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第一章:役立たずから英雄へ
7.ユーグリッシュ
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………………あぁ、体が、軽いな。
…………それに、気持ちがいい。
……僕は、死んだ、のか?
「起きてください、リッツ・アルスラーダ」
「――!」
名前を呼ばれた事で意識を取り戻した僕は、目を見開いて体を起こそうとする。
だが、僕は倒れていたわけではなく、立ったまま意識を失っていたようだ。
「……ここは、どこだ?」
目の前に存在していたはずの神木の姿はなく、さらに周囲の景色も王城の中庭ではなく、何もない真っ白な空間に変わっている。
何が起きているのか理解できなくなった僕へ、再び声が掛けられた。
「起きたようですね、リッツ・アルスラーダ」
声は後ろから聞こえてきた。
慌てて振り返ると、そこには初対面の少女が僕を真っすぐに見つめていた。
「……あの、君はいったい?」
「私の声、聞こえたのでしょう?」
「君の声? 僕の名前を呼んだ?」
「いいえ、違います。その前、私の声を聞いて、助けてくれたでしょう?」
その前だって? ……それは、僕が意識を失う前という事だろうか。
何が起きたのかを遡り考えていくと、少女が口にするタイミングがわかった気がする。
「……神木に魔力を注ぐ前、かな?」
僕の答えに少女は笑みを浮かべてコクンと一つ頷く。
そうなると、目の前の少女がそうなのだという事になるが、間違いないのかな。
「悩んでいるようですね」
「えっと……はい」
「うふふ。ですが、その悩みは無意味です。何故なら、私は間違いなく、あなたが助けてくれた神木ユーグリッシュなのですから」
ここまで来ると、あり得ないなんて思わなくなってきたかな。
そんな事もあるかと心の中で自分に落とし込み、改めて少女を見つめる。
言葉使いは大人のそれだが、見た目はとても幼く、ニーナ様よりも小さなとてもかわいらしい少女。
「この姿は仮の姿なのです」
「えっ!」
「すみません。あなたの心を覗かせていただきました」
「そう、ですか」
これは、隠し事なんてできそうもないな。
そうとわかれば素直に聞いてみる事にしよう。
「適応力が高いのですね」
「あり得ない事が続きましたから。それでは……ユーグリッシュ様」
「なんでしょうか?」
「そのお姿は仮の姿だと仰いましたが、それは魔力が尽きかけていた事と関係があるのですか?」
「えぇ、その通りです。元の姿を維持する事ができないくらいに、今は魔力を消費してしまっていました。先ほどまでは、姿を見せる事すらできなかったのです」
「今は?」
「あなたの魔力、【緑魔法】の力が込められた魔力を頂けた事で、今の姿にまで回復する事ができました。本当にありがとうございます」
今のユーグリッシュ様に頭を下げられるのはどうもむず痒い気がする。少女に頭を下げてもらっているからだ。
僕の感情も伝わったのだろう、顔を上げたユーグリッシュ様は少し困ったような表情を浮かべていた。
「……次ですが、ここはどこなんですか?」
微妙になってしまった雰囲気を変えるため、僕は次の質問を口にする。
「ここは私の精神世界になります。あなたの肉体はライブラッド王国の王城、その中庭で横になっています。外傷をありませんし、精神にもダメージはありませんのでご安心ください」
この場所の事について聞いただけだが、次の質問にまで答えてもらえた。
どうやら僕は、まだ死んではいないようだ。
「危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「い、いえ! ユーグリッシュ様を助けると決めたのは僕ですし、僕みたいな役立たずが役に立つなら命くらい――」
「役立たずだなどと、私は思っておりません!」
僕の言葉が気に喰わなかったのか、ユーグリッシュ様は少し強めの語気でそう口にした。
驚いて瞬きを繰り返していると、ゆっくりと近づきながら声を掛けてくれた。
「私には、あなたの【緑魔法】が必要です。そして、【緑魔法】の使い方を教える事ができます」
ユーグリッシュ様の言葉に、僕は大きな驚きと可能性を見い出した。
アルスラーダ帝国ではどれだけ調べても出てこなかった。
ライブラッド王国ではニーナ様が調べていたが、神木を復活させるために必要だという事しかわからなかった。
そんな【緑魔法】の使い方を、知る事ができる?
「【緑魔法】は唯一無二です。あなたは、誰よりも強い者になれる可能性を秘めているのですよ?」
「……僕が、誰よりも強く?」
……はは、さすがにそれは、信じられないな。
ならばどうして僕は虐げられてきたのだろう。役立たずだと言われ続けてきたのだろう。処分されそうになったのだろう。
「色を冠するスキルは数百年に一度しか現れないと言われています。文献に残されていないのは、仕方がない事なのです」
「……そう、なんですね」
こういう時、心の覗く事ができるユーグリッシュ様を少し卑怯だと思ってしまう。
……あぁ、この言葉すらも見えてしまっているだよね。
「……申し訳ございません」
「いえ、いいんです。……長い間自暴自棄になっていたので、すぐには自分の存在価値を認める事ができないだけなので」
頭の中を整理するには時間が少なすぎる。
だけど、この場で僕がやるべき事ははっきりしていた。
「……ユーグリッシュ様」
「はい」
「僕に――【緑魔法】の使い方を教えてください!」
決意を込めた僕の言葉を受けて、ユーグリッシュ様は満面の笑みを浮かべながら大きく頷いてくれた。
…………それに、気持ちがいい。
……僕は、死んだ、のか?
「起きてください、リッツ・アルスラーダ」
「――!」
名前を呼ばれた事で意識を取り戻した僕は、目を見開いて体を起こそうとする。
だが、僕は倒れていたわけではなく、立ったまま意識を失っていたようだ。
「……ここは、どこだ?」
目の前に存在していたはずの神木の姿はなく、さらに周囲の景色も王城の中庭ではなく、何もない真っ白な空間に変わっている。
何が起きているのか理解できなくなった僕へ、再び声が掛けられた。
「起きたようですね、リッツ・アルスラーダ」
声は後ろから聞こえてきた。
慌てて振り返ると、そこには初対面の少女が僕を真っすぐに見つめていた。
「……あの、君はいったい?」
「私の声、聞こえたのでしょう?」
「君の声? 僕の名前を呼んだ?」
「いいえ、違います。その前、私の声を聞いて、助けてくれたでしょう?」
その前だって? ……それは、僕が意識を失う前という事だろうか。
何が起きたのかを遡り考えていくと、少女が口にするタイミングがわかった気がする。
「……神木に魔力を注ぐ前、かな?」
僕の答えに少女は笑みを浮かべてコクンと一つ頷く。
そうなると、目の前の少女がそうなのだという事になるが、間違いないのかな。
「悩んでいるようですね」
「えっと……はい」
「うふふ。ですが、その悩みは無意味です。何故なら、私は間違いなく、あなたが助けてくれた神木ユーグリッシュなのですから」
ここまで来ると、あり得ないなんて思わなくなってきたかな。
そんな事もあるかと心の中で自分に落とし込み、改めて少女を見つめる。
言葉使いは大人のそれだが、見た目はとても幼く、ニーナ様よりも小さなとてもかわいらしい少女。
「この姿は仮の姿なのです」
「えっ!」
「すみません。あなたの心を覗かせていただきました」
「そう、ですか」
これは、隠し事なんてできそうもないな。
そうとわかれば素直に聞いてみる事にしよう。
「適応力が高いのですね」
「あり得ない事が続きましたから。それでは……ユーグリッシュ様」
「なんでしょうか?」
「そのお姿は仮の姿だと仰いましたが、それは魔力が尽きかけていた事と関係があるのですか?」
「えぇ、その通りです。元の姿を維持する事ができないくらいに、今は魔力を消費してしまっていました。先ほどまでは、姿を見せる事すらできなかったのです」
「今は?」
「あなたの魔力、【緑魔法】の力が込められた魔力を頂けた事で、今の姿にまで回復する事ができました。本当にありがとうございます」
今のユーグリッシュ様に頭を下げられるのはどうもむず痒い気がする。少女に頭を下げてもらっているからだ。
僕の感情も伝わったのだろう、顔を上げたユーグリッシュ様は少し困ったような表情を浮かべていた。
「……次ですが、ここはどこなんですか?」
微妙になってしまった雰囲気を変えるため、僕は次の質問を口にする。
「ここは私の精神世界になります。あなたの肉体はライブラッド王国の王城、その中庭で横になっています。外傷をありませんし、精神にもダメージはありませんのでご安心ください」
この場所の事について聞いただけだが、次の質問にまで答えてもらえた。
どうやら僕は、まだ死んではいないようだ。
「危険な目に遭わせてしまい、本当に申し訳ございませんでした」
「い、いえ! ユーグリッシュ様を助けると決めたのは僕ですし、僕みたいな役立たずが役に立つなら命くらい――」
「役立たずだなどと、私は思っておりません!」
僕の言葉が気に喰わなかったのか、ユーグリッシュ様は少し強めの語気でそう口にした。
驚いて瞬きを繰り返していると、ゆっくりと近づきながら声を掛けてくれた。
「私には、あなたの【緑魔法】が必要です。そして、【緑魔法】の使い方を教える事ができます」
ユーグリッシュ様の言葉に、僕は大きな驚きと可能性を見い出した。
アルスラーダ帝国ではどれだけ調べても出てこなかった。
ライブラッド王国ではニーナ様が調べていたが、神木を復活させるために必要だという事しかわからなかった。
そんな【緑魔法】の使い方を、知る事ができる?
「【緑魔法】は唯一無二です。あなたは、誰よりも強い者になれる可能性を秘めているのですよ?」
「……僕が、誰よりも強く?」
……はは、さすがにそれは、信じられないな。
ならばどうして僕は虐げられてきたのだろう。役立たずだと言われ続けてきたのだろう。処分されそうになったのだろう。
「色を冠するスキルは数百年に一度しか現れないと言われています。文献に残されていないのは、仕方がない事なのです」
「……そう、なんですね」
こういう時、心の覗く事ができるユーグリッシュ様を少し卑怯だと思ってしまう。
……あぁ、この言葉すらも見えてしまっているだよね。
「……申し訳ございません」
「いえ、いいんです。……長い間自暴自棄になっていたので、すぐには自分の存在価値を認める事ができないだけなので」
頭の中を整理するには時間が少なすぎる。
だけど、この場で僕がやるべき事ははっきりしていた。
「……ユーグリッシュ様」
「はい」
「僕に――【緑魔法】の使い方を教えてください!」
決意を込めた僕の言葉を受けて、ユーグリッシュ様は満面の笑みを浮かべながら大きく頷いてくれた。
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