倒せるかを考えていたんだ」

 俺の態度が気に障ったらしい。
 真っ赤だった瞳がさらに深い赤に染まり、連打の速度も上がっていく。

『グルアアアアアアアアッ!』
「これは――ブレスか!」

 人型魔獣がブレスを放つだなんて、聞いた事がないぞ!
 大きく口を開いた直後、深紅の炎が俺の眼前に広がった。

「レインズ!」
「……おーおー、さすがに今のはヤバかったな。デンもそこまで驚くなよ」

 くそ、前髪が少しだけ焼けてしまったか。
 だがまあ、目の前でブレスを放たれて火傷一つしていないなら、儲けものだな。
 それに、ブレスはおそらくオーガファイターの奥の手だろう。
 こういう奥の手を使った後は、どうしても動きが鈍るものだ。

『……グ、グルルゥゥ』
「もう少し観察したかったが、そろそろ終わらせるぞ!」

 奥の手まで出させたのだから、これ以上の収穫はなさそうだしな。
 俺が蹴りつけた地面が陥没する。
 その勢いそのままに真っすぐ駆け出した俺は、オーガファイターの両碗から放たれる連打を全て回避。一瞬にして懐に潜り込むと、渾身の力で剣を斬り上げた。

『グガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!?』

 股から皮を、肉を、骨を、臓腑を切り裂きながら、最後に刀身が一就いた先は脳天だ。
 肉体を左右に分かたれたオーガファイターからはどす黒い血が溢れ出し、自らの血だまりにその身を横たえたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

みんなからバカにされたユニークスキル『宝箱作製』 ~極めたらとんでもない事になりました~

黒色の猫
ファンタジー
 両親に先立たれた、ノーリは、冒険者になった。 冒険者ギルドで、スキルの中でも特に珍しいユニークスキル持ちでがあることが判明された。 最初は、ユニークスキル『宝箱作製』に期待していた周りの人たちも、使い方のわからない、その能力をみて次第に、ノーリを空箱とバカにするようになっていた。 それでも、ノーリは諦めず冒険者を続けるのだった… そんなノーリにひょんな事から宝箱作製の真の能力が判明して、ノーリの冒険者生活が変わっていくのだった。 小説家になろう様でも投稿しています。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

辺境伯家次男は転生チートライフを楽しみたい

ベルピー
ファンタジー
☆8月23日単行本販売☆ 気づいたら異世界に転生していたミツヤ。ファンタジーの世界は小説でよく読んでいたのでお手のもの。 チートを使って楽しみつくすミツヤあらためクリフ・ボールド。ざまぁあり、ハーレムありの王道異世界冒険記です。 第一章 テンプレの異世界転生 第二章 高等学校入学編 チート&ハーレムの準備はできた!? 第三章 高等学校編 さあチート&ハーレムのはじまりだ! 第四章 魔族襲来!?王国を守れ 第五章 勇者の称号とは~勇者は不幸の塊!? 第六章 聖国へ ~ 聖女をたすけよ ~ 第七章 帝国へ~ 史上最恐のダンジョンを攻略せよ~ 第八章 クリフ一家と領地改革!? 第九章 魔国へ〜魔族大決戦!? 第十章 自分探しと家族サービス

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

チートスキル【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得&スローライフ!?

桜井正宗
ファンタジー
「アウルム・キルクルスお前は勇者ではない、追放だ!!」  その後、第二勇者・セクンドスが召喚され、彼が魔王を倒した。俺はその日に聖女フルクと出会い、レベル0ながらも【レベル投げ】を習得した。レベル0だから投げても魔力(MP)が減らないし、無限なのだ。  影響するステータスは『運』。  聖女フルクさえいれば運が向上され、俺は幸運に恵まれ、スキルの威力も倍増した。  第二勇者が魔王を倒すとエンディングと共に『EXダンジョン』が出現する。その隙を狙い、フルクと共にダンジョンの所有権をゲット、独占する。ダンジョンのレアアイテムを入手しまくり売却、やがて莫大な富を手に入れ、最強にもなる。  すると、第二勇者がEXダンジョンを返せとやって来る。しかし、先に侵入した者が所有権を持つため譲渡は不可能。第二勇者を拒絶する。  より強くなった俺は元ギルドメンバーや世界の国中から戻ってこいとせがまれるが、もう遅い!!  真の仲間と共にダンジョン攻略スローライフを送る。 【簡単な流れ】 勇者がボコボコにされます→元勇者として活動→聖女と出会います→レベル投げを習得→EXダンジョンゲット→レア装備ゲットしまくり→元パーティざまぁ 【原題】 『お前は勇者ではないとギルドを追放され、第二勇者が魔王を倒しエンディングの最中レベル0の俺は出現したEXダンジョンを独占~【レベル投げ】でレアアイテム大量獲得~戻って来いと言われても、もう遅いんだが』

二人分働いてたのに、「聖女はもう時代遅れ。これからはヒーラーの時代」と言われてクビにされました。でも、ヒーラーは防御魔法を使えませんよ?

小平ニコ
ファンタジー
「ディーナ。お前には今日で、俺たちのパーティーを抜けてもらう。異論は受け付けない」  勇者ラジアスはそう言い、私をパーティーから追放した。……異論がないわけではなかったが、もうずっと前に僧侶と戦士がパーティーを離脱し、必死になって彼らの抜けた穴を埋めていた私としては、自分から頭を下げてまでパーティーに残りたいとは思わなかった。  ほとんど喧嘩別れのような形で勇者パーティーを脱退した私は、故郷には帰らず、戦闘もこなせる武闘派聖女としての力を活かし、賞金首狩りをして生活費を稼いでいた。  そんなある日のこと。  何気なく見た新聞の一面に、驚くべき記事が載っていた。 『勇者パーティー、またも敗走! 魔王軍四天王の前に、なすすべなし!』  どうやら、私がいなくなった後の勇者パーティーは、うまく機能していないらしい。最新の回復職である『ヒーラー』を仲間に加えるって言ってたから、心配ないと思ってたのに。  ……あれ、もしかして『ヒーラー』って、完全に回復に特化した職業で、聖女みたいに、防御の結界を張ることはできないのかしら?  私がその可能性に思い至った頃。  勇者ラジアスもまた、自分の判断が間違っていたことに気がついた。  そして勇者ラジアスは、再び私の前に姿を現したのだった……

弟のお前は無能だからと勇者な兄にパーティを追い出されました。実は俺のおかげで勇者だったんですけどね

カッパ
ファンタジー
兄は知らない、俺を無能だと馬鹿にしあざ笑う兄は真実を知らない。 本当の無能は兄であることを。実は俺の能力で勇者たりえたことを。 俺の能力は、自分を守ってくれる勇者を生み出すもの。 どれだけ無能であっても、俺が勇者に選んだ者は途端に有能な勇者になるのだ。 だがそれを知らない兄は俺をお荷物と追い出した。 ならば俺も兄は不要の存在となるので、勇者の任を解いてしまおう。 かくして勇者では無くなった兄は無能へと逆戻り。 当然のようにパーティは壊滅状態。 戻ってきてほしいだって?馬鹿を言うんじゃない。 俺を追放したことを後悔しても、もう遅いんだよ! === 【第16回ファンタジー小説大賞】にて一次選考通過の[奨励賞]いただきました

宮廷から追放された聖女の回復魔法は最強でした。後から戻って来いと言われても今更遅いです

ダイナイ
ファンタジー
「お前が聖女だな、お前はいらないからクビだ」 宮廷に派遣されていた聖女メアリーは、お金の無駄だお前の代わりはいくらでもいるから、と宮廷を追放されてしまった。 聖国から王国に派遣されていた聖女は、この先どうしようか迷ってしまう。とりあえず、冒険者が集まる都市に行って仕事をしようと考えた。 しかし聖女は自分の回復魔法が異常であることを知らなかった。 冒険者都市に行った聖女は、自分の回復魔法が周囲に知られて大変なことになってしまう。

処理中です...